増補版 現代経営用語の基礎知識
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■対外直接投資 
海外直接投資(FDI: foreign direct investment)と同義語であり,企業が海外において生産や販売の拠点を設け,その経営を自ら行うための投資を意味する.一方,海外への証券投資など株式配当やその値上り益を目的とした投資は対外(海外)間接投資とよばれている.
 対外直接投資には大きく2つの類型がある.資源開発型と市場志向型である.資源開発型とは資源開発を目的とした直接投資のことであり,通常は安価な原材料を求めて先進国の多国籍企業が発展途上国に対して行っている.他方,市場志向型とは販売先を確保することを目的としたものである.ただし,この場合には単なる販売拠点を設けるだけではなく,販売と結びついた生産拠点の設立も含んでいる.
 ところで,現状の対外直接投資については「先進国から先進国」へ行われるものが大半を占めている.その理由は,まず,昨今の対外直接投資は,ほとんどが市場志向型だということである.実際,現在の対外直接投資の多くは,販売先を確保することに重点が置かれている.どうしても市場志向型では,購買力のある先進国市場を対象にしたものが過半となる.しかも,販売先にできるだけ近い場所,ないしは販売先の先進国内へ直接,販売や生産の拠点を置くことが多くなっている.このタイプの対外直接投資は,アメリカとヨーロッパの間での相互投資に顕著であり,アメリカとEUの間で実施される対外投資の合計額は世界全体の3割強に達している.ついで,先進国相互の対外直接投資が大きくなる理由は,多国籍企業の企業内国際分業が盛んなことである.豊富な資金力と高い技術水準をもつ多国籍企業はこれらの利点が活かせる先進国へ積極的に進出し,かつ,先進各国間で最終製品の水平貿易を進めてきたのである.→海外生産,企業内国際分業,多国籍企業[加藤 巌]

■大学発ベンチャー(university-launched venture)たいかくはつ 
大学をはじめとする高等教育機関の経営資源を活用して新たに設立された革新的企業のことである.大学の経営資源を民間企業の創設に活用するという意味で産学連携の一形態といえよう.大学発ベンチャーに関しては,1990年代初頭のバブル経済崩壊以降,ベンチャービジネスの輩出を通じた新産業創出の中心的手段として高い関心が寄せられてきたが,実際のところその設立件数は決して多くなかった.ところが,2001年,経済産業省が「新市場・雇用創出に向けた重点プラン」を発表し,その中で具体的な大学発ベンチャー創出計画を示したことを機に,大学発ベンチャーに対する関心がさらに高まるとともに,その設立件数も急増した.経済産業省による計画とは,「(2001年から)大学発の特許取得件数を10年間で10倍,大学発ベンチャー企業を3年間で1,000社にすることを目標に,大学研究における競争導入を徹底的に進めるとともに,大学等の組織運営改革や『学』から『産』への技術移転戦略の構築を急ぐ」というものである.
 なお,文部科学省の事業の一環として筑波大学先端学際領域研究センターがまとめた「大学発ベンチャーの現状と課題に関する調査研究」(2001)によると,大学発ベンチャーは次の4タイプに分類される.@大学等または大学等の教員が所有する特許を基に起業(特許による技術移転型),(2)大学等で達成された研究成果または習得した技術等に基づいて起業(特許以外による技術移転または研究成果活用型),(3)大学等の教員や技術系職員,学生等がベンチャー企業の設立者となったり,その設立に深く関与したりした起業(人材移転型),(4)大学等やTLO(Technology Licensing Organization)がベンチャー企業設立に際して出資または出資の斡旋をした場合(出資型).以上のように,大学における研究成果や人材,資金等を活用することにより,高度な技術あるいはビジネス手法を備えた新設企業のことを大学発ベンチャーという.→産学連携,TLO,ベンチャービジネス[関根雅則]

■大企業病たいききよう 
企業が規模の拡大に伴い,イノベーション能力を喪失することを意味する.大企業病に陥る原因としては,組織の官僚化や組織文化の固定化などの問題が存在する.まず,前者についてであるが,企業規模が拡大すると,各部門あるいは個人が担当する職務の細分化(役割分担の明確化)が進行すると同時に,組織構造が階層化する.この職務の細分化と組織構造の階層化は,各部門あるいは個人が与えられた職務だけに傾注し他の職務には関心を払わないというセクショナリズムを生起させ,部門間あるいは個人間のコミュニケーションを困難にしてしまう.その結果,市場環境の変化など必要な情報が企業全体に行き渡らなくなり,イノベーションが滞ってしまうことになる.次に,後者の組織文化についてであるが,組織文化とは従業員が共有する価値観を意味する.これは従業員が意思決定し行動するさいの規範として作用するため,過度に強く根付きすぎると従業員の意思決定や行動を一定のかたちに束縛する.結果,環境変化に応じた従業員の柔軟な対応を必要とするイノベーションを生じにくくしてしまうのである.以上のように,規模の拡大によって,企業が環境の変化に機敏に対応できなくなることを大企業病という.→イノベーション,官僚制[関根雅則]

■大規模小売店舗立地法(大店立地法)たいきほこう 
大規模小売店舗法の撤廃により,大型店の立地に関し,周辺の環境と調和を図っていくことを目的に制定された法律(2000年6月1日施行).調整対象となる大型店は店舗面積1,000m2以上のものである.同法施行以降,大型店出店は,交通渋滞,交通安全,駐車・駐輪,騒音,廃棄物など地元住民に対する生活環境への影響を中心に審査・調整される.審査・調整に要する期間は1年以内となっており,地域住民の意見を反映しつつ,審査される.
 同法は公正かつ透明な手続きによって問題解決を図るために,国が定めるルールに従って,地方自治体が地域の実情に応じた運用を行うことのできる制度となっており,大型店出店は都市計画上の判断によりその可否が決定される.大規模小売店舗法が地元小売業者への影響と消費者利益の保護を基準に出店調整を行ったのとは,発想が異なっている.
 中心市街地活性化法 (1998年),改正都市計画化法(1998年)とともに大店立地法は,街づくり関連3法とよばれている.中心市街地活性化法は,市区町村が策定した基本計画に基づきタウンマネジメント機関が行う商業・サービス施設,駐車場,コミュニティ施設等に利便施設および道路,公共施設等の都市基盤施設を一体的に整備するために制定された.改正都市計画化法により,11種類に限定されていた特別用途地域の種類も地域の判断で柔軟に設定できるようになっている.たとえば,「中心小売店舗地区」を設けることにより,一定以上の規模の店舗立地を制限することが可能となる.こうした制度改正により大型店立地の可否は,地域の街づくりの視点からの判断によってあらかじめきめ細かく決められるようになった.[和田耕治]

■第五世代コンピュータ 
コンピュータは,その論理素子の違いによって世代を分けることができる.まず,真空管が利用された1951年から1958年を第一世代,トランジスターやダイオードが利用された1959年から1964年を第二世代,ICが利用された1965年から1970年を第三世代,そしてLSIやVLSIが利用されている1971年から現代までを第四世代とよんでいる.第五世代コンピュータとは次世代型コンピュータであり,論理素子のハードウェア的転換ばかりでなく,ノイマン型から並列処理の非ノイマン型へのアーキテクチャ変更も含まれる.この世代交代により,人間と同様の推論機能や会話機能を有するいわゆる「考えるコンピュータ」の開発も可能となる.[福多裕志]

■第三セクター(third sector) 
わが国では,広義には公共部門(第一セクター)と民間部門(第二セクター)の混合した事業組織形態を意味する.これに対して欧米では,民間非営利組織(NPO)を第三セクター(third sector)と表現することが広く認知されている.それはNPOを,公共部門と営利部門の両方に肩を並べる主要な社会セクターとして評価しているあらわれといえる.
 わが国での第三セクターの具体的事例としては,地方自治体と地元の民間企業・経済団体が共同出資する株式会社形態を意味する場合が多い.国鉄民営化時の赤字ローカル線の引受け母体として全国各地で設立されたほか,工場誘致のための大規模工業団地造成事業によって注目を浴びる第三セクターが,以前からあった.最近では,地元の観光振興やレジャー施設の運営,各種の地域開発事業を営むものが目立つ.狭義の意味でいえば,第三セクターは,こうした地域における公私混合の株式会社形態をさすといえよう.現実には,バブル経済期に手がけた開発事業が失敗して窮地に陥っている事例も多い.→NPO, 民営化[井上照幸]

■第三のイタリア(the third Italy) 
イタリアの北部から中部にかけての地域に,製造業を中心に中小企業が集積し,企画・デザインから製造,販売までの相互補完的な分業関係を形成することで世界的に競争力のある地域経済が形成された.この地域経済を総称して,第三のイタリアとよばれるようになった.日本の系列関係のように,コアとなる大企業によって階層的に編成されたものとは異なり,対等の関係にある中小企業どうしがコーディネーターによってネットワーク化されたものである.多品種少量生産が可能であり,景気変動や売れ筋の変化にも弾力的に対応できる分業構造である.また,継続的な発展が可能になるような,人材の教育・訓練,技術や情報の共有,新企業育成のインキュベーター機能などのインフラをその地域経済圏の中に組み込んでいる.ここで形成されているシステムは,大企業による大量生産体制の対極にあるものであり,中小企業からなる地域経済の発展のモデルとなっている.→産業集積[小阪隆秀]

■第三の波(the third wave) 
持続型エネルギー体系や物質代謝型生産・消費体系など新しい技術体系が出現するのに伴い,自然との共存関係が形成され,生産も市場経済を媒介した大量生産ではなく,自家消費のための生産,すなわち生産=消費(pro-consumption)型に移行する.それに伴い,社会もマス化した大衆社会から分散と非集中の非マス化の方向へと移行する.このような新しい社会を,アメリカの未来学者トフラー(A. Toffler, 1928〜) は,第三の波と表現した.彼は,人類が歩んできた過去とこれから生じてくる未来を大きく3つの波として捉えた.第一の波は農業革命であり,その完成に数千年を要した.第二の波は産業革命であり,それにはわずか300年を要したに過ぎなかった.そして現在押し寄せてきている波が第三の波であり,加速する歴史の中で,その完成には数十年もかからないかもしれない,とトフラーは予測する.[小阪隆秀]

■第三分野の保険たいさんふん 
生命保険(第一分野)と損害保険(第二分野)の中間領域に位置する保険のこと.具体的には,傷害保険・疾病保険・介護保険があげられる.
 これらの保険については,生命保険と損害保険のいずれに属するのかという論争が長い間行われてきた.というのも,旧保険業法では保険を生命保険と損害保険の2つに分けて定義していたからである.ところが,第三分野において生損保の取扱い商品に同質化がみられるとともに,定額性(生命保険)や損害てん補性(損害保険)に基づく両者間の分野調整の意識が低下し,加えて諸外国では子会社・持株会社方式による生損保兼営が実質的に認められていることなどから,わが国でも1996年の改正業法により第三分野の保険に関する定義が明文化され,生損保本体による第三分野への参入が承認されることになった.ただし,第三分野への経営依存度が高い会社の経営に急激な変化をもたらし,当該会社の事業の健全性を損なうことがないよう,当面,生損保子会社による第三分野への参入を制限するなどの激変緩和措置が講じられた(附則第121条.ただし,後に削除).しかし,わが国においては少子高齢化社会が深刻化しているため,この第三分野への消費者ニーズが高い.激変緩和措置が解除された今,各保険会社は当該分野に注目した商品開発を行っている.→保険業法[恩蔵三穂]

■大証ヘラクレス(Osaka Securities Exchange "Hercules")たいしようへ 
大証ヘラクレス(旧ナスダック・ジャパン)は,これから成長が期待できるベンチャー企業育成のため,株式公開基準を緩和させた「新興企業向け市場」のひとつとして,2000年5月,大阪証券取引所とナスダックとの共同経営で創設された市場である.2002年12月に,大阪証券取引所が,ナスダック・ジャパンとの業務協力契約を解消したために,現在,ニッポン・ニュー・マーケット“大証ヘラクレス”と衣替えをして,これまで旧ナスダック・ジャパンに上場していた会社の株主や投資家は,これまでと同様「大証ヘラクレス」で売買を行う.大証ヘラクレスでは収益性に特長のある企業では利益,資産性に特長のある企業では純資産,市場性(規模)に特長ある企業では時価総額等を重視している.いずれの基準で上場してもヘラクレス上場企業として扱われる.[三浦后美]

■退職給付会計(accounting for retirement benefits) 
企業が負担する将来の企業年金等の積立状況を適切に開示するための会計である.年金会計ともいう.わが国では,1998年6月に企業会計審議会から「退職給付に係る会計基準に関する意見書」が公表され,退職一時金および企業年金にかかわる包括的な会計基準が整備され,2000年4月以降の事業年度から実施されている.
 企業の退職給付制度は,従業員の退職時に企業が直接給付する退職一時金と,厚生年金基金制度や適格退職年金制度に代表される企業年金とに別けられるが,退職給付会計では両者をあわせて退職給付とし,一括した会計処理を適用するものとした.具体的には,@企業が将来負担する退職給付については,一定の割引率等で現在価値に割引,退職給付債務を計算する.(2)企業によって積み立てられた年金資産には時価会計を適用し,それを退職給付債務から控除する.ただし,年金資産が年金給付債務を超過する額は控除できない.(3)年金資産を控除した後の退職給付債務は,退職給与引当金の勘定科目をもって貸借対照表上の負債の部に計上するとなっている.→時価会計[大野智弘]

■第二創業 
企業が,創業期から当該企業の中核的な存在であった事業に代わる新たな事業を確立し再出発することを意味する.プロダクト・ライフサイクルの考え方に基づけば,ひとつの事業は導入期から成長期,成熟期を経て,やがて衰退期へと至る.したがって,創業以降,単一の事業しか手掛けていないとすれば,企業はその事業の衰退とともに寿命を迎えることになる.第二創業とは,そのような事態を回避すべく事業転換を図り,新製品・新市場を開拓することである.しかし,企業にとってそれまで収益の柱であった事業を否定し,新たな事業を確立することは容易ではない.したがって,第二創業は創業者が第一線を退いた後に経営を引き継いだ人物によって実現されるケースが多い.→プロダクト・ライフ・サイクル[関根雅則]

■ダイベスティチャー/ダイベストメント(divestiture/divestment)たいへすてい 
企業がその事業部門や子会社を売却あるいは切り離す手法のこと.これはまず,対象となる事業部門や子会社を資産・営業として売却するのか,子会社(あるいは子会社化された事業部門,以下同じ)の株式を売却するのかに大別される.前者の,資産・営業の売却は,事業部門や子会社の資産,あるいはその有機的組織体としての営業を売却する手法であり,通常,営業譲渡として行われることが多い.
 後者の,株式の売却は,売却先の点でさらに,@特定の買収者への売却,(2)スピン・オフ,(3)エクイティ・カーブ・アウトに分けられる.@特定の買収者への売却とは,子会社の株式を,買収を目的とした1人あるいは1グループの者に売却する手法である.売却先(買収者)としては,(a)既存の企業,(b)その部門や子会社の経営責任者,(c)既存企業以外の買収・投資家グループがある.いずれもM&Aでの売却であり,(b)はとくにマネジメント・バイアウトといわれる.(2)と(3)は,子会社の株式を,買収を目的としない多数の者に売却する手法である.売却先としては,(d)元の会社の株主,(e)一般投資家(市場)があり,これらは,M&A以外での売却である.(2)スピン・オフは,親会社が子会社の株式を自社の株主に分配する企業分割の手法である.この場合,元の(親)会社Pと分割された(子)会社Sは,P社の株主を共通にもつ兄弟会社となる(PとSの関係:親子→兄弟).(3)エクイティ・カーブ・アウトは,親会社が子会社の株式の50%未満を一般投資家に売り出す手法である.これは,支配権を確保した範囲での子会社株の市場売却であり,通常,子会社株式の公開として行われる.
 なお,いわゆる分社化は,従来の事業部門の子(別)会社化であり,親会社はその株式を売却しないため,通常,ダイベスティチャーには含まれない.→M&A,事業部制,マネジメント・バイアウト[文堂弘之]

