立田慶裕編著「読書教育のすすめ」が『全私学新聞』の書評に掲載されました。 - 2024.02.22
大衆娯楽と文化
個人尊重を第一義とする現代社会のあり方から言えば、支配層が考える高級文化と、より価値の低い大衆文化という分け方は必要がない。しかし、現在でも、さまざまな理由で大衆文化という分類が使われているし、大衆文化をより低いものと見る人々が存在する。社会の近代化とともにある大衆文化は、人々の日常生活の営みから政治・経済・文化といった活動への関わりまで広い範囲にわたる。本書では余暇時間の生活と娯楽という側面から芸術・芸能について、特に音楽の分野を取り上げた。大衆文化ということは以前の芸術という概念にも高級、低級の評価が付きまとっており、そのような価値判断は今日も続いている。20世紀以後、大衆音楽に分類される音楽としては、日本の場合だけでなく、人種問題を含むアメリカ合衆国のジャズ、R&Bなど、対抗文化としての性格を持っていたロック・ミュージックについて歴史的、社会的にたどってみた。大衆音楽を単に聴くだけでなく、社会との関わりについて考えるきっかけになれば幸いである。
第1章 大衆社会と娯楽
一 大衆の時代の出現
産業革命による変化/日本の産業化/都市部のレジャー
/大衆の時代
二 二つの大戦間と大衆の娯楽メディア
第一次世界大戦後の政治や社会/欧米スタイルの演芸場
/ドイツの映画と大衆社会/日本の映画と大衆社会/
サイレント映画の発展/映画と他メディアとの相乗作用
/時代劇映画や文芸映画と世相/娯楽メディアとして発
展する放送/ラジオのスポーツ中継番組/ラジオ時代と
聴取者
第2章 近代社会の芸術と文化
一 芸術をめぐるヨーロッパの動き
(一)芸術概念の成立以前
ロマネスク期のArt/ルネサンス期のArt/
17世紀以後の工芸技術
(二)ヨーロッパ社会体制と芸術
18世紀ヨーロッパの芸術概念/19世紀ヨーロッパ社会の変化
二 大衆社会以後の文化への評価
(一)マス・メディアが送り出す文化の特質
(二)マス・カルチャーとハイ・カルチャーという分類
ハイ・カルチャーの特質/音楽の集中的聴取の誕生
/ポピュラー芸術の価値
(三)アカデミズムやマス・カルチャーに対する動き
(四)サブカルチャーと対抗文化の周辺
大衆文化をめぐる状況/日本の伝統とサブカルチャー
/対抗文化・サブカルチャーの動き/
マス・カルチャーやサブカルチャーの変化
第3章 日本の近世以後の芸能
一 日本人の教養と娯楽
芸能、および遊芸/庶民の生活と娯楽/
歌舞伎その他の娯楽文化
二 近代の庶民の娯楽
(一)伝統的な芸能
明治期の芸能/第二次世界大戦後の芸能
(二)新しい娯楽メディアの出現
明治期以後の娯楽メディア/大正期以後のマス・メディア
(三)娯楽文化と日本人
文化活動と統制/第二次世界大戦後の日本人の意識とメディア
(四)娯楽としてのマスコミ文化
ラジオ番組の変化/漫画、およびアニメ文化
/テレビメディアへの高い評価/
娯楽メディアとライフスタイルの変化
第4章 日本の大衆文化としての音楽
一 近代大衆音楽のはじまり
演歌の登場/壮士節から書生節へ/「唱歌」の浸透/
レコードや映画と流行歌/流行に結ぴついたさまざまなこと
二 大衆音楽は和洋の両立へ
西洋音楽とダンスの受容/日常生活に入り込む洋風音楽/
娯楽メディアと結びついた大衆音楽
三 第二次世界大戦後の変化
明治維新に次ぐ欧米文化の流入/戦後の放送と大衆音楽/
大衆の歌の多様化/大衆音楽の発展/
日本の大衆音楽のかたち
第5章 ジャズ、ロック以後の大衆音楽と社会
一 黒人が作り出したジャズとその発展
ジャズ誕生の基盤/ジャズの生成/スイングとアメリカ社会/
1940年代以降のジャズの変化
ニ ロックンロールの誕生と多様化
ロック・ミュージックの生成/
規制の対象となったロックンロール/
イギリスのロック・ミュージック/
E.プレスリーとビートルズの揺籃期/
大衆音楽の発展とロック/大衆音楽と複製技術の進歩
三 ポップ・ミュージックとその周辺
米国から見たポップ・ミュージックの特徴/
ポップミュージックとラジオのDJ/
日本のロック・ミュージック/ソング・ライターの活躍/
ヒット曲の一角に映画音楽/次々誕生するスター歌手/
伝統の骨組みと大衆音楽