■大量生産方式(mass production system)たいりようせ 「
大量生産」という言葉が最初に使われたのは,1926年版の『ブリタニカ百科事典』においてである.この項目は,ヘンリー・フォード(H. Ford)が執筆したことになっているが,実はフォード社のスポークスマンだったキャメロンが執筆したものであった.ともかく,この百科事典の記述によって,「大量生産」という用語がそれまでの「フォーディズム」という表現に代わって一般化することになった.とはいえ,この百科事典の定義では,大量生産が「大衆」に向けた生産であるのか,あるいは単なる「量産」を意味するものなのか必ずしも明確にはなっていない.
 大量生産を大衆向けの機械による量産と定義すると,これは一般にイギリス産業革命によって達成されたと考えられるかもしれない.しかし,イギリス産業革命の中心をなした綿業の工場(とりわけ紡績工場)と当時の機械工場とは,その内部構造がいちじるしく異なっており,後者は注文によって何でも手がける多品種少量生産型の工場となっていた.また,ここにおける工作機械は,機械製品が多くの部品によって構成されているために,調節によって広範な作業を行うことのできる汎用機(半自動機械)とならざるをえなかった.このように,当時はまだ機械の大量生産は行われておらず,これはその後,アメリカ産業革命の過程で生まれたさまざまな要素を統合することによって,20世紀初頭に実現されることになるのである.これを実現したのは,世界初の本格的大衆車「T型車」を生み出したフォード社であった.同社ではコスト低減のために,まず銃器工業で生み出された互換性生産方式と,自転車工業で生み出された薄鋼板のプレス技術を導入することによって,すり合わせ不要な部品の量産を実現した.そして,ベルト・コンベアに基づく移動組立ラインを導入することによって,残されたボトルネックであった製品のスムーズな組立という問題を解決し,ここにいわゆる大量生産方式が完成するに至ったのである.→フォーディズム,フォード,フォード生産方式[那須野公人]

■ダウンサイジング(downsizing)たうんさいし 
小型化,縮小化のこと.とくに,コンピュータを中心とした情報関連機器の小型化を意味する.すなわち,従来はメインフレーム中心に行っていた集中処理を,ワークステーションやパソコンなどをネットワークで接続した分散処理に移行することをいう.これにより,情報システム関連の膨大なコストの削減が可能になった.ダウンサイジング実現の背景には,マイクロエレクトロニクス技術,ネットワーク技術の進展によるコスト・パフォーマンスのよい小型機の登場,エンドユーザー・コンピューティングの高まりなどがある.[岸●理子]

■多角化戦略(diversification strategy) 
既存事業に新たな事業を追加することによって,自社の製品―市場領域を拡大しようとする戦略.企業成長に向けた重要な戦略オプションのひとつと位置づけられ,既存事業の収益性低下への懸念を契機として,あるいはリスクの分散や未利用資源の有効活用を狙って進められることが多い.
 多角化戦略は,既存事業との関連の度合いに応じて,関連型多角化と非関連型多角化に大きく分けられる.関連型多角化とは,企業を構成する各事業が製品・生産技術,流通チャネルなどの経営資源を共有しているような形の多角化である.それに対して,非関連型多角化は,一般性の高い経営管理ノウハウや財務的資源を除いて,事業間での関連性が希薄なタイプの多角化をさす.また,多角化戦略は,資源展開のあり方によって,少数の資源を複数事業で相互に共有し合うタイプの集約型と,保有する資源に基づいて新しい事業に進出し,その新分野で蓄積した資源を土台としてさらに新しい分野へ進出するという拡散型に分類される.
 これまでの研究においては,多角化戦略の有効性をめぐってこうした多角化のタイプと経営成果との関係についてさまざまな考察がなされてきた.そこでは全体として@主力事業だけに限定して事業展開している企業や非関連型多角化を推進している企業に比べて,関連型多角化を行っている企業の収益性が相対的に高い,(2)集約型の多角化を行っている企業は成長性・収益性ともに相対的に高い,という2つの結論が明らかにされてきた.このように関連・集約型多角化の経営成果が高いのは,事業間でのシナジー効果が強く働くためであるといわれている.シナジー効果は,主として経営資源を複数の事業で共通利用することから生まれる.ゆえに,企業にとっては基盤技術を応用できる,既存の生産設備・流通チャネルなどを共通利用できる,あるいは既存事業で築いたブランドや評判を波及させることができるような事業分野へと多角化を展開していくことが重要になる.→シナジー効果[清水 馨]

■DAGMAR(Defining Advertising Goals for Measured Advertising Results) 
コーレイ(R. H. Colley)(1961)の著書の頭文字からとられた造語である.通常ダグマーとよび,日本語に訳すと「目標による広告管理」となる.DAGMARの特徴は,広告効果をコミュニケーション効果(たとえば製品の知名率,製品属性に関する理解率,製品属性に関する評価,製品に関する購入意向など)として測定しようとしている点に求めることができる.DAGMARモデルによると,広告に接した消費者は,製品やサービスについてまったく未知の状態から,認知→理解→確信→行動へと段階的に移行することで購買へと至るものと仮定している.ここでは広告の目標を売上高のような最終目標にとどめるのではなく,広告の露出によって消費者の心理的な変化がこれら5各段階(コミュニケーション・スペクトラム)においてどれくらい達成されているかを測定することで,広告の効果を把握しようとする.
 DAGMARモデルについては,「広告は必ずしもこの5段階のレベルに沿って作用するとはいえない」あるいは「広告目標をコミュニケーション・レベルに特化することは妥当ではない」などの批判もあった.しかし,コーレイの考え方は,広告を合理的な方法で管理することを提唱した点で高く評価されている.[木村達也]

■多工程持ち 
旋盤,フライス盤,ボール盤をといったように,いくつかの工程を構成する機械を,1人の作業者が担当する方式のことである.トヨタでは,生産性を向上させるために自働停止装置付の機械を使用している.この機械は,異常があれば自働的に停止することから,作業者は常にそこについている必要はなく,1人で複数の機械を担当することが可能となる.当初トヨタでは,1人の作業者がたとえば同じ旋盤を5台担当するといった「多数台持ち」という方式を採用していた.しかし,やがてムダな仕掛品をなくすために生産の流れを重視するようになり,これを「多工程持ち」へと発展させていった.→自働化,トヨタ生産方式[那須野公人]

■多国籍化過程 
企業の多国籍化とは通常,輸出から始まり,ライセンシング,そして海外直接投資,が行われることをいう.ただし,ライセンシングと海外直接投資は,その過程が逆になることも多い.
 一般に,輸出は国内需要を上回る供給がなされる場合に生じる多国籍化の初期形態である.ライセンシングは海外生産の固定費や経済的・政治的リスクが高い場合,または不確実な場合に選択される.海外直接投資は,@幼稚産業保護のための輸入代替政策や貿易制限的な政策などの貿易障壁,(2)生産コストの上昇と為替レートの変化による価格競争力の低下,(3)生産力増強,(4)現地の販売網構築,(5)需要地のニーズに合わせた商品開発,といったさまざまな要因から行われる.
 海外直接投資には主に先進国を対象として,輸出市場の安定・確保を目的とする商業投資,市場情報の収集や自社ブランドの確立のための販売網整備などを目的とした投資などがある.この場合,商社を介した輸出(間接輸出)→現地企業との提携による販売網の構築→自社による販売子会社の設立といったプロセスをたどる.
 もうひとつは主に発展途上国を対象として,安価な労働力を利用することを目的とする投資である.その生産工程で利用する生産技術は極めてロー・レベルなものである.さらに生産拠点としての海外進出が進むと,企業内国際分業を意識した生産投資が行われることになる.→海外生産,企業内国際分業[安田賢憲]

■多国籍企業(MNE:Multi National Enterprise/TNC:Trance National Corporation)たこくせきき 
複数の国に生産や販売の拠点を置き,国境を越えた活動を行う企業のこと.ただし,その定義はさまざまである.たとえば,国連は「2ヵ国以上で財やサービスの生産や販売に従事している企業」,また,ハーバード大学の多国籍企業プロジェクト・チームは「6ヵ国以上に子会社をもつ企業」と定義している.さらに,ヴァーノン(R. Vernon)は「多国籍企業とは6ヵ国以上で活動しており,売上高1億ドル以上.また,共通の所有者により結合され,全社的な共通戦略を有している.その資産は20%以上が海外子会社のものである」としている.
 近年の多国籍企業を特徴づけるのは,国際的な水平分業体制を押し進めていることである.たとえば,家電メーカーがA国でDVDプレイヤーを生産し,一方においてB国でテレビを生産して互いに貿易している.つまり,ある商品を1ヵ国で特化生産し,そこから輸出することでグローバルな「規模の経済」による費用低減効果を得るのである.こうした企業内国際分業の結果,親会社と海外子会社,もしくは子会社同士での貿易取引が増大しており,多国籍企業の取り扱う貿易量は現在,世界貿易の約半分ともいわれている.
 また,1990年代以降,多国籍企業は海外拠点の間をクモの巣が広く張られたような多角的なネットワークで結ぶようになっている.複線的な生産・販売ネットワークを活用し,情報の共有化や部品調達の地球規模での最適化を図っている.つまり,「世界最適調達」や「世界最適生産」の実現,さらには情報や技術を世界規模の複数分野に利用して生産コストを低減させていくのである.こうしたなか,有名な多国籍企業のブランド名がついていても,中身は多国籍化している商品(たとえば,日本メーカーのパソコンでも中身はシンガポールの部品が利用され実際の組立は台湾で行われる)などが数多く誕生している.すなわち,「部品の多国籍化現象」も始まっている.→規模の経済,世界最適調達,多国籍化過程[加藤 巌]

■立会外取引たちあいかい 
通常の取引時間外に株式を売買する制度である.東京証券取引所は,大口・バスケット取引を対象として1997年11月から実施しており,現在,これは機関投資家向けのToSTNeT-1と,個人投資家向けのToSTNeT-2という電子取引システムよって行われている.前者の取引時間は8:20〜9:00,11:00〜12:30,15:00〜16:30であり,後者の取引時間は8:45,12:15,16:00である.取引価格は,一定の基準内に制限されている.大阪証券取引所も1999年1月よりJ-NETとよばれる電子取引システムで行っており,名古屋証券取引所は1998年9月から,やはり電子取引システムN-NETを稼働させている.立会外取引は急増している.[貞松 茂]

■タックス・ヘイブン(tax haven) 
租税回避地のことで,海外からの進出企業に税制上の優遇措置が与えられている国や地域のことをいう.多国籍企業は税を回避するためにバハマ,バーミューダ,バハレーン,パナマ,スイス,ルクセンブルクなどのタックス・ヘイブンに拠点を設置し,資金を調達・運用するための金融子会社(ペーパー・カンパニー)などを設立しているほか,ヘッジ・ファンドも巨額の投資資金を運用するために活発に進出している.
 税制上優遇措置としては,法人税などが原則としてゼロか(タックス・パラダイス:税天国),低税率,国外源泉所得が非課税,金融など特定業種所得軽減課税などがある.
 不透明な金融操作や振替価格操作のほかに,犯罪組織などのマネー・ロンダリング(資金洗浄)や脱税の温床になっているため,規制強化や企業への課税強化が検討されている.→トランスファー・プライス[田中友義]

■脱工業化社会(post industrial society) 
工業化社会が高度に発展してきた段階で,生産活動の中心が物質とエネルギーを大量に消費する財貨生産部門から,知識・情報・サービスを中心とする経済活動部門へと,産業の基盤が大きく移行することで新しく登場してきた社会.その意味でこの社会は,知識社会であり,情報社会であり,サービス社会である.工業化社会が機械と技術の合理的な組み合わせとして組織され,人間も物として扱われるような社会秩序を形成してきたのに対して,脱工業化社会は対人的サービス,専門職的サービス,技術サービスから成り立ち,協調と話し合いによる調整を中心とした共同体的な組織から構成されることになる.1960年代半ばにアメリカの社会学者ベル(D. Bell, 1919〜)によって主唱された.[小阪隆秀]

■多品種少量生産 
経営学・経済学における大量生産概念は,これまで一般に少品種大量生産を意味するものとして理解されてきた.産業革命以来,基本的な労働手段としての工作機械は,消費財の大量生産体制の発展に対応して,規模の経済性を実現しうるような方向,すなわち専用化の方向へと進化してきた.
 ところが,石油危機に伴う急激なスタグフレーションの進行は,不況下での物価騰貴によって消費者の買い控えをもたらし,企業は専用機による規模の経済性の追求から,合理化・省力化によってコスト低減に努めつつ,モデルの多様化・モデルチェンジの活発化によって積極的に需要を喚起する方向へと発想の転換を図らねばならなくなった.
 当時,エレクトロニクス技術の急速な発展によって,プログラムの変更で柔軟な制御を果たしうるNC装置が安定化し,かつ低価格化したことから,NC工作機械やこれに産業用ロボットを組み合わせたFMS(フレキシブル・マニュファクチュアリング・システム)が盛んに導入された.こうして,少品種大量生産から「多品種少量生産」への転換が急速に進展することになった.ただし,これは実は多品種中量生産,あるいは多品種大量生産であったともいわれている.→規模の経済,フォード生産方式,フレキシブル・マニュファクチュアリング・システム[那須野公人]

■WTO(World Trade Organization)たふるていお 
世界貿易機関のこと.WTO協定に基づいて,1995年1月に発足した,134ヵ国・地域(1999年2月)が加盟する多角的自由貿易体制を管理する中核機関である.約半世紀にわたって自由・多角・無差別の原則のもとに戦後の国際貿易体制を支えてきたGATT(関税と貿易に関する一般協定)の加盟国は1948年1月の成立当時は23ヵ国であったが,ウルグアイ・ラウンド終結時(1994年5月)には124ヵ国・国際機関に達していた.
 GATTは1947年以降8次にわたる一般関税交渉・多角的貿易交渉を通じて戦後の国際貿易の拡大に大きく寄与してきたが,WTOに発展的に吸収された.
 WTO協定で貿易に関する国際ルールを定め,WTOが協定の管理,運営を行うと同時に,新たな国際貿易の諸課題について検討する.具体的には,@WTO協定と多角的貿易協定の管理・運営,(2)多角的貿易交渉の場と実施の枠組みの提供,(3)紛争解決,(4)貿易政策検討制度の運用,(5)IMF,世界銀行,その他の関連機関との協力などを主な任務としている.
 WTOはGATTと比較してその機能が大幅に強化された.正式な国際機関として,法人格を与えられた.これまでのGATTの対象分野の中に,農業,繊維貿易に関するルールが協定化されたことやGATTの枠外であったサービス貿易やTRIP(貿易関連知的財産権)協定,TRIM(貿易関連投資措置)協定が含まれており,21世紀の国際貿易の状況に適合できる体制を整えた.また,紛争解決手続きが統一化されたことなど,機能が大幅に強化された.
 WTOシアトル閣僚会議(1999年11月末)で,2000年以降の次期貿易自由化交渉(新ラウンド)の対象分野と交渉方式が決まることになっていたが,合意に至らず閣僚会議は決裂し,会議の凍結が宣言された.→TRIM,TRIP[田中友義]

■多変量解析(multivariate analysis)たへんりよう 
統計学は,相互に関連するデータを収集,分析,解釈し,そのデータの背後にある現象構造を解明する科学である.多変量解析とは,個体の観測値が複数個からなる多変量データを解析する統計的手法である.代表的な手法として,重回帰分析,主成分分析,判別分析,因子分析,クラスター分析,数量化理論,正準相関分析,多次元尺度構成法等をあげることができ,これらの手法は,分析の目的,分析対象や観測データの属性により使い分けられる.多変量解析は,かつて大型汎用コンピュータを利用できる一部の人たちに限られていたが,コンピュータ技術の発展に伴い現在は,医学,農学,工学,心理学,言語学,社会学,経済学,経営学といった幅広い領域で多くの個人が応用できる手法となっている.[福多裕志]

■単一欧州議定書(SEA: Single European Act)たんいつおう 
ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)条約(パリ条約,1952年7月発効),EEC(欧州経済共同体)条約(ローマ条約,1958年1月発効),EAEC(欧州原子力共同体)条約(ローマ条約,1958年1月発効)の3条約をEC発足後30年ぶりに初めて大幅に改正した条約で,1986年2月調印,1987年7月発効した.条約改正の最大の狙いは,1992年末までに「モノ,ヒト,サービス,資本」の4つの分野の自由移動が確保される域内国境のない領域(域内市場)を完成することによってEU経済の活性化をはかることであった.1985年6月,ミラノ欧州理事会はEC委員会の「域内市場白書」を採択して市場統合を促進し,1980年代末から始まる統合のダイナミズムの再生に成功した.条約改正によって,EC委員会(現在の欧州委員会)が強化され,欧州議会に対して新規加盟国の承認と連合協定の締結についてEUの閣僚理事会との「共同決定権」が付与されることになった.また,閣僚理事会の意思決定手続きについては,全会一致による決定方式を減らし,加重特定多数決(国別加重票総数の一定割合を超える場合に決定が成立する)が大幅に追加され,欧州理事会に法的基礎が与えられたほか,欧州司法裁判所の下級審として第一審裁判所が設置された.さらに,域内市場,経済通貨政策協力(経済通貨同盟),社会政策,研究・技術開発,経済的社会的結束,環境政策など新しい分野が条約の中に盛り込まれた.→EU閣僚理事会,欧州議会,欧州司法裁判所,欧州理事会,経済通貨同盟,単一欧州市場[田中友義]

■単一欧州市場(Single European Market) 
EC加盟諸国の市場を分断している物理的障壁(域内国境の諸規制など),技術的障壁(基準・規格認証,資格などの非関税障壁),財政的障壁(付加価値税,消費税などの税制上の国境)を撤廃して,「モノ,ヒト,サービス,資本」の4つの自由移動が確保される域内国境のない領域と定義されるEUの統一市場のことで,域内市場とも称される.1970年代前半から1980年代前半までの約10年,EC経済は深刻な不況から保護主義的傾向が極度に強まり,ブロック経済化の方向へ向かう懸念が強まった.統合は停滞してしまっている間に,経済産業発展や高度先端技術開発などの分野で日本,アメリカに対するEC側の大幅な立ち遅れや,アジアNIESなどの急激な追い上げが強く認識されるようになった.1985年1月,ドロールEC委員長は,域内市場統合の必要性を強調して1985年6月,EC委員会(現在の欧州委員会)はミラノ欧州理事会に「域内市場白書」を提出し採択された.また1986年2月調印された「単一欧州議定書」は1992年末の市場統合の完成を規定した.域内市場白書は,270項目にのぼる物理的・技術的・財政的障壁を撤廃するための法令を採択し,EC各国がこれを実施することによって,単一市場による「規模の経済」(スケール・メリット)と自由競争による利益をフルに享受することが可能となって,EC経済の活性化ができるというものであった.1992年12月末までに270項目の95%がEU閣僚理事会によって法令として採択され,1993年1月1日単一欧州市場の完成が宣言された.しかしながら,電気通信分野,運輸サービスなど自由化が未完成の分野が依然として残されており,1997年6月のアムステルダム欧州理事会では18ヵ月間の「単一市場行動計画」を決定し,さらに2000年3月のリスボン欧州理事会は向こう5年間の域内市場政策の主要課題と達成期限を定めた「欧州域内市場戦略」を採択するなど,単一市場の完成のための取り組み努力が継続されている.→EU閣僚理事会,欧州委員会,欧州理事会,単一欧州議定書[田中友義]

■単元株式制度 
従来,1単位を5万円とする単位株式制度に基づいて株式が売買されていた.2001年の商法改正によって単元株式制度が導入され,単位株式制度が廃止された.単元株式制度とは,1単元の株式数を会社の定款によって自由に定めることができる.会社は,1単元ごとにひとつの議決権を株主に付与する.たとえば,会社が100株を1単元と定款で定めた場合,250株を保有している株主は2つの議決権を有する.1単元上限は1,000株以上もしくは発行済株式数の0.5%以上を超えてはならないという制限が設けられている.さらに,この制度によって1単位当たりの純資産額に関する規定が撤廃されたため,取引金額の低下によって不特定多数の投資家が株式市場に参加しやすい体制を築きあげたと考えられる.[森谷智子]

■談合 
入札にさいしてあらかじめ受注すべき者を話し合い等によって特定して,その者が受注できるようにすること.自由な競争による公正な価格の形成を害し,また不正な利益を獲得する危険性があることから,刑法第96条で禁止している.また,独占禁止法第2条6項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」および同法第3条の「不当な取引制限」が,談合を規制することを明らかにしている.しかし,談合においては,参加企業がその証拠を隠すためにメモなどの記録を残さないのが通常であり,また個別の共同行為について具体的な合意を直接の証拠によって立証することは一般的に困難である.
 政府は,1994(平成6)年1月に「公共事業の入札・契約手続等に関する行動計画」を策定し,入札における透明性と競争性を高めるための措置を明らかにした.さらに,公正取引委員会は,この政府の行動計画をうけて,同年7月,「公共的な入札に係る事業者および事業団体の活動に関する独占禁止法上の指針」を談合入札を防止するために公表した.[黒木松男]

■男女雇用機会均等法(equal employment opportunity act) 
雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保とともに,女性労働者の職業生活の充実を図るための法律.制定されたのは1985年であり,勤労婦人福祉法の改正として実現された(1986年施行).男女の均等な機会および待遇の確保のために,募集・採用,配置・昇進・教育訓練,福利厚生,定年・退職・解雇に関して,女性労働者に対して差別することを禁止している.同法は,1997年に一部改正され,女性労働者の時間外・休日労働や深夜業務の規制の解消や母性保護の強化などが盛り込まれた(1999年施行).また,セクシュアル・ハラスメントについても事業主の雇用上の管理義務が規定に盛り込まれている.だが,法律の制定だけで男女の雇用機会の均等が保障されるものではない.[小阪隆秀]

■ダンピング(dumping)たんひんく 
いちじるしく安い価格で商品またはサービスを販売すること.不当廉売ともよばれ,不公正な取引方法のひとつにあたり,独占禁止法第2条9項2号に基づく一般指定6項によって禁止されている.ダンピングは海外市場と国内市場で問題にされ,海外市場では,その国の市場に食い込むために,意図的に国内市場よりも大幅に安い価格で販売してダンピング輸出として問題になるケースが多い.ダンピング輸出かどうかは,内外価格差のほかに,輸入国の産業が被害を現実にこうむったかどうかが基準になる.これに対する制裁として,各国はダンピング防止関税を設けている.また,国内市場における不当廉売の事件としては,富士通のコンピュータ・システムの1円入札事件,パソコン計算ソフトの廉売事件,ダイエーの100円ビール事件(公正取引委員会による注意処分)およびガソリンスタンドでの廉売事件(公正取引委員会による警告処分)など社会的事件として取り上げられる場合がかなりある.[黒木松男]




■地域産業集積活性化法ちいきさんき 
わが国における特定産業集積の活性化を通じて地域産業の自律的な発展を図るために1997(平成9)年に施行された法律である.正式名称は,「特定産業集積の活性化に関する臨時措置法」.同法でいう特定産業集積とは,@基盤的産業集積(部品,金型,試作品等を製造する「モノづくり」の基盤となる地域の産業集積),および,(2)特定中小企業集積(「伝統的産地」「企業城下町」等で地域経済の中核をなす地域中小企業の産業集積)を指す.同法が適用されるまでのプロセスは,都道府県が国の活性化指針に従い活性化計画を作成,申請し,主務大臣の承認を受ける.その上で,事業者等は都道府県の活性化計画に従いそれぞれの計画を作成,申請し,知事の承認を受ける.承認をうけると,都道府県は産業インフラの整備等にあたって国から補助金がうけられる.また,事業者は技術開発や商品開発,販路開拓等にあたって国や県から補助金,低利融資,優遇税制などの支援をうけることができる.→産業集積[関根雅則]

■地域プラットフォーム(regional platform) 
各種産業支援機関をネットワーク化することにより,ワンストップで研究開発から事業化まで一貫して企業家を支援する総合支援体制である.1999(平成11)年に施行された新事業創出促進法に基づき,都道府県や政令指定都市が設置した中核的支援機関(中小企業振興公社などの財団)によって運営されている.その特徴は,中核的支援機関が,新事業支援機関,大学や研究所,金融機関(政府系を含む),商工団体,公的試験場,会計や法律の専門家等をネットワーク化しその要となることにより相談窓口を一本化していること,また,局所的な支援ではなく研究開発から事業化に至るまでの全プロセスを支援することである.具体的な支援事業の内容は次の通りである.@技術開発:事業化に結びつく研究開発を支援する,(2)技術移転:大学や研究所の研究成果をベンチャービジネスに移転する,(3)インキュベート:施設の提供を含めベンチャービジネスの立ち上がりを支援する,(4)資金供給:金融機関等からの資金調達を円滑化する,(5)経営指導:会計士や弁護士による財務・法務等の経営指導を行う,(6)販路拡大:商工団体等の協力を得てマーケティング支援を行う,Fリエゾン:技術シーズと人材・市場のマッチングを図る,G人材育成:インターンシップ等によりベンチャー人材を育成する.以上のように,企業家のあらゆる相談にワンストップで応じるのが地域プラットフォームである.→新事業創出促進法,日本新事業支援機関協議会[関根雅則]

■地域本社(regional headquarters) 
国際ビジネスを製品別事業部と地域別事業部のマトリックス構造でマネジメントするのがグローバル・マトリックス組織であるが,このそれぞれの地域別事業部に本社機能の一部を移転し,地域内の生産・販売拠点の相互補完関係を構築して地域にとけ込んだ事業を行うと同時に,地域間のグローバルな統合をも同時に達成しようとするのが地域本社,あるいは地域統括本社である.本来,地域本社は地域内の子会社の株式を保有する持株会社の形態をとる.アジア・ヨーロッパ・アメリカに地域本社を置いた3極体制や日本を含めた4極体制を採用している日本のグローバル企業は少なくない.→国際経営組織,マトリックス組織[池田芳彦]

■地球環境問題(global environment problem) 
地震や火山噴火などの自然現象に加え,近年の異常気象やフロンによるオゾン層の破壊,地球温暖化など地球環境をめぐる問題.これは,まさに地球的規模で発生する問題であり,対応のあり方によっては経済活動や社会生活に多大な影響をもたらし,人類の生存基盤をも脅かす重大な問題である.
 地球環境の問題を解決するには,地球の諸現象にかかわる科学的知見を得るとともに,人間と自然の調和した科学技術への取り組みが必要となる.たとえば,地球温暖化については,それにかかわる諸現象の解明をはじめ,地球観測衛星や海洋観測技術などの開発が総合的に進められている.オゾン層の破壊については,破壊代替物質の開発,分解・回収技術の開発の他に,大気中における特定フロンの反応,循環,消滅過程の研究が進められている.こうした地球的規模の研究にあたっては,国の枠組みを超え,グローバルな観点から協調しながら研究を進めていくテクノグローバリズムが重要な役割を果たすこととなる.→テクノグローバリズム[中原秀登]

■知識創造(knowledge creation)ちしきそうそ 
野中郁次郎が知の創造とマネジメントを理論化して展開したことでよく知られている.野中は以下のように説明している.
 日本企業の経営理論と実践における貢献は,組織的知識創造のひとつのパターンと組織原理を開発したことである.知識創造の基本は暗黙知と形式知のダイナミックな相互作用であり,それを促進する情報創造である.知識は情報と違って,信念,意図,目的とかかわっている.知識創造には暗黙知と形式知という2つの次元がある.暗黙知とは特定状況に関する個人的な知識で,形式化したり他人に伝えることがむずかしい性格をもっている.一方,形式知は言葉ではっきりと伝えることができる.
 人の知識は,暗黙知と形式知との社会的な相互作用によって創造拡大されるが,この知識変換には4つのモードがある.
(1)共同化:共通体験により個人の暗黙知からグループの暗黙知を創造する(修業など)
(2) 表出化:暗黙知から形式知を創造する(対話など)
(3) 連結化:個別の形式知から体系的な形式知を創造する(知識交換など)
(4) 内面化:形式知から暗黙知を創造する(文書化,行動学習など)
 個人の暗黙知がこれら4つの変換モードを通じてより組織的に増幅され,より高いレベルでの暗黙知へと拡大されることが,繰り返し行われることを知識スパイラルという.
 この組織的知識創造を促進する条件は,意図,自律性,ゆらぎと創造的なカオス,冗長性,最小有効多様性である.
 また,組織的知識創造は次の5つのフェイズを経て行われる.
 @暗黙知の共有(対話・体験→共感・信頼),(2)コンセプトの創造(メンタルモデル→言葉→コンセプト),(3)コンセプトの正当化(組織や社会にとって価値があるか),(4)原型の構築(プロトタイプ,モデル,模型,青写真などへの具体化),(5)知識の転移(他部門への広がり)→暗黙知,ミドル・マネジメント[松永美弘]

■知的所有権(intellectual property rights)ちてきしよゆ 
「文芸,美術,および著作権,実演,レコードおよび放送,人間活動のすべての分野における発明,科学的発見,意匠,商標,サービス・マークおよび商号その他の商業上の表示不正競争に対する保護に関する権利並びに産業,学術,文芸または美術の分野における知的活動から生じる他のすべての権利」(世界知的所有権機関:WIPO)と規定されるように,知的所有権は,人間の知的活動によって形成される無形財産を対象とする私法上の権利の総称である.
 今日,商品価値が物質上のハードからデザインやサービスなどソフトな部分へと変化しており,従来のハードを中心とした工業所有権での保護が十分でなくなりつつあることをはじめ,経済のグローバル化に伴い激化する技術摩擦に対して特許やノウハウなどの国際的な保護意識が高まってきたことから,知的所有権に関する問題意識が高まっている.今後,商品やサービスの基本的なコンセプトをめぐる問題が厳しくなる中で,知的所有権は技術摩擦など法律上の問題ばかりでなく,権利範囲の不明確さが新規のあるいは累積的な改良型の開発活動に対して障害をもたらすなど,技術移転や開発活動にとっても重要な問題となってくる.→ロイヤルティ[中原秀登]

■チーム組織ちむそしき 
チーム組織の代表としては,プロジェクト・チームやタスク・フォースがあげられる.これらの組織は,関係する部署から必要なときに必要な人材,そして必要な資源を集めて特定の目的のために編成され,その目的が達成されたときチームは解散するという一時的な性格をもっている.しかし,近年ではこのチーム組織の特長を生かして,柔軟性とスピードをもったハイパフォーマンスなチーム型組織が編成されている.つまり,情報ネットワークと結合して自律的な管理チームを中心とした,顧客志向のチーム組織とコントロール志向の職能部門制組織を統合するという新しい組織形態が模索されている.[高橋正泰]

■チャンドラー(Chandler, Alfred Dupont, Jr., 1918〜) 
アメリカの経営史学者.19世紀後半から20世紀初頭のアメリカ大企業の経営に焦点をあてた研究を進め,いくつもの重要な命題を導いた.彼は,Strategy and Structure,1962.(三菱経済研究所訳『経営戦略と組織』実業之日本社,1967年)において,デュポンやゼネラルモーターズなどの20世紀初頭のアメリカ大企業の成長史を考察し,集権的職能部制組織からどのように分権的事業部制組織が生まれたのかを明らかにした.そして,「組織構造は戦略に従う」との命題を導いた.その後,The Visible Hard,1977.(鳥羽欽一郎他訳『経営者の時代』東洋経済新報社,1977年)において,1840年代から1920年代までの時期に焦点を絞り,流通,鉄道,通信といった社会インフラの整備が進むと同時に,管理者による階層性組織を創設する企業が誕生し,それら企業が競争力をもち台頭することとなった過程を明らかにした.Scale and Scope,1990.(安部悦生訳『スケール・アンド・スコープ』有斐閣,1993年)では米英独の大企業の経営史の国際比較を行い,資本集約型産業の発展の経緯の違いなどを分析し,規模や範囲の経済が生み出すコスト優位性を十分に発揮するための組織能力を培うことが持続的に発展し得る鍵であるとした.彼の研究で発見された命題は,経営史だけにとどまらず,経営戦略論や組織論にも大きな示唆を与えている.[安田賢憲]

■中堅企業(mid-sized-firm) 
中村秀一郎が高度経済成長期における需要の急激な拡大と多様化に対応する形で,自立的な発展をたどる中小企業が一定の層として創出された実態に注目し,命名した企業群のこと.これらは,中小企業の枠を越えて発展している企業群として位置づけられ,過小過多,前近代的な存在として認識される中小企業とは,異なるタイプのものとされた.そうした企業群は1960年代後半以降に群となって登場し,今日では大企業にまで成長したものが多い.
 中堅企業は経済の規模が量的に拡大する局面での中小企業の自立的展開モデルといえる.1970年代以降の質的転換と知識集約化に対応して,出現したベンチャービジネスとは,その発生の論理・存立条件・経営理念を異にするが,現在ではそれらは混同されて理解されることが多い.[和田耕治]

■中古品ビジネス 
日本から中古の車や産業用機械などの輸出が盛んに行われている.とくに中古乗用車や中古バイク,その関連部品などである.輸出先はアジア各国やロシアが多い.現在,日本では年間約500万台の乗用車が廃車となるが,その内100万台余が輸出されている.こうした輸出は日本の地方から行われることが多い.それだけ地方と近隣諸国が活発に交易するようになったといえる.また,日本からは中古品ばかりではなく,古紙や屑鉄などの輸出も増加している.中国の経済成長が紙や鉄の旺盛な需要を生み出しているのである.実は,中古品ビジネスは商売の面ばかりではなく,廃車の部品を外国で再利用するなどリサイクル面からも注目されている.[加藤 巌]

■中小会社会計基準 (accounting standards for smaller company)ちゆうしよう 
2002年4月施行の改正商法285条第5項により,中小会社はインターネット等を通じて計算書類等を公開することが認められ,中小会社の積極的な情報開示が期待されている.しかし,不特定多数の人びとに閲覧される計算書類が,統一的な会計基準に準拠して適正に財政状態および経営成績を表示していないのであれば,開示制度の趣旨が十分に生かされないことになる.
 商法第32第2項における「公正なる会計慣行」は「企業会計原則」そのものを意味するものではなく,その意味で広義に解釈されており,結果として証券取引法上の対象外となる商法上の中小会社の会計基準は曖昧なままにその検討が放置されてきたといえる.とくに中小会社では,確定決算主義の下でむしろ税法基準を優先した会計処理が行われる実務慣行が存在し,このことは逆基準性として指摘されてきたところである.
 中小会社を取り巻く環境の変化,すなわち資金調達が多様化し,直接金融の可能性が拡大するとともに,金融機関の融資に係る評価のあり方自体変化している.中小会社の信用力の評価および出資者の信頼性の確保,取引関係の円滑化や新規取引先の拡大の各観点から,適正な計算書類の作成・開示の重要性が高まっており,その基礎となる会計基準の設定をめぐって議論が活発化している.
 中小会社の会計基準については,これまで以下の報告書が公表されている.
(1)2002年6月 中小企業庁「中小企業の会計に関する研究会報告書」
(2) 2002年12月 日本税理士会連合会「中小会社会計基準研究会報告書」
(3) 2003年6月 日本公認会計士協会「中小会社の会計の在り方に関する研究報告」
 会計基準は,規模の大小に関係なくひとつでなければならないとする考え方をシングル・スタンダード論といい,わが国の現行制度に採用されている基本的な考え方である.これに対して,中小会社向けの会計基準は大規模公開会社に対するものから独立して設定すべきとする考え方をダブル・スタンダード論という.
 日本公認会計士協会の報告書は,シングル・スタンダード論を枠組みとしてその適用方法において簡便法等を認めるものである.他方で,日本税理士会連合会の報告書はどちらかといえば会計処理において支障がないかぎりにおいて税法基準を認める点でダブル・スタンダード論を採用するものと解される.なお,前述の3報告書は,厳密にいえば法的根拠をもつ会計基準ではないが,現時点で併存しており,したがって中小会社会計基準の呼称はあくまでも便宜的なものである.
 中小会社会計基準の設定においては,大会社向け会計基準を例外とみなす立場から,会計制度改革後の一連の新会計基準を中小会社には適用しないとする考え方も有力である.最近では,中小企業庁が,中小会社に対する減損会計を適用しない旨の見解を示している.その場合,規模の問題を超えてすべての会社に共通するコアとなる会計基準はどのようなものになるかが問題となるであろう.[古庄 修]

■中小企業(small business)ちゆうしよう 
市場経済において経済・事業活動を行う企業の一形態であり,相対的に中小規模の企業や企業群のことをいう.わが国においては,中小企業基本法にしたがって中小企業の範囲が定められているが,こうした範囲は時代や国によって異なる.わが国におけるその範囲は法律的には資本金と従業員の量的規定によって定められるが,欧米諸国では量的規定に加えて,独立性に基づく質的規定が用いられる.1999年12月にわが国では中小企業の範囲に関する見直しがあり,資本金3億円以下従業員300人以下の製造業,資本金5,000万円以下従業員100人以下の卸売業,資本金3,000万円以下従業員50人以下の小売業,資本金5,000万円以下従業員100人以下のサービス業が中小企業の範囲とされた.この基準に基づき,中小事業所数およびそれらで働いている従業員数の割合は,1997年事業所統計ベースで99.3%,80.4%となり,わが国経済における中小企業の量的重要性が窺える.
 従来は中小企業を把握する場合,規模に起因する不利ばかりでなく,支配力をもつ大企業によりその弱み強みを直接間接に利用される,という経済構造に内在する問題を抱えるとの見方が多かった.近年では中小企業の企業家精神を評価し,個別企業の主体的・行動的側面を重視する見方が勢いを増す傾向があり,中小企業観は多様化している.→中小企業基本法[和田耕治]

■中小企業技術革新制度 
新事業創出促進法に基づき,政府の関係省庁が連携して,高度な技術開発力を有する中小企業を技術開発から事業化に至るまで重点的かつ総合的に支援するための制度である.アメリカにおける同様の制度(SBIR: Small Business Innovation Research Program)を参考にして設けられたことから,日本版SBIRとよばれる.具体的には,新産業の創出につながる技術を開発するための補助金・委託費等を,目標額を設定して中小企業者に優先的に支出する制度であるが,加えて,中小企業者が新たに開発した技術を利用して事業活動を行う場合に,信用保証協会による債務保証枠の拡大や中小企業金融公庫による特別貸付などの措置が講じられる.→新事業創出促進法,信用保証協会,中小企業金融公庫[関根雅則]

■中小企業基盤整備機構(Organization for Small & Medium Enterprises and Regional Innovation) 
中小企業総合事業団,地域振興整備公団,産業基盤整備基金の機能を統合し,2004年に発足した独立行政法人で,中小企業者をはじめとする事業者に対して,助言や研修,資金の供給(貸付,出資,助成)や債務保証,地域における施設整備,共済制度の運営等を通じて支援を施すことを目的とする.主な事業内容は次の通りである.@ベンチャー支援:同機構が設置する中小企業・ベンチャー総合支援センターを中心に,都道府県等中小企業支援センター,地域中小企業支援センターと連携を図り事業者の多様な相談に応じる,(2)経営支援:情報化,国際化,技術力の向上,環境・安全対策等に関して各種の支援を実施する,(3)人材育成支援:中小企業大学校を運営し,各種研修を通じて中小企業の経営管理者や中小企業支援担当者の育成を図る,(4)小規模企業共済制度:小規模企業の個人事業主または役員が事業廃止や退職のさいに共済金を受け取れるよう共済制度を運営する,(5)中小企業倒産防止共済制度:取引先事業者の倒産の影響で,中小企業が連鎖倒産したりいちじるしい経営難に陥ることを回避するために共済金の貸付を行う共済制度を運営する,(6)産業用地・施設:全国各地で産業用地,産業施設等を整備,運営する.以上の活動を通じて中小企業者等の事業活動活性化のための基盤整備を行うのが中小企業基盤整備機構であるが,近年では,その一環として,民間のベンチャーファンドや企業再生ファンドへの積極的な出資を行っている.→中小企業支援法,ベンチャービジネス[関根雅則]

■中小企業基本法(minor enterprise basic law) 
国が中小企業政策を実施するにあたり,その基本的な考え方を示す理念法.1963年に制定され,1973年に若干の改正の後,1999年に抜本的改正がなされた.旧基本法は政策理念を格差の是正に求めて,政策目的を生産性の向上(中小企業構造の高度化),取引条件の向上(事業活動の不利の是正)としていた.また,政策対象を画する視点は,事業活動の結果として存在する事後的な格差に置かれていた.それに対し,新基本法では,政策理念を多様で活力のある独立した中小企業者の育成・支援に置き,政策目的を経営基盤の強化,創業・経営革新に向けての自助努力支援,セイフティネットとしている.また視点は,市場においての営業活動を展開するにさいしてのイコール・フッティング(公平な条件)確保の必要性に置いている.
 新中小企業基本法の条文は,第1章総則,第2章基本的施策(第1節中小企業の経営の革新及び創業の促進,第2節中小企業の経営基盤の強化,第3節経済的社会的環境の変化への適応の円滑化,第4節資金の供給の円滑化及び自己資本充実),第3章中小企業に関する行政組織,第4章中小企業政策審議会となっている.→二重構造論[和田耕治]

■中小企業近代化政策 
中小企業は大企業と比較して設備や技術,労働条件,経営などの面で遅れており,産業資本としての確立が未成熟な非近代的な性格を有するものとして捉え,そうした非近代的なものを構造改善により,近代化していこうとする中小企業政策のこと.こうした近代化政策の基本的目標と内容は,「旧中小企業基本法」(1963年),「中小企業近代化促進法」(1963年)に盛り込まれており,その主なものとしては,業種別近代化,設備近代化,工場・店舗の集団化,中小企業団体の整備,経営管理の合理化と技術の向上,労働対策などがある.しかし,1998年から2000年にかけての中小企業関連法案の一連の見直しの中でこうした政策思想および政策実施に関する時代的役割の終焉が指摘され,中小企業近代化政策を担う中小企業近代化促進法は,1999年に廃止された.その枠組みのいくつかは,中小企業経営革新支援法に受け継がれた.→中小企業基本法[和田耕治]

■中小企業金融機関ちゆうしよう 
中小企業に関する金融問題を一般の金融問題と比べて差異(格差)があるものとして捉え,そうした問題を解決するために設置されている金融機関のことをいう.間接金融に関する現行制度には,信用金庫と信用組合がある.中小企業金融機関制度が設けられている理由としては,戦後の高度成長期では金融逼迫の基調が持続したため,すべての資金配分を普通銀行に委ねるならば大企業優先の資金配分が行われ,国民経済的観点から必要とされる中小企業分野への資金流入の確保が困難になると考えられたからである.こうした制度の基盤は,1951(昭和26)年の制度改正によって構築され,無尽会社の相互銀行への転換,市街地信用組合の信用金庫への転換が,この制度改正によって行われた.
 また,政府系中小企業金融機関としては,小規模企業向けの国民生活金融公庫,中小企業向けの中小企業金融公庫,中小企業組合向けの商工組合中央金庫があり,金融面からの中小企業支援を実施している.[和田耕治]

■中小企業金融公庫(Japan Finance Corporation for Small and Medium Enterprise)ちゆうしよう 
中小企業金融公庫法に基づき,1953年に設立された全額政府出資の政府系金融機関である.公庫の役割は,中小企業に対して民間の金融機関から調達することが困難な設備資金や長期運転資金を融資することを通じ,その成長や発展を支援することである.融資制度の種類には,一般貸付と特別貸付が存在するが,前者は中小企業者が幅広い用途で利用可能な貸付である.一方,後者は中小企業者が政府の中小企業政策に沿った事業を展開しようとする場合になされる貸付であり,具体例としては,新企業育成貸付,経営革新等支援貸付,地域企業支援貸付,環境対策貸付などがある.なお,公庫は,中小企業に対して資金面での支援に併せ,コンサルティング・サービスなども提供している.→運転資本管理,設備資本管理[関根雅則]

■中小企業経営革新支援法 
経済環境の変化に即応した中小企業による経営革新の遂行を支援するために1999(平成11)年に施行された法律である.同法は,@幅広い業種の中小企業を支援の対象とする,(2)単独の中小企業だけでなく異業種交流グループや組合等も支援の対象とする,(3)事業者が経営目標を設定することによりその達成を促す各種の支援措置を講じる,等の特徴を有する.法律の適用を受けるには,事業者が「経営革新計画」を作成し都道府県あるいは国の地方機関に提出,その後,都道府県知事や国の地方機関の長による承認をうける必要がある.承認をうけた場合,計画期間中に補助金や税制面での優遇,政府系機関による出資や低利融資および信用保証などをうけることができる.[関根雅則]

■中小企業高度化融資制度ちゆうしよう 
中小企業の経営基盤の強化のために,事業の共同化を行ったり,工場・店舗等の集団化を図ることを中小企業構造の高度化とよび,そうした事業を行う中小企業者等に中小企業総合事業団と都道府県が財源を出し合って長期・低利の融資を行う制度のことをいう.こした高度化事業は計画作成について,診断・指導を行い,指導と融資を一体化して行うところにその特色がある.→中小企業政策[和田耕治]

■中小企業再生支援協議会 
2003(平成15)年4月に改正された産業活力再生特別措置法に基づき,中小企業の再生支援を目的として各都道府県に設置された機関で,経営の立て直しに取り組もうとする中小企業の相談に応じたり,再生計画策定を支援するなどしている.通常,数名の専門家が常駐する.相談に訪れた企業の抱える問題が小さい場合には,常駐する専門家が直接対応策を提示したり,連携する他の支援機関や政府系金融機関を紹介するなどする.一方,抜本的な経営の見直しが必要であると判断された場合には,個別案件ごとに,弁護士,公認会計士,税理士,中小企業診断士など専門家による支援チームを編成し再生計画の策定や実行を支援する.再生が不可能と判断された場合には,法的整理を促すこともある.[関根雅則]

■中小企業支援法 
中小企業による経営資源の確保を支援するために,2000(平成12)年,中小企業指導法を改正して制定された法律である.同法第1条では,支援の手段として,国や都道府県(政令指定都市を含む)および独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業支援事業を計画的かつ効率的に推進すること,また,中小企業の経営診断等を業務とする者の登録制度を設けることがうたわれている.同法に基づき,広域市町村レベルでは地域中小企業支援センター,都道府県および政令指定都市レベルでは都道府県等中小企業支援センター,国レベルでは中小企業・ベンチャー総合支援センター(中小企業基盤整備機構が運営,全国で8ヵ所)を中小企業支援の核とし,各センターの連携を図るとともに,ワンストップで事業者の相談に応じる体制が構築された.→中小企業基盤整備機構[関根雅則]

■中小企業診断士(medium and small size business consultant) 
現在では,経営コンサルタントに関する唯一の国家資格と理解されており,同制度は中小企業指導法に位置づけられている.そもそもは1948(昭和23)年の中小企業庁の創設とともに制定された「中小企業診断実施要領」に基づく,行政指導(指導・診断事業)に端緒がある.各中小企業診断士は中小企業診断協会に所属し,通商産業(現:経済産業)大臣登録のもとで診断活動を行っている.現在,多くは公的診断よりも民間に対する経営コンサルタント活動を行っており,制度発足当時とは制度の意味合いが違ってきている.[和田耕治]

■中小企業政策 
政府が中小企業に対して行う政策の総称.わが国では,中小企業振興を図る産業政策的考え方に基づくもの,市場取引における公正なルールを確立する独占禁止法的理念に基づくもの,中小企業者に関する営業権の確保等を担う社会政策的思想に基づくものがある.中小企業庁が経済産業省の外局に位置付けられていることもあり,産業政策的側面が強い.
 具体的な対策としては,中小企業の近代化・高度化,資金調達・事業活動の不利の補正,小規模企業対策,地域中小企業対策,特別対策等がある.こうした政策は,基本的な枠組みは国(中小企業庁)が企画し,総合的実施機関である中小企業総合事業団が都道府県と共同で中小企業団体を受け皿として実施しており,1948年における中小企業庁の開設以降,その時代の社会的な背景,要請に対応しながら体系的に展開している.
 わが国以外でも,欧米先進諸国や東アジア諸国では国民経済における中小企業の重要性を鑑みた上で,それぞれの地域事情に合わせた中小企業政策が存在している.→中小企業庁[和田耕治]

■中小企業税制 
わが国では中小企業政策の一環として,中小企業に対する租税特別措置(優遇税制)を実施している.中小企業に対する税制対策には,一般的措置と個別の法律に基づく措置がある.
 前者については,個人事業者のための措置として,青色申告特別控除,個人事業税の事業主控除等があり,法人事業者のための措置として,法人税の軽減税率,交際費の損金参入, 中小企業等の貸倒引当金の特例等がある.
 また,後者については,各種中小企業振興法に基づき,きめの細かい対策がなされている.たとえば,中小企業経営革新支援法に関しては,設備投資減税,欠損金の還付,試験研究費賦課金の任意償却等,機械等の割増償却等があり,中小企業創造活動促進法に関しては,標記のものに加えてエンジェル税制等が,中小小売商業振興法については商業関連施設の特別償却等がある.[和田耕治]

■中小企業大学校ちゆうしよう 
わが国における中小企業の振興を目的として,独立行政法人中小企業基盤整備機構が設置,運営する人材養成機関である.現在,全国に9校設置されている(旭川校,仙台校,三条校,東京校,瀬戸校,関西校,広島校,直方校,人吉校).前身は1962年に設置された日本中小企業指導センター.受講者は,@中小企業の経営者や管理者,(2)創業予定者,(3)都道府県や各種中小企業支援機関の支援担当者等である.経営管理や経営戦略,財務管理,人的資源管理,生産管理,マーケティング,商品開発など多様な分野の研修が用意されているが,講義だけでなく実地演習やグループによる討議などを通じて実践的な知識,スキルを養成するのが同校の特徴である.→中小企業基盤整備機構[関根雅則]

■中小企業団体中央会ちゆうしよう 
「中小企業等協同組合法」(1949年)および「中小企業団体の組織に関する法律」(1957年)に基づき設置された中小企業団体の上部組織のこと.県レベルの組合を会員とするものを都道府県中小企業団体中央会とよび,県中央会と全国組合を会員とするものを全国中小企業団体中央会という.中小企業の協同組合をつくることを中小企業の組織化とよび,中小企業組合には商工組合,事業協同組合,協業組合,企業組合,商店街振興組合などがあり,それらは中小企業政策の受け皿ともなっている.→中小企業政策[和田耕治]

■中小企業庁(the small and medium enterprise agency) 
「中小企業庁設置法」(1948年) により,通商産業省(現:経済産業省)の外局として設置された中小企業政策の企画・立案を行う中央政府機関.2001年1月の省庁再編により,1官房(長官官房),2部(事業環境部,経営支援部),9課体制となった.そもそも中小企業庁は中小企業が自由に活動できる民主的な社会を構築するという目的のもと,GHQの指導により,独占禁止法的な理念に基づいて,●川虎三京都大学教授を初代長官として設置された.しかし,中小企業政策が産業政策に包摂され,二重構造論を背景とする大きな政策転換に組み込まれていく中,産業政策を担う機関となり,当初の理念は後退している.→中小企業政策[和田耕治]

■中小企業投資育成株式会社(Small and Medium Business Investment Consultation Company) 
中小企業投資育成株式会社法に基づき,中小企業の自己資本充実を促進し,その健全な成長,発展を図るため,投資等の事業を行うことを目的とする政府系の投資機関である.東京,名古屋,大阪の3ヵ所に本店が設置されている.1986(昭和61)年に中小企業投資育成株式会社法改正の施行に伴い民間法人化された.出資者は,地方公共団体,銀行,保険会社,証券会社,その他の民間会社である.主要な事業は,中小企業やベンチャービジネスが発行する株式,転換社債,新株引受権付社債(ワラント債)の引受けであるが,必要に応じて,投資先企業のコンサルティングを行う.また,投資事業有限責任組合の組成を通じたベンチャービジネスへの投資も行っている.→投資事業有限責任組合,ベンチャービジネス,ワラント債[関根雅則]

■中小企業等投資事業有限責任組合法 
投資事業組合(ファンド)から中小企業,とくにベンチャービジネスへの資金供給を円滑化することを目的として1998(平成10)年に施行された法律である.正式名称は,「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」であるが,略して中小ベンチャーファンド法ともよばれる.同法が施行される以前は,ファンドの運用者だけでなく単なる出資者(非業務執行組合員)もその運用にさいして無限責任を負わなければならなかった.それがファンド組成の障害になっていたことから,同法は,非業務執行組合員の負う責任を出資額の範囲まで(有限責任)とする投資事業有限責任組合の制度を規定した.なお,2002(平成14)年に一部改正がなされ,ファンドからの融資や中小・ベンチャー企業以外への投資が可能になった(改正以前は原則として未公開企業への出資のみ可能であった).→投資事業有限責任組合,ベンチャービジネス[関根雅則]

■中小創造法 
1995年に制定された「中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法」の略称.全業種の中小企業やこれから創業する個人を対象にした研究開発支援と,事業開始後5年未満の中小企業や研究開発型中小企業の設備投資減税や中小企業投資育成会社の特例を認めるという2つの柱からなる.制定当時,アメリカのベンチャー企業による経済活性化が伝えられ,日本でも中小企業の活力への期待が高まり,新規開業・新規事業支援が急速に強化された.中小企業の過小過多の是正を図った「旧中小企業基本法」の理念とは反対に,中小創造法は新規参入の促進という特徴をもっており,競争政策的性格の濃い中小企業施策の幕開けとなった.中小創造法は翌1996年に改正され,ベンチャー財団への投資活動支援が加わった.[川名和美]

■帳簿閲覧権 
株主の帳簿閲覧権は,株主による会社経営者の行動をチェックする有効な手段である(商法第293条の6).株主総会での議決権行使や株主が経営者である取締役の責任を追及する株主代表訴訟を提起する前段階で取締役の不正行為を発見しその証拠をつかむ手段となる.その意味で,株主の計算書類・監査報告書閲覧・謄写請求権(商法第282条)や株主の会社業務・財産状況の検査のための検査役選任請求権(商法第293条)と同一の目的を有する権利である.
 近年における経営者の行動をチェックし,効率的な企業運営を達成するためのコーポレート・ガバナンス論議における株主の地位の重要性にかんがみ,企業経営の株主に対する透明性を高め企業経営者の説明責任を十分果たさせるという観点から,この株主の帳簿閲覧権についても再構築が果たされなければならないという議論がなされている.とくに,帳簿閲覧権の行使要件である発行済み株式総数の3%という持株要件が高すぎるのではないか(商法第293条の6),また,会社の防衛手段である会社側が帳簿閲覧請求を拒否できる事由も妥当性や合理性が疑われる事由もあるので再検討が必要ではないか(商法第293条の7)などが論議されている.→株主総会,コーポレート・ガバナンス[黒木松男]

■直接原価計算(direct costing) 
製造費用を変動費と固定費に区分し,変動費のみで製造原価を計算する部分原価計算の手法である.この場合,製造固定費は,販売費および一般管理費の固定費部分とともに,期間原価(ピリオド・コスト)として処理する.
 原価要素を変動費と固定費に分けることを操業度別分類というが,変動費は操業度(生産能力を一定にした場合の利用度)の増減によりその総額から比例的に変動する原価要素を意味する.したがって販売量や生産量がゼロであれば直接材料費や出来高払いの直接労務費等の変動費はゼロとなる.これに対して減価償却費や保険料等の固定費は,一定期間における生産・販売力の維持費であり,販売量や生産量に関係なく発生する費用である.
 直接原価計算は,短期利益計画および利益統制に役立つ原価・営業量・利益の関係を明らかにする損益計算方法のひとつであり,期間利益計算においては,売上高から変動売上原価を差し引き,さらに販売費および一般管理費に含まれるその他の変動費を差し引いて,限界利益・貢献利益を計算する.この限界利益・貢献利益から固定費部分を差し引いて営業利益が計算される.
 ただし,直接原価計算を財務諸表作成目的に適用することは現行の制度会計において認められていない.[古庄 修]

■賃金管理ちんきんかん 
賃金形態の設計や企業内賃金構造の調整など,寡占企業における賃金問題を対象とする経営者の管理職能.もともと賃金は,職業別組合のクローズショップ政策などにより企業外から与えられる与件として扱われてきた.けれども大量生産方式の形成に伴う大量の職務の発生や,昇進制度の形成など,いわゆる内部労働市場の発展とともに,職務ごとの賃金率とその序列などがある程度管理の対象とされるようになる.ここに賃金管理は,雇用管理と密接な関係におかれることになるが,それとともに,寡占企業の管理価格の設定と相まって,このような賃金総額の管理が,寡占企業の利益計画の一環として重要な役割を果たすことになる.
 このようにして寡占企業の賃金管理は,テイラー・システムに象徴される賃金形態による管理にとどまらず,職務等級ごとの賃金率の設定とその構造,すなわち企業内賃金構造の調整だけでなく,寡占企業の総合管理の一環として,福利厚生などをふくむ賃金総額=人件費総額を,生産性や収益を基準に弾力的に操作するところにその特徴がある.わが国では,このような賃金管理は,定期昇給制度を基軸とする「年功賃金」を中心に展開されている.[平●克彦]




■TLO(Technology Licensing Organization)ていえるお 
大学や研究機関の研究成果を特許として管理し民間企業に移転するための組織である.具体的には,特許化されていない研究成果を発掘し,特許を受ける権利を大学等から譲り受けて特許化する,あるいは,すでに大学等が特許を保有している場合には,専用実施権の設定や特許権の譲渡を通じて当該特許を管理する.その後,管理する特許をライセンシングによって民間企業に移転し対価として特許使用料を得る.そして,獲得した収益の一部を大学や研究者に還元するのである.以上のように,大学や研究機関内に埋もれてしまうことの多い研究成果を特許として流通させる役割を担うのがTLOである.
 TLOは,1998(平成10)年に「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(大学等技術移転促進法:TLO法)」が施行されたのに伴い,多くの大学等でその設置が進んだ.同法に基づき,TLOを設置しようとする大学等は,実施計画を作成,文部科学大臣および経済産業大臣に提出し承認を得ることにより,産業基盤整備基金による助成金交付および債務保証等を受けることが可能になる.なお,同法に基づいて承認されたTLOは承認TLOとよばれる.→ライセンシング[関根雅則]

■TOC(Theory of Constraints)ていおし 
制約条件の理論.イスラエルの物理学者ゴールドラット (E. Goldratt) によって開発されたスケジューリングに関する改善手法であるが,近年注目されているSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)の基礎理論としても注目されている.
 TOCは,その改善対象によりいくつかの手法を提案している.スケジューリングの手法から発展した「生産管理の改善手法」,生産管理上の問題を解決しても市場の制約条件により売上げが伸びないような場合に対応する「思考プロセス」(TP: Thinking Process),従来の標準原価管理の問題を改善するための「スループット会計」という手法である.
 TOCは,企業経営の目的を達成するための阻害要因となる「制約条件」を発見し,その制約条件となっている工程の能力を最大限に引き出すことにより,全体の生産性を向上させようとする手法である.そのために,TOCでは,@スループット(売上高-資材費)の増大,(2)総投資の削減,(3)経費(固定費)の削減という3つの要素を改善しようとする.「スループット」を増大させるとき問題となるのが社内外に存在する「制約条件」である.→SCM[杉野 周]

■TOB(Takeover Bid) 
株式公開買付けのこと.テンダーオファー(tender offer)ともいう.ターゲット企業の株式を,市場を通じてではなく市場外で新聞紙上での公告を通じて買い集めるM&Aの手法のこと.対価は通常現金だが,買収会社の株式の場合もある.TOBのメリットとして,第1に,買収者はターゲット企業の株主に売却を直接勧誘することができる.したがって,たとえターゲット企業の経営陣が買収に反対している場合でも,プレミアムのついた買付価格を提示することによって,M&Aを成功させることができる.このため,敵対的買収の代表的な手法である.第2に,買収者は,買付額と買付期間等の条件を自らで設定することができる.市場を通じて買付けをすすめた場合,流動性が徐々に低下し,さらに5%を超えてからの取得に要する届出によって買付けが公表されるため,ターゲット企業の株価も上昇し,これに伴い買付額は不確定かつ大きくなる.しかし,TOBでは公告で買付けの価格,期間,予定株数を設定できるため,買収者は,予定した買付け額で短期間に目的の比率の株式を取得することができる.第3に,買付けの期間内に予定する株式が提供されなかった場合,買収者は買付けを撤回することができる.したがって,失敗した場合のコストが小さい.なお,TOBはM&A目的だけではなく自己株式の取得目的にも用いられる.
 日本では,1971年の証券取引法改正時にTOB制度が導入された.その後3件が実施されたが,1990年に大幅な改正が行われ利用は増加した.この改正によって,事前届出制の廃止や買付最長期間の拡張などが盛り込まれ,さらに市場外取引の透明化のために原則的にTOBが強制化された.→M&A,証券取引法,買収プレミアム[文堂弘之]

■TCO(Total Cost of Ownership) 
情報システムの導入,運用,保守および関連部門への教育などにかかる費用の総額.汎用機が主流の時代には,ハードウェアの導入費用が総費用の大部分を占めていたが,ダウンサイジングにより,ハードウェアの価格が大幅に下落した.しかし,管理費用やエンドユーザが関連する費用は把握することが困難であり,総費用の算出もむずかしい.ガートナーグループ(アメリカのコンサルティング会社)は,1994年に1台のパソコンを設置して運用するTCOの中で,ハードウェアとソフトウェアの購入費用は21%であることを発表した.その他の費用は,資産管理や契約などの管理費用,システム開発などの技術支援,ハードウェアとソフトウェアの導入作業やデータのバックアップなどのエンドユーザ作業である.また,1987年から1994年にかけてパソコン1台にかかる導入から廃棄にいたるライフサイクルの費用が倍以上になったことも発表した.これらのことからTCOが注目されるようになった.汎用機に比べればパソコンの単価は安いが,導入する台数が多いので,利用者教育費の増加,ソフトウェアのバージョン管理の煩雑さ,ネットワークのセキュリティ管理費用の増大の結果がTCOに対するハードウェアとソフトウェアの導入費用の低下となって表れている.単にTCOを削減するのではなく,最小コストで最大の効果を上げるTCOの最適化が検討課題である.[市田陽児]

■ディスインターミディエーション (disintermediation)ていすいんた 
銀行の金融仲介機能の低下現象をあらわした言葉で,いわゆる銀行離れを総称したものである.アメリカでは1970年代にすでにコマーシャル・ペーパー(CP)のような自由金利商品市場の拡大等にその●芽をみる.資金の流れは,銀行を経由する間接金融から,証券市場を通じた直接金融へと大きくシフトした.さらに,金融の自由化・証券化の動きは,80年代のユーロ債市場,ユーロCP市場の発展へと繋がっていった.日本でも90年代に入って,バブル経済の崩壊とともに,大企業を中心とする銀行離れ現象は一気に顕在化した.戦後一貫して,日本企業は銀行の間接金融体制に依存してきたが,いまでは社債市場,CP市場で資金調達するほうがコストを大幅に節約できるという利点から,財務の直接金融化を進展させた.資金の借り手は,銀行の貸付けにかかわる銀行経営上の必要な経費を削除でき,また,特定の銀行に限定されることなく,内外の証券市場からより広範囲な調達先を求めることができる.さらに,運転資金としてのCP市場での調達は,短期金融市場における銀行の短期借入よりも実務的に柔軟性が高いといわれる.→コマーシャル・ペーパー[三浦后美]

■ディスクロージャー(disclosure)ていすくろし 
情報開示を意味する.企業の場合は,投資家や債権者などのさまざまな利害関係者(ステークホルダー)に経営内容などの情報を開示する.わが国の制度的な大枠としては,証券取引法,商法が定めており,財務諸表,有価証券報告書などの形式によって行われる.また,会計情報のみならず,今日では企業の環境対応やCSRへの取り組みなど,企業のIR活動の一環としてディスクロージャーの内容が多様なものになっており,近年になって,「環境報告書」や「サステナビリティ・レポート」「CSRレポート」など企業が独自に発表を行うケースが増えている.
 東京証券取引所では,「ディスクロージャー表彰制度」を設け,上場会社のディスクロージャーの充実を促進する観点から,企業内容等を適時,適切に,投資者にわかりやすい形で開示しているなど,ディスクロージャーに積極的に取り組んでいると認められる上場会社を表彰している.→IR,環境報告書,サステナビリティ・レポート,証券取引法[田中信弘]

■定年制(retirement age system) 
従業員が一定の年齢に達すると,本人の意思とは関係なく自動的に退職となる制度.日本の雇用慣行である終身雇用制と年功賃金制からくる従業員の高齢化・高賃金化に対して,制度的に歯止めをかけるものであり,従業員の新陳代謝を制度的に保障することになる.その場合,労働能力の個人間の差は考慮されない.高年齢雇用安定法で60歳未満の定年制は禁止されているが,多くの企業が法定年齢ぎりぎりの60歳に定めており(2003年現在90.3%),61歳以上の雇用は1割程度である.しかし,人口の高齢化と年金受給開始年齢の引き上げ(段階的に引き上げ2013年度で65歳となる)に伴い,退職と年金受給までの間に空白が生じることになり,その間の雇用が重要な課題となってきている.[小阪隆秀]

■デイビス(Davis, Louis E.,1918〜) 
アメリカにおける職務設計の第一人者.職務設計を技術上の諸要件のみならず,作業者の社会的・個人的要件をも満たすために職務の内容や職務間の関係を規定することと捉えた.生産組織を技術体系と社会体系から構成されるものとして扱う社会=技術システムアプローチ,および,組織と環境との相互作用に着目するオープンシステムの視点から研究を行った.QWL(労働生活の質)センター所長,OECD上級顧問などを歴任.[西村 晋]

■DVDレコーダー(digital versatile disk recorder) 
光ディスクメディアのDVD(Digital Versatile Disk: DVD-R,DVD-ROM,DVD-RW,DVD+RW,DVD-RAMなどの規格がある)に画像や音声を記録する装置のこと.最近のDVDレコーダーは,HDD(Hard Disk Drive)も搭載しており,長時間のTV番組や週ごとに番組を連続録画したりすることが簡単にできる.とりあえずHDDに記録しておき別の場所で見たいときに,その内容をDVDにコピーして,DVDプレイヤーやパソコンで再生するという利用ができる.「追っかけ再生」や再生中に別の番組を記録できるなど従来のVTRにはない機能があり,VTRを陳腐化させつつある商品である.すでに,パソコン内蔵型の次世代DVDレコーダーの開発が進んでいる.また,次世代DVD媒体は東芝やNECなどのHigh-Definition (HD) DVDとソニーや松下電器産業などのブルーレイ・ディスク(Blu-ray Disk)との間で,規格の主導権争いが続いている.→情報家電[市田陽児]

■テイラー(Taylor, Frederick Winslow, 1856〜1915) 
「科学的管理」の父とよばれるテイラーは,1856年アメリカのフィラデルフィアに生まれた.1878年にミッドヴェール製鋼に入社し,職長,技師長にまで昇進し,工場の合理化に取り組んだ.彼は当時労使間の大きな問題となっていた,賃金をめぐる対立を解決しようと研究を行った.研究成果は「差別出来高払制」というテーマでアメリカ機械技師協会のデトロイト大会で発表された.
 1898年からはベスレヘム製鋼所の能率顧問として働き,課業管理や職能的職長制などを打ち出した.その成果はShop Management,1903.(都筑栄訳『工場管理論』理想社,1958年)として公表された.『工場管理』においてテイラー・システムの体系が完成したということができるが,それはテイラーのめざした「高賃金低労務費」を実現するために,課業の確立,作業の標準化,作業の管理組織の構築を内容とするものであった.
 さらにテイラーは,アメリカ機械技師協会が推進してきた能率増進運動の研究成果を集大成する形で,The Principle of Scientific Management,1911.(上野陽一訳編『科学的管理法』技報堂,1957年)を著した.テイラーの業績はギルブレス(F. B. Gilbreth)らによって発展させられた.[佐久間信夫]

■ディーン(Dean, Joel, 1906〜没年不詳) 
近代経済学の分析手法を経営者の意思決定の用具として用いようとする試みである,マネジリアル・エコノミクスを開発・体系化した.マーシャル(A. Marshal)以来の伝統的企業理論を批判し,寡占競争の中で計算可能となった,大企業の行動分析を行った.資本予算論の研究でも知られる.主著にManagerial Economics(1951)(田村市郎監訳『経営者のための経済学』関書院,1958〜9年),Capital Budgeting(1951)(中村常次郎監修『経営者のための投資政策』東洋経済新報社,1959年)などがある.[佐久間信夫]

■テクノグローバリズム(techno-globalism)てくのくろは 
本来,自由な知的活動である研究開発は国の枠を超えて行われ,研究開発の成果である科学技術も地球的規模で戦略的に活用されていくこととなる.しかも企業のグローバル化が進むにつれ,企業競争もグローバルな規模で激化する.企業や国家の重要な競争要因としての技術開発力を維持,強化し,開発成果をグローバルに戦略的に活用していくために,企業戦略あるいは国家戦略の観点から技術の囲い込みや技術の独占を目的とした技術閉鎖的なテクノナショナリズムが顕在化してくる.テクノナショナリズムに対応し,ボーダレス化した市場ニーズに対して科学技術の成果を地球的規模で活用していくため,研究開発の段階からグローバルに協調し,オープンに研究開発を進めていくことがテクノグローバリズムである.なかでも世界的な規模で開発資金や開発人材などの開発資源を結集しなければならない航空宇宙や原子力エネルギーなど巨大な開発プロジェクトにおいては,その開発資源を分担し,開発リスクを分散していくばかりか,開発成果の活用においても国の枠組みを超えたグローバルな規模でのスケールメリットの追求が必要となることからも,テクノグローバリズムがとられていくこととなる.[中原秀登]

■テクノストラクチュア(technostructure)てくのすとら 
高度に組織化された大企業において,専門的知識,才能および経験をもち,意思決定機能を担い,実質的に企業を支配している集団.この集団は,技術,生産,管理などの各職能部門でテクノロジーの要請に応えて計画化を行い,組織規模の拡大を実現することで,支配力を維持しようとする.産業社会における支配力は入手と代替が困難な希少性にかかわっており,かつては土地の所有が支配力の源泉となったが,のちに資本,そして組織へと移行してきた.高度産業社会では組織化された知性が希少な資源となり,そのような集団が意思決定権をもつようになる.経営陣はそれに対して諾否の承認を与える.このような専門家の集団を,ガルブレイス(J. K. Galbraith)は『新しい産業国家』(1967)の中でテクノストラクチュアと名づけた.→ガルブレイス[小阪隆秀]

■テクノポリス構想てくのほりす 
1980年の産業構造審議会「80年代の通商産業政策のあり方に関する答申」の中で,地域経済振興策の具体例として「テクノポリス構想」が提示された.この狙いは,先端技術を核として,創造的技術立国を推進するとともに,地域経済の自立化,活性化を促進することである.この構想の原型は先端産業の集積地として有名なアメリカのシリコンバレーともいわれる.戦後から1950年代半ば頃までの期間,高い水準の研究系大学を中心に,大企業の研究所や大手エレクトロニクス関連企業が集積し,多くのベンチャー企業がシリコンバレーに誕生したのである.産・学・官の協力体制のもとで技術水準の向上と地域開発を同時にめざしたテクノポリス構想は,日本でのベンチャー企業育成・支援の●芽であるといえよう.[川名和美]

■テクノロジー・アセスメント(technology assessment)てくのろしあ 
企業戦略や開発戦略を策定する場合,どのような技術が,どのような影響を製品や市場に及ぼすのかを把握することが重要である.こうした技術にかかわる事前の評価アプローチを,技術評価ないしテクノロジー・アセスメントといい,技術予測の重要な部分を構成している.今日,原子力や遺伝子組み換え技術による安全性の問題に代表されるように,技術の人類や社会に及ぼす影響が大きくなっている.そのため,技術の発展や利用による利益などプラス面だけでなく,不利益や危険性などマイナス面との総合的な評価が重要となっている.
 技術評価を通して,将来望ましい社会の価値基準とかかわった技術開発が行えることをはじめ,開発される技術の直接的あるいは間接的な効用や問題点など,多面的かつ総合的な観点から評価された技術開発が行え,さらに技術評価を開発プロセスへフィードバックすることで,より適切な技術開発が可能となるなどの利点がもたらされる.[中原秀登]

■デザイン・イン(design-in) 
組立企業が製品の開発・設計を行う段階から部品供給企業もそこに参加し,全体設計と並行しながら部品設計を共同ですすめていくこと.旧来は,組立メーカーが製品の設計を全体と細部にわたって行い,設計図を部品供給企業にわたす方式がとられてきた.これを貸与図方式という.それに対して,組立メーカーが部品企業の製品開発能力を認め,納入予定部品の開発設計をその当の部品企業に委ねる方式がある.これを承認図方式という.デザイン・インはこの承認図方式を具体的に推進する形態である.通常,組立メーカーに設置された共同開発・設計室に競合関係にある複数の部品企業が参加するため,ゲスト・エンジニア方式ともいわれる.この場合,参加部品企業が複数あるのは,部品企業同士に開発競争を行わせるためである.これを,開発コンペという.このような競争の結果,優れた提案をした部品企業に発注依頼されることになる.日本の自動車企業は,このデザイン・イン方式によって密接な情報交換や技術交流を繰り返すことで品質の向上を実現し,開発期間を大幅に短縮することで製品化のスピードアップを図ることができた.その結果,電機産業など他の分野にも広がっていくとともに,海外でも取り入れられるようになった.[小阪隆秀]

■デザイン開発(design development) 
製品のデザインは,消費者の製品に対する需要を喚起し,拡大していくための重要な要素を構成している.経済の成熟化に伴って,製品の物理的な機能面ばかりでなく,ファッションに代表されるような消費者の感性や感覚に訴える心理的な機能面を重視したデザイン開発が重要となる.
 デザインは,製造能力や生産性の向上にとっても重要な役割を果たす.純技術的な見地から機械本体の性能や構造様式をデザインするのが,「エンジニアリング・デザイン(技術的設計)」である.設計能力をはじめ,製造工程や製造能力などあらゆる条件を考慮して実用化を図り,外観的な価値を高め,顧客に満足されるように工業品としての機能をデザインしていくのが,「インダストリアル・デザイン(工業的設計)」である.新製品の開発段階ではエンジニアリング・デザインの,また量産化など製造方法の開発段階ではインダストリアル・デザインの比重がそれぞれ大きくなる.[中原秀登]

■デジタルエコノミー 
1998年にアメリカ商務省が公表したレポート「Emerging Digital Economy」から生まれた言葉のことで,「電子商取引」や「オンライントレード」,業務の「アウトソーシング」といった情報技術の進歩に伴う新しい経済現象を幅広く意味している.
 こうしたIT関連産業の高度化による社会的影響は,@市場参加者の主体的行動が可能になる,(2)物価の上昇しにくい状況が生まれる,(3)製品・サービスの世界標準が確立されやすくなる,などが考えられる.すなわち,インターネットの利用により,消費者が容易に製品や価格の情報を手にして選択肢を増やす一方,生産者は地球規模で競争相手が存在することになり価格抑制を考えざるを得ない.最近はインターネットを利用して消費者が価格決定権をもつ事例もみられる.具体的には,特定商品の購入を考えている消費者がネット上でグループを組み大量購入を企業にもち掛け,価格引下げを要求している.これは「サイバー買付け団」とよばれている.また,インターネット上の「逆オークション」では,消費者が購入したい品物とその価格を提示し,それに対して企業が応札している.→e-ケイレツ,e-決済,e-調達[加藤 巌]

■デジタル家電(digital appliance)→情報家電デジタル・ディバイド(digital divide)てしたるてい 
情報格差のこと.情報化の進展に伴い,あらゆる領域の情報が,情報技術を通じて受発信できるようになった.ところがインターネットに代表される情報技術を使いこなせる者と使いこなせない者の間に生じる待遇や貧富,機会の格差が顕著になってきた.こうした情報を使いこなす能力,すなわち情報リテラシーが,社会的な格差を拡大,固定化する現象をデジタル・ディバイドとよぶ.
 したがって,インターネットにアクセスできるかどうかが「経済格差」を生むということになる.このことは,九州-沖繩サミット2000で「情報格差(デジタル・ディバイド)の解消」が取り上げられたことで注目を浴びた.サミットで問題になったのは,こうした経済格差を生む原因となる情報インフラの解消と,情報技術を使いこなす能力と,情報を選別し活用する能力である情報リテラシーの向上であった.この問題は,情報社会の先進国であると同時に,貧富や機会の差が大きかったアメリカで最初に取り上げられ,新たな地球規模の問題として注目されている.
 しかし,携帯端末の発達と普及により状況は変わりつつあり,インターネットにアクセスし,情報を取得することはコンピュータを駆使する能力を必ずしも必要としなくなってきている.→インターネット[杉野 周]

■データ・ウェアハウス(DWH:Data Warehouse)てたうえあは 
データベースの一種ではあるが,その用途,格納するデータの種類,データベースの物理的な構造は基幹業務システムで使用されるデータベースとは異なっている.基幹業務システムのデータベースには,実績データが格納されており,使用されるデータベースは「階層型データベース」や「リレーショナル型データベース」である.
 しかし,「基幹業務システム」に対して「情報系システム」に分類されるデータ・ウェアハウスでは,膨大な生データ(サマリーデータではない)を多次元データベース(キューブという)に取り込み複数の視点からデータを分析できることが特徴となっている.表計算ソフトのシートやリレーショナル・データベースの表は2次元の表形式であるが,このキューブは「製品」「部門」「時間」などの多次元の軸を設定できる.したがって,部門別製品別の月別販売実績とか,製品別月別の部門販売実績といった異なる切り口でデータを分析できる.ただ,データ・ウェアハウスは膨大な量のデータを蓄積するため,用途別に作成された「データマート」とよばれるデータベースを別途作成し,各部門に配布することが多い.→基幹業務システム,データベース[杉野 周]

■データベース(database) 
多くの人びとが共通して利用するデータをひとつのコンピュータ・システムに集めたもの.コンピュータ・プログラムの遂行に関するあらゆる情報の倉庫としての役割を果たすもの.データベースを通して,データの追加・修正・削除ならびに検索が迅速かつ容易に行われ,情報の収集や情報処理にとって大きな役割を果たす.
 データベースを有効に活用していくには,@適用業務が要求する多種多様なデータ処理の内容を整理,検討し,それらの要求を最適に満たすシステムを設計すること,(2)適用業務が要求する全データを把握し,データベースの論理構造を具体的に定義し,処理効率を高めること,(3)多数の利用者によるデータベースの共用から生じるデータの盗用や破損のリスクに対してデータベースの保全を図るなどの管理が必要となる.→データ・ウェアハウス[中原秀登]

■データベース・マーケティング(database marketing) 
近年,IT(情報技術)の革新により,顧客管理のコストを大幅に低下させることが可能となった.さらに膨大な数の顧客データを,個人別に管理することが可能になった.このような背景から,データベース・マーケティングとよばれる新しい発想が注目を集めるようになった.データベース・マーケティングが前提としている顧客観は,数え切れない無数の顧客ではなく,できる限り一人ひとりがみえる顧客である.一人ひとりの顧客を深く知ることで,興味深いトレンドやセグメント,機会などが見い出されるとともに,個人向けに製品やサービスをカスタマイズする等,顧客にとって意味のある提供物を適時に提供することが容易となる.したがって企業は,顧客はもちろんのこと,従業員や供給業者,流通業者,さらには自社と他社による製品やサービスごとにデータベースを作成する必要がある.とくに顧客に関するデータベースの構築に際しては,顧客との取引履歴や,顧客のデモグラフィック情報(年齢,性別,家族構成,収入,職種等),およびサイコグラフィック情報(興味,考え方,意思決定の仕方,他者への影響力等)などを収集すると,その利用価値は高いものとなる.そうした顧客データを大量に納め,さまざまな分析ができるようにしたデータベースをデータ・ウェアハウスとよぶ.→データベース[木村達也]

■データ・マイニング(data mining)てたまいにん 
コンピュータに蓄積された膨大なデータの塊から経営戦略上有意味なデータを効率的に発掘する一連の手続きである.言い換えれば,データの背後に隠れている法則性やデータ間の因果関係,特定のパターン等をデータ・マイニング・ツールが自動的に発見し,モデル構築し,直面する意思決定問題に対し迅速かつ的確なソリューションを与える処理のことである.企業は,このアプローチによって見い出された事実をビジネス・ナレッジとして展開することができる.もし,少量のデータしか収集することができない場合や,データ全体の背後にある構造が複雑すぎて特定の事実やビジネスルールを明らかにできない場合,多変量解析法など別の手法を考慮する必要がある.
 データ・マイニングが適用される領域は数多い.たとえばマーケティングにおける商品のセグメント分析,顧客のプロファイリング,購買傾向分析,売上予測,要因分析,品質管理における製造工程の改良や不良品の発見,リスク・マネージメントにおける与信調査等である.→多変量解析[福多裕志]
■デフォルト(default) 
デフォルト(債務不履行)とは,一般に公社債の元利金の支払いが期日または猶予期間内に,不能となった状態をさしている.格付機関はそれぞれの債券のデフォルトの可能性がどの程度であるかを評価して,AAA(トリプルエー)やAA(ダブルエー)のようなわかりやすい格付記号で投資家に知らせている.格付機関のMoody’s,S&Pなどは,毎年デフォルトおよびデフォルト率を公表してきている.Moody’sによると,“デフォルトとは,@利払いと元本返済の不履行または遅延,(2)破産法の適用申請を行ったか,管財人管理下にある状態,(3)救済目的の債券交換”の3つの場合を定義している.この目的は,その発生により,債券の保有者と発行企業の関係が当初の契約に規定されていたものから変化し,債券保有者が経済的損失を被る事由を把握することにある.一方,S & Pの場合,「デフォルトとは,当事者間の誠実な討議が進行中であるケースを除き,その債務に対する格付の有無にかかわらず,債務の支払いが一度でもなされなかった場合に適用される.ただし,支払期限に支払われなかった利子の支払いが30日間の猶予期間内に行われた場合はデフォルトにならない.」と規定している.
 Moody’s,S&Pなどは,毎年,デフォルト率と過去の債券のデフォルトを累積した平均累積デフォルト率を公表してきている.デフォルト率とは,一定の期間中に,実際にデフォルトに陥った発行体数を同じ期間中に発行済みの債券のあった発行体数で割った比率である.日本の格付機関であるR&I(格付投資情報センター)は,2000年6月から独自の広義デフォルト率を公表している.広義デフォルト率は,企業の債務が実質的に支払い不能に陥っている割合を算出したもので,その定義には,社債のデフォルトのほか,破産,会社更生法などの法的破綻,債権放棄などが含まれている.[三浦后美]

■デフォルト・リスク (default risk)てふおるとり 
貸出先あるいは投資先の経営悪化によって,貸出金または保有する債券などの利払いもしくは元本返済が不履行になり,契約通りに回収できなくなる危険度のことをあらわす.とくに,世界的な格付機関であるムーディーズ(Moody’s)やS&Pは,このデフォルト・リスクを債券格付けと平均累積デフォルト発生率との逆相関関係によって確認し,債券格付けが低い発行体ほどデフォルトの発生率が高くなることを証明してきた.日本では公募社債のデフォルトした事例が1996年の適債基準の廃止まで少なく,実質的なデフォルト率を測定することは不可能である.日系格付機関のR&Iは,何らかの債務が実質的な支払い不能状態に陥っているとする「広義デフォルト率」を独自に算定し,公表している.[三浦后美]

■デマンドチェーン・マネジメント(demand chain management)てまんとちえ 
需要連鎖のマネジメントという.一般消費者(川下)側から,メーカー(川上)側にさかのぼる情報の流れをさし,供給連鎖(サプライチェーン:supply chain)と表裏一体の概念である.ライバルから自社を差別するために商品開発にはじまるサプライチェーンへ顧客情報をすばやくフィードバックする好循環形成こそがデマンドチェーンである.このような概念が注目されるようになってきたのは,第1に,日本企業が先導してきた製造現場の効率性について欧米諸国企業のキャッチアップが進み,競争優位を新しい分野で開拓する必要が生じてきたこと,第2に,IT革命によりマーケット情報の収集能力が高度化したことによる.ここでは企業は製品の売り手であると同時に情報の買い手であり,消費者は製品の買い手であると同時に情報の売り手であるとされる.たとえばアマゾン・ドットコムの広報によると,消費者がある本を検索すると,同時に表示される推薦書リストによって相当の衝動買いが発生しているという.この行動のデータこそが,デマンドチェーンに乗せて川上の企業活動にフィードバックされるべき情報である.→サプライチェーン・マネジメント[加茂紀子子]

■デミング(Deming, Edwards W., 1900〜1993) 
アメリカ・アイオワ州に生まれる.1950〜51年に日本の製造業の品質管理を指導.QCサークルやデミング賞など,日本の品質管理運動の生成に多大な影響を与えた.あらゆる製造企業に適用可能な統計品質管理を構築した.統計品質管理を用いれば,製造工程の中での品質を損なう恐れのあるバラツキを発見することができ,生産システムに内在するバラツキの一般要因はデータに基づいた決定を下せば回避または減少させることができる.日本国から勲二等を授与されている.[西村 晋]

■デラウェア州会社法 
アメリカの会社法は州ごとに異なっており日本のように統一されてはいない.したがってアメリカの企業は自社にとってより有利な法規を求めて設立州を選定することとなる.現時,アメリカ大企業の多く(たとえばフォーチュン500社の半数以上)がデラウェア州で設立されていることを考慮すれば,デラウェア州会社法をアメリカにおける会社法のひとつの標準として捉えることができる.デラウェア州会社法の利点は,設立手続きの簡便さや費用・税金面での優遇措置などである.さらにデラウェア州には豊富な判例に立脚した衡平裁判制度が確立しており,企業法務に熟達した裁判官(陪審員ではない)による迅速かつ適切な裁定が経営の活性化や投資家保護に寄与するところは多大であった.ところで,日本における2002年の商法改正はアメリカ会社法制の強い影響の下になされたものである.とりわけ委員会等設置会社制度はデラウェア州会社法の定める諸制度(委員会・社外取締役・執行役制度など)にならい成立したものであり,これにより社外取締役の役割を重視した委員会制度に基礎をおくアメリカ型の企業統治構造が選択・適用されるに至った.[前橋明朗]

■デリバティブ(derivative) 
日本語では「派生的な」という意味で,株式や債券,為替,金利等の現物市場から派生した金融取引の総称として,一般に金融派生商品とよばれている.元になる金融商品の価格変動リスクの回避,低コストでの資金調達,高利回りでの資金運用といった目的で利用されている.また,近時ではデリバティブ自体を投資対象にする取引も増えている.デリバティブ取引はバランスシートに記載されないオフ・バランス取引で,たとえば,企業が同一通貨で金利債務だけを交換する金利スワップを行った場合には,実際の現金を用意する必要もなく,現物に縛られない点が最大の特徴である.反面,株主や外部の債権者に情報開示がむずかしくなる.
 具体的には,@将来のある時点での売買を,事前に取引する先物取引・先渡取引,(2)将来売買できる権利を売り買いするオプション取引,(3)異なる通貨や金利をお互いに交換するスワップ取引が主体である.先物取引・先渡取引は,将来の一定の期日に,一定の商品を特定の価格で売り渡しすることを約束した取引で,時には指数の差額だけで決裁する場合もある.東京証券取引所等の取引所での取引を先物取引とよび,当事者間が直接に相対取引を行う場合を先渡取引と区別している.オプション取引は,金利や為替など,一定の価格で売り買いする権利が取引の対象である.売る権利を取引するプットと買う権利を取引するコールとがあり,少ない元手で大きな利益が期待できるとされる.スワップ取引は,金利や為替など金融資産を売買する当事者が,長期間にわたってそれぞれ異なるキャッシュ・フローを交換する取引で,代表的なものには同一通貨における変動金利と固定金利の金利条件を交換する金利スワップや,異なった通貨を交換する通貨スワップ取引があげられる.[三浦后美]

■電子署名(electronic signature) 
送受信するデータの信頼性と,そのデータが間違いなく本人から送信されたものであるということを保証するために付けられる電子的な署名情報.文字や記号,マークなどを電子的に表現して署名行為を行う.電子署名により,なりすましや改ざんが行われていないことを証明できるほか,送信者は送ったことを否認できなくなる.とくに,公開鍵暗号方式を応用して,文書の作成者を証明し,かつその文書が改ざんされていないことを保証する署名は「デジタル署名」とよばれる場合が多い.デジタル署名は,電子証明書とともに電子認証を実現するための基礎となる技術である.→電子認証[熊谷敦也]

■電子政府(electronic government) 
コンピュータシステムやインターネットを利用して,処理を電子化した行政機構.
 国民や企業との間での各種手続き,行政文書の管理などにコンピュータシステムやインターネットを活用することで,効率化やコスト削減,サービスの質の向上が実現することが期待されている.電子政府によって可能となる行政サービスとして,住民にとってもっとも身近なものが,役所の窓口業務を電子化した「電子申請」である.電子申請が可能となると,役所の窓口に行く必要がなくなる,いつでも手続きができる,印鑑が不要となるなどといったメリットがもたらされる.ただし,電子政府の推進にあたっては,国民の情報リテラシーの格差(デジタル・ディバイド)の解消や,個人情報保護のためのセキュリティの確保など,課題も多く残されている.電子政府においては,申請が本当に名義人によって行われたのか,また改ざんはされていないかといった認証を行うために,公開鍵認証基盤(PKI: Public Key Infrastructure)を用いた認証システムを用いており,このシステムは政府認証基盤(GPKI)とよばれている.[熊谷敦也]

■電子認証(electronic authentication)てんしにんし 
電子署名および公開鍵証明書(電子証明書)を用いて,印鑑および印鑑証明書と同等の機能を実現し,データの送信者が本人であることを証明する仕組み.電子署名は,送信者の公開鍵で復号化されることで,送信者の正当性の確認を可能とするが,そのためには,公開鍵の持ち主を証明するものが必要となる.この証明を行うのが電子証明書である.電子証明書は,認証局(CA: Certificate Authority)とよばれる組織によって発行される.認証局が信頼できる機関であるならば,電子証明書も信頼できるものと判断され,公開鍵の持ち主が証明できることになる.また,認証局自体の公開鍵の正当性を証明するため,認証局がさらに上位の認証局に認証を受けるといったように,認証局は階層的な構造をなしている.→電子署名[熊谷敦也]

■電子マネー(electronic money, digital cash)てんしまね 
貨幣は価値の流通のための媒体であり,この出現によって交換が一層促進されるようになった.20世紀の後半になって,取引の便利さから,電子的な数字が貨幣の役割を担うようになってきた.たとえば,プリペイド・カードはその中に磁気的に保存された数字がスキャナーによって読み取られて電子的に処理されることで,あたかも貨幣がやりとりされたようにみせる.また,クレジット・カードやキャッシュ・カードによる買物で銀行の取引残高の数字が減少する.このように電子的な数字自体やそれを載せるカードなどの媒体を電子マネーとよぶ.2000年現在ではさまざまな電子マネーが出現してきており,規格統一はまだ行われていない.ICカードを財布がわりとし,銀行の店頭やインターネットなどからそのカードに電子マネーをダウンロードすることで数字を増やし,買物の場で電子マネーを引き出すことで数字が減少する,というシステム等の利用実験が行われている.インターネット・ショッピングの成長のためには,電子マネーの普及が大きな役割を演ずることが予想されている.そのため,電子マネーの貨幣としてのセキュリティの確保が重要とされており,暗号技術などを含めた研究開発が行われている.→インターネット,e-決済[金子武久]

■店頭登録市場(going over the counter stock market)てんとうとう 
証券取引所で株式公開することを「上場」というのに対し,日本証券業協会に登録して株式公開することを「店頭登録」,その市場を店頭登録市場(株式店頭市場)という.証券会社の店頭での相対取引を基本としているために「店頭株」とよばれる.店頭登録市場開設の目的は,登録有価証券の流通の円滑化,取引の公正性確保および投資者保護である.日本証券業協会の定める基準に適合することが登録企業側の必要条件となる.第2次ベンチャーブームの1983年には,店頭登録市場の公開基準が緩和され,この市場を中心にベンチャー企業の公開ブームが生じた.しかしそれでも発行済み株式数200万株以上,純資産2億円以上,一株利益が10円以上という条件があったために,研究開発型ベンチャー企業などにとってはなお高いハードルであった.そこで1995年には,店頭登録特則銘柄制度(第2店頭登録市場)が設けられ,売上高のうち研究開発費比率が3%以上の企業に限っては条件付きで公開が認められた.2000年には,より緩やかな基準の東証マザーズやナスダック・ジャパンの開設で,インターネット関連のベンチャー企業の公開が相次いでいる.→東証マザーズ,ナスダック・ジャパン,ベンチャーブーム[川名和美]




■ドイツコーポレート・ガバナンス規範(Der Deutsche Corporate Governance Kodex) 
2002年に,大手鉄鋼会社テュッセン・クルップ監査役会会長クロメ(G. Cromme) を委員長とする「コーポレート・ガバナンス規範策定委員会」によって答申されたコーポレート・ガバナンス規範のこと.内容は,監査役会(Aufsichtrat)と執行役会(Vorstand,取締役会とも訳される)によるドイツ的な二元的ガバナンス・システムを強化し,新たに市場型コーポレート・ガバナンスも促進するもの.
 たとえば,組織的ガバナンス・システムに関して,執行役会は定期的に現状を監査役会に報告し,経営上の重要事項の決定はあらかじめ監査役会の同意をえること,執行役員の報酬は企業業績を考慮して監査役会が定めること,そして報酬としてストック・オプションを利用する場合,その詳細を開示すべきであるとしている.
 また,市場によるガバナンスに関しては,株主が電子媒体を通して株主総会の状況を追跡できるようにすること,株主への情報提供はインターネットなど適時開示に適した手段を利用すること,開示すべき連結決算はすべて国際会計基準に従って作成すること,連結財務諸表は事業年度終了後90日以内に,期間報告書は報告対象期間終了後45日以内にアクセス可能にすべきだとしている.→KonTrag[菊●研宗]

■ドイモイ(doi moi)といもい 
ベトナム語で刷新を意味する.1986年12月のベトナム共産党第6回大会で採択された改革路線.当時,ベトナムはアメリカから経済制裁をうけるなど国際情勢も不利であり,経済は停滞と混乱に陥っていた.その打開のためドイモイ政策が打ち出された.
 産業政策では,従来の重工業優先政策を●上げし,食料ならびに日常生活に必要な消費財を大量に供給するための農業発展を最優先し,軽工業を重視することとした.農業は農家が基本的な生産単位として位置づけられ,農民の生産意欲が高まり,米の輸入国から世界有数の輸出国に転換した.87年12月に外資導入法を制定し,外国企業の100%所有,法人税の減免,外貨送金の保証などの優遇措置を提供することになった.しかし,その内容や運用についてはまだ問題が多いとされている.
 89年以降,商品経済・市場経済の必要性が認識され,マーケット・メカニズムが重視されるようになった.政府の価格決定は電力,灯油,輸送・交通手段などに限られるようになり,外国為替は闇レートと公定レートが同一水準となった.また,政府は公的所有制が社会主義の唯一の所有形態であるという考え方を改め,私有制を含む多様な所有形態を積極的に認めるようになった.国営企業の管理形態についても,従来は生産量・販売価格などは上級部局からの命令・計画をうけて実施しなければならなかったが,政府は企業に自主権を与え,税金と利潤の一部を徴収するのみとなった.しかし,国営企業の経営の非効率は依然として改善されていない.
 ドイモイ政策により700%にのぼったインフレは沈静化し,95年にはASEANに加盟し,アメリカと国交を正常化した.その一方,赤字国営企業の改革やインフラと法制度の未整備,汚職など問題は山積している.[鈴木岩行]

■投下資本利益率とうかしほん 
投資家が投入した資本に対して純利益がいくらかをみる百分比.分子の純利益は自明だが分母の投下資本をどの範囲まで含めるかが問題である.単純に投資した金額にするか,あるいは自己資本全体を投資家の持ち分としてみるかによって変わってくる.自己資本全体とみると,これは自己資本利益率(ROE)となる.自己資本利益率は,売上高利益率と自己資本回転率を乗じたものになるので,売上高の増加以上にコストを低下させることと,自己資本額の伸びを抑えて売上高を増やすことが,同比率の上昇のポイントになる.今日のような経営環境の厳しい時代では,売上高の伸びは期待できないのでコストを削減することと,自社株買いなどで自己資本を縮減することも考慮した対策が必要である.[坂本恒夫]

■動機づけ・衛生理論(motivation-hygiene theory)とうきつけえ 
ハーズバーグ(F. Herzberg)は,ピッツバーグの技術者と会計士約200人を面接し職務態度を調査することによって,職務満足を与える要因と職務不満足を生み出す要因とがそれぞれ別であることを明らかにした.かれは職務満足要因を動機づけ要因(motivation factor)とよび,職務不満足要因を衛生要因(hygiene factor)とよんだ.動機づけ要因には,仕事の達成感,達成に対する承認・評価,チャレンジングな仕事,責任の増大,昇進などがあり,衛生要因には会社の経営・管理方針,監督者との関係,作業条件,人間関係,給与などがある.動機づけ要因は仕事に内在するものであり,衛生要因は仕事の遂行にかかわる環境条件である.衛生要因とよぶのは,アナロジーとして医学用語を借用したものであり,衛生状態が悪いと病気になりやすいが,衛生状態をよくしても健康になれるわけではないことを意味している.すなわち,衛生要因に問題があれば職務不満を生み出すが,それが整備されたからといって職務満足が感じられるわけではない.これら2つの要因は同一次元の対極にあるものではなく,「仕事そのもの」と「作業環境」という別次元のものである.[小阪隆秀]

■等級別総合原価計算(class cost system) 
等級別総合原価計算は,清酒醸造業,製粉業,既製服製造業等のように,同一工程において同種製品を連続生産するが,その製品を形状,大きさ,品質,性能等によって等級別に区分する場合に適用される.各等級製品について重量,面積,長さ等を基準として等価係数を定め,これを各生産数量に乗じた積数の比較により総製造原価を各等級別の製造原価に按分する.
 等級製品別積数=等価係数×各等級製品
生産量
 等級製品別製造原価=総製造原価×等級
製品別積数÷全製品積数
合計[古庄 修]

■東京都債券市場 
東京都債券市場は,中小企業の金融機関からの借入が悪化する中で,2000年3月に東京都が考案した中小企業へ資金を供給するために設立された直接金融市場である.具体的には,中小企業への融資を裏づけとするCLO(Collateralized Loan Obligation:ローン担保証券)と中小企業の発行する社債を裏づけとするCBO(Collateralized Bond Obligation:社債担保証券)を発行し投資家に販売することで,中小企業が市場からの資金調達を円滑に行おうとするものである.このような自治体による債券市場は,現在では福岡県,大阪府,千葉県,埼玉県などでも相次いで創設されている.→中小企業[林 幸治]

■当座比率(acid test ratio, quick ratio)
当座比率は,流動比率と同様に短期の支払い能力を示す指標である.その比率は,以下の算式で表わされる.〔当座比率=当座資産÷流動負債×100%〕.当座資産には,現・預金,受取手形,売掛金などが含まれている.つまり当座資産は即時に現金化できるものであるということから,現金化に時間を費やす●卸資産はここから除かれる.そのため,当座比率は流動比率よりも即時の支払い能力を判断することができる指標とされ,酸性比率ともよばれる.この数値は,当座資産が流動負債と同額であるか,もしくはそれ以上が望ましいと考えられている.当座比率は,100%以上が望ましい.[森谷智子]

■投資事業有限責任組合 
1998(平成10)年に施行された中小企業等投資事業責任組合法(中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律)に基づき組成される投資事業組合(ファンド)である.同法施行以前,わが国では,ベンチャービジネス等に投資するファンドが組成される場合,ファンドへの出資者全員がその運用に関してすべての責任を負う無限責任組合員であった.一方,アメリカでは,ベンチャーキャピタル等がファンドを組成する場合,ベンチャーキャピタリストとしてファンドを実際に運用する業務執行組合員は無限責任組合員(ゼネラル・パートナー:general partner)となるが,単にファンドに出資するだけの非業務執行組合員は出資額の範囲までしか責任を負わない有限責任組合員(リミテッド・パートナー:limited partner)である.ゼネラル・パートナーは,通常ファンドに対して全出資額の1〜2%しか出資しないが,ファンド運用の責任者として出資額の2〜3%程度を年間の管理報酬として受け取る.また,ファンドの運用を通じてキャピタルゲイン等を得た場合には,その20%程度を成功報酬として受け取ることができる.一方,リミテッド・パートナーは,ファンドの98%程度を出資するが,その運用には一切関与しない.ただし,ファンドがキャピタルゲイン等を得た場合には,ゼネラル・パートナーの成功報酬分を差し引いた80%程度を得ることができる.
 以上のようなアメリカの制度を範として,ベンチャーキャピタル等によるファンドの組成を容易にし,ベンチャービジネス等への投資を円滑化すべく施行されたのが中小企業等投資事業有限責任組合法であり,同法に基づき,有限責任組合員の存在を前提として組成されるファンドが投資事業有限責任組合である.なお,同法は2002(平成14)年に一部改正され,ファンドからの融資や未公開の中小・ベンチャー企業以外への投資が可能になった.→中小企業等投資事業有限責任組合法,ベンチャーキャピタル,ベンチャービジネス[関根雅則]

■投資収益率(rate of return on investment)とうししゆう 
投資家が一定の資本を投下して回収できるリターンの百分比.分母の投資額は明確だが分子にあたる収益を何にするかは,分析の目的により異なる.収益を配当のみとした場合はいわゆる株式利回りと同じになるが,一般的には配当とキャピタル・ゲインの合計を分子とする.日本のように配当額が低位で一定に保たれる場合,キャピタル・ゲインの多寡が比率の大小に決定的影響をもたらす.しかし配当は株式保有をしていれば手に入るが,キャピタル・ゲインは売却しないと獲得できない.したがって後者の投資収益率は計算上のものということができる.配当ではなくキャピタル・ゲインの獲得を目的とすると,重要なことは企業の利益率のみではなく,株価が過少評価の銘柄や企業の将来性などがポイントになる.[坂本恒夫]

■投資信託(securities investment trust)とうししんた 
投資信託とは,多数の投資家により基金が設定され,投資の専門知識をもつ管理者により,各投資家が個々に行うよりも安全で収益性の高い投資を行い,その成果が出資した投資家に分配される制度である.投資信託は形態別に分類して契約型投資信託と会社型投資信託に分けられる.
 契約型投資信託は信託契約によりファンドが設定される.@信託財産の運用者(委託者),(2)信託財産の保管者(受託者),(3)投資家(受益者)の3者から構成されており,委託者が受託者との信託契約を締結し,信託財産を設立する.これを委託者の指示通りに運用することとし,信託財産の受益権(信託財産に対する権利など)を,受益証券という有価証券の形態で発行し,投資家に取得させる形態である.日本では契約型の投資信託が一般的である.
 会社型投資信託とは株式会社として基金が設立される形態である.投資活動を経営目的とした会社を設立し,その株式を投資家に取得させる仕組みとなっている.したがって,会社型投信の基本的な当事者は,投資活動を行う会社(実際には経営を委任された管理者)と株主(投資家)の2者から構成されることになる.投資会社と株主との関係は,一般の事業会社のそれと同様であり,株主は株主総会への出席や議決権の行使などによって当該会社経営への直接参加が可能となっている.アメリカの投資信託は会社型であり,オープン・エンド型とクローズド・エンド型に分類される.前者は買取請求権付証券を発行している投資会社であり,一般にミューチュアル・ファンドとよばれている.クローズド・エンド型は買い戻し義務がない.クローズド・エンド型の投資信託は,通常証券取引所に上場される.
 日本では,98(平成10)年12月の投資信託法の改正により会社型投資信託が設立可能になった.不動産投資信託は会社型の形態をとっている.[三和裕美子]

■投資信託会社とうししんた 
不特定の投資家から預かった資金で,高い利益を生み出すような国内外の株式や債券などの金融商品に投資する専門的な役割を担っている会社のこと.投資信託会社は,その資金を効率的に運用するために,以下の業務に取り組んでいる.第1に株式市場や債券市場に関する現状分析,第2に投資対象企業の財務分析,第3に受益証券の募集および発行,第4に投資の対象銘柄・運用の仕組み・購入や解約方法などを詳細に説明した目論見書の作成,第5に投資信託の一口当たりの単価を計算したうえで,投資家に購入価額,解約価額を公表するための基準価額の算定,などを行っている.さらに,ファンドの決算日には運用状況や運用実績をまとめた運用報告書を作成し,投資家に金融商品への透明性・安全性を高めるための情報を提供している.[森谷智子]

■東証マザーズ(MOTHERS)とうしようま 
Market of the High-growth and Emerging Stocks(高成長・新興株式市場)の頭文字を取って名づけられた,東京証券取引所に2000年に開設されたベンチャー企業向けの株式市場.ベンチャー企業に向けては資金調達の場として,投資家に向けてはハイリスク・ハイリターンの投資案件を選択する場として創設されたマザーズは,既存の東証一部,東証二部に並立する株式市場として位置づけられている.従来の株式市場が,上場企業に対して設立後経過年数や利益の額など安定性を要求するのに対して,マザーズでは将来の成長性を重視しているのが特徴.赤字経営の企業でも,将来性が十分に見込める場合にはマザーズに上場が可能となる.また,投資家が常に企業情報を把握できるように,上場企業には会社説明会を開くなどディスクロージャー(情報公開)が義務づけられていることから,マザーズ上場企業は経営業績などの透明性が確保されることになる.→ナスダック・ジャパン[川名和美]

■特殊原価調査(special cost studies) 
意思決定目的の原価計算であり,企業活動の基本的事項に係る代替案の選択に必要な原価情報を提供する.財務会計機構の●外で,臨時的・統計的に,または必要に応じて随時的に行われる原価計算であるため,原価計算制度とは区別される.特殊原価調査において,経営意思決定のために用いられる特殊な原価概念として,差額原価(特定の意思決定の結果変化する原価),埋没原価(いかなる代替案を選択しても意思決定には影響を与えない原価),機会原価(複数の代替案からひとつを選択し,他を切り捨てた場合に失われる利益)等がある.[古庄 修]

■特殊法人とくしゆほう 
政府が各省庁にかわって事業を営ませるため,特別の設立法に基づいて設置される法人.その名称は,公庫・公団・事業団・銀行など多様で,商法上の会社形態をとる特殊会社も含まれる.多くの特殊法人の財源は,郵便貯金などを原資とする財政投融資のほか,一般会計からの出資金や補助金に依存する.2001年度から自前の資金調達を促すため財政投融資機関債が発行されるが,実効性に強い疑念がもたれている.特殊法人の役職は所管省庁の天下り高級官僚の指定席になっており,強い批判が投げかけられている.傘下に公益法人や企業を抱える特殊法人が多く,本体の職員数は抑制されても傘下組織の肥大化傾向がみられる.
 特殊法人の数は66(1960年度)から112(70年度)に増加し,その後は減少している.2000年12月に閣議決定された「行政改革大綱」と翌年6月制定の「特殊法人等改革基本法」によって,特殊法人は全面的に見直されることになった.現在は,廃止・民営化・独立行政法人化という3種類の方向で組織改編がなされつつある.こうした特殊法人の改編が,真に稔り豊かな特殊法人改革となるのか,それとも名称変更による実質的存続なのか,今後問われることになる.[井上照幸]

■独立行政法人 
行政組織の事務や事業の効率化を理由として,政府が独立行政法人通則法に基づいて設立する法人組織のこと.政府の行政サービス部門を政策部門から切り離した上で法人格を与える.中央省庁の再編に伴い,現業部門の効率化をめざして設立されることが多い.その場合,省庁と独立行政法人の間で業務に関する契約関係を結び,一定の自由裁量権をもたせて経営を任せる.イギリスのサッチャー政権下で1988年に行政改革の一環として導入されたエージェンシー(agency)をモデルとしている.わが国では,2001年度から4年間で100に近い国の機関と業務が独立行政法人に移行することになるが,その内訳としては研究機関・博物館などが目立つ.また,国立大学の独立行政法人化も進められた.
 独立行政法人に移行するメリットとして,一定程度は予算や定員を弾力的に設定できるので,業績好調のときは職員の給与増額も可能になるといわれる.また,公務員の身分を保障される職員が大半を占めるが,トップに民間人を迎えることもありうる.業務実施の進度については,定期的に所管官庁の評価委員会が評価することになる.[井上照幸]

■特許管理(patent management)とつきよかん 
知的財産権のひとつである特許となる発明は,産業上利用できる新規性や進歩性ある物と方法を対象とするものである.新規で有用な工業的発明をなした者に対して,発明公開の代償として一定期間その発明の独占的使用権を認めることが特許制度である.特許制度は,国内外において特許権利者の技術的独占を許容するとともに,権利者と第三者の間で調和を図りつつ,新しい技術としての特許を人類共通の財産として広く活用し,技術の進歩やその結果としての社会経済の発展に役立たせようとするものである.特許期間に関しては,日米欧でそれぞれ出願日より20年であるが,特許権の付与に関しては,日本やヨーロッパでは最初に特許を出願した者に対して付与する先願主義が,またアメリカでは最初に特許を発明した者に付与する先発明主義がとられるなど制度的に国や地域によって特許は異なる.
 特許を戦略的に管理することによって,企業の技術的財産である特許が他者の模倣から保護され,ライセンス契約を通して特許収入が得られ,あるいは特許の領域で技術開発のリーダーシップが発揮され,さらにライセンス生産など特許を基に他社との関係づけを強めるなど排他的に活用することができる.今日の特許戦略においては,これまで他社からの模倣を防ぐために特許を出願していく防衛戦略から,技術の標準化や特許収入など他社へ特許を積極的に供与していくために特許を出願する戦略へのウェイトが高まっている.→技術提携,ロイヤルティ[中原秀登]

■特恵関税(preferential duties)とつけいかん 
特定の国に対して,とくに関税率を低くしたり,関税そのものを廃止して,他の国よりも関税上優遇することをいう.英連邦特恵が典型的な例であった.植民地などに関税上の有利な待遇を与える制度として第1次世界大戦後発達した.
 他方,このような差別的な特恵関税制度は,GATT・WTOの無差別最恵国待遇の原則に反するが,存続特恵関税が認められたことと,1968年インドのニューデリーで開催されたUNCTAD(国連貿易開発会議)における決議によって,南北問題解決の一環として例外的に認められた.日本,EUは1971年から,アメリカは1975年から開発途上国経済支援のため一般特恵関税(GSP: Generalized System of Preferences)が実施されている.現在,大部分の先進国はGSP制度の枠内で後発開発途上国に一般特恵より有利な関税待遇を与えている.
 GSPは輸出競争力の弱い開発途上国産品の輸出を支援するために先進国市場を開放することを目的としている.したがって,競争力のついた産品については,適用除外されたり,適用を輸入枠で規制されたりしている.
 ウルグアイ・ラウンドの関税引下げ交渉の結果,一般関税との差が大幅に縮小し,特恵関税を与える余地が少なくなっている.→最恵国待遇,WTO[田中友義]

■ドットコム企業 
インターネットビジネスを中心にした企業を示すが,インターネットビジネスの総称の場合に使われることもある.ドットコムの由来は,インターネットのドメイン名で商用を表す「.com(ドットコムと読む)」であり,アメリカ企業が使用したことでこのドットコムが有名になった.1990年代インターネットの普及により,独自の技術やアイデアによって注目され,ベンチャーキャピタルなどから資金を集めて設立した企業が相次いだ.ドットコム企業が話題となったのは技術や事業内容よりも,こうした資金の集め方と設立の仕方の要素が強い.
 ところが,グローバル・レベルでの企業再編成やインターネットを利用した取引による産業構造の変化の兆しは,リアルな組織と既存の産業構造に依存した商習慣の存在を脅かしつつある一方で,ベンチャー時代は終わりつつあり,既存企業によるインターネットビジネスの参入によってアイデアだけで実際ロジスティックスをもたない企業は競争力を失いつつある.
 ちなみにドメイン名とは,IPネットワークに接続されたコンピュータ単位に割り当てられ識別番号をIPアドレスというが,数字の羅列でわかりにくいため,文字と数字で識別しやすくした別名.IANAが管理して下部組織のNICが割り当て業務を行う.「.com」は,国際NICといわれるinterNICが割り当てるドメイン名.どの国であっても取得できる.→インターネット[杉野 周]

■トップ・マネジメント(top management)とつふまねし 
企業活動を全般的に統括し,その方向付けを行う人びと,あるいは特定の個人をさす.企業の規模が大きくなり,その活動内容が多様化・複雑化してくると,企業活動は管理する地位のものと管理される地位のものとが階層的に組織された経営階層によって運営されるようになる.この階層の中で最上位に位置するのがトップ・マネジメントである.所有と経営の分離が進む株式会社においては,所有者としての株主の利益という観点から企業の全般的な意思決定を受託する取締役会や,その決定をうけてこれを全社的な視点から実施に移していく全般的経営職能を担う経営会議や常務会などがトップ・マネジメントにあたる.
 トップ・マネジメントの職能は,企業全体の目的・目標・方針を設定し,企業活動を構成する多数の事業単位全体の戦略を立案し,各事業単位へ経営資源を配分して,それらの活動を調整・評価することである.その意思決定の特徴は,日々の反復的な意思決定ではなく,非定型的で不確実性が高いところにある.→ミドル・マネジメント,ロワー・マネジメント[秋野晶二]

■ドミナント・デザイン(dominant design)とみなんとて 
支配的なデザインのことである.アバナシー(W. J. Abernathy)等によると,製造工程と製品の進化には,流動的段階と成熟段階があり,進化の初期である流動的段階では,新製品の性能に関する基準がはっきりと定められていない.この状態の中で,消費者と生産者が研究と学習を反復していくことによって,製品の機能のコア・コンセプトが次第に明らかになっていく.
 ドミナント・デザインは,この市場でのコンセンサスが得られたときに確立される.ドミナント・デザインが確立されると,技術的な関心と影響力に関して全体的な序列づけがなされ,これまで分散していたさまざまなイノベーションが結晶する.そして,製品デザインの標準化が達成されると,製造工程も標準化を開始する.そうなると,これまでの競争のあり方が