増補版 現代経営用語の基礎知識
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■マイクロクレジット(microcredit)まいくろくれ 
直訳すれば少額貸付だが,貧困層を対象とする無担保での少額融資制度を意味する.発端となったのは,バングラディシュでムハッマド・ユーヌス(Muhammad Yunus)が主導して1983年に設立されたグラミン銀行である.グラミンとはベンガル語で農村を意味し,土地をもてない農村部の貧しい人びとに無担保で小額の資金貸付を実施する.提唱者のユーヌスは貧困の原因を既成の社会制度のうちに理解した.その貧困からの脱出を可能にするシステムがグラミン銀行によるマイクロクレジットである.これによって,「貧困のために資金調達ができず最低生活を強いられる」という不公正な非人間的悪循環からの決別が志向される.
 マイクロクレジットは慈善事業でなくビジネスとして機能する.依存心を助長しがちな無償援助でなく,低利融資による貧困層の自立支援を志向する.貧困層の自助努力の支援にこそマイクロクレジットの目的と存在意義がある.これが評価されて,グラミン銀行を端緒とするマイクロクレジットはアジア,アフリカ,中米・南米,ロシア,東欧,アメリカなどで普及しつつある.融資対象も農業に限定されず,小規模な商工業にも広がっている.貧困層の一時的救済ではなく持続的な生活改善と自立援助を志向するため,読み書き計算から経営技能の養成,子供の教育支援といった長期的施策が必要な場合も少なくない.困難な課題は多いが,発展途上国と先進国の共生の視点からもマイクロクレジットへの関心は国際的に高まっている.[井上照幸]

■埋没費用(sunk cost) 
すでに投下された資本で,どのような決定がなされようとも回収することができない支出である.すなわち,意思決定のさいに,そのような費用のことを考慮してもしかたのない,どうしても負担しなければならない性質のものであり,避けることのできない費用である.たとえば,遠くまで行くバスの切符を紛失してしまい,再びお金を払うかそれとも出かけないで我慢するかという意思決定の際,すでに失われた切符の代金は埋没費用であり,考慮しても仕方のない費用である.したがって,自問すべきことは,バスの代金を払っても行く必要があるかどうかだけであり,失われた過去の代金はこのさいの意思決定には無関係である.サンクコストあるいは埋没原価ともいう.[小阪隆秀]

■マイレージ・プログラムまいれしふろ 
航空会社が,搭乗客に対して,飛行マイル数に応じてマイル積算を行い,必要マイル数が貯まると無料航空券を提供するサービス・プログラムをいう.このプログラムは,航空会社間の競争激化の中で,競争優位性のあるマイレージ・サービスを顧客に提供することによって,航空会社が,他社から自社へ顧客をシフトさせるための手段となっている.いくつかのアライアンスグループが形成されており,提携先の航空会社にもマイレージ・サービスでの搭乗を可能としている.
 マイレージ・サービスの競争優位を構成する2つの要因は,どの航空会社の会員がもっともマイル数を貯めやすいか,そして,無料航空券を使いやすいかであろう.たとえば,スターアライアンス(UA社を中心とするグループ)は2000年7月1日現在,世界800以上の都市への旅行を可能とする15の航空会社がこれに加盟している.提携会社の数が増大すると,顧客はマイル数を素早く獲得できるようになる.今後,旅行客による特定のアライアンスの選択とこれに対する集中が進み,航空会社の国際競争力に差が出てくるであろう.→戦略的提携[黒川文子]

■マインド・シェア(mind share) 
消費者が製品を購入する際に競合関係にある複数のブランドの中から自社ブランドを想起する割合のことをさす.市場シェアやブランド認知率,ブランド・ロイヤリティと並んで,ブランドの強さを測定する指標のひとつであり,ブランドに関するさまざまなマーケティング活動の成果ともいえる.マインド・シェアの高いブランドは,そのブランドや提供するメーカーを単に知っているからという理由だけで高いわけではない.むしろ,現在利用して気に入っているものであったり,広告の印象が強く残ったものであったりするなど,競合する複数のブランドが消費者の頭の中でいくつかのふるいにかけられ,最終的に記憶に残ったブランドが高いマインド・シェアを享受している.自社製品ブランドのマインド・シェアが高ければ,競合関係にあるブランドとの間で,有利な競争を展開する事が可能となる.しかしブランド間の競争には,流通や営業に関する力の変数が加わるので,高いマインド・シェアが自社の売上高に必ずしも結実するとは限らない.[木村達也]

■マキラドーラ 
メキシコのアメリカ国境近くに設けられた輸出保税加工地区のこと.「北米自由貿易協定(NAFTA)」発効後には,労働賃金が安いメキシコで生産活動を行い,その商品をアメリカやカナダの国内市場へ輸出することが盛んに行われた.その中心地がマキラドーラである.これまでマキラドーラでは多くの多国籍企業が生産活動を行い,完成品を直接にアメリカ市場へ輸出していた.具体的には,アメリカ国内へ進出している多国籍企業がマキラドーラへ部品を持ち込み,そこで最終的な加工を施し,再び無関税でアメリカやカナダの国内市場向けに販売を行ったのである.
 これまでマキラドーラには,多くの日系や他のアジア系多国籍企業が加工工場や組立工場を設立していた.しかし,2000年11月からは前述の輸出保税が廃止され,無税で持ち込めた部品にも最高で5%の関税がかかるようになっている.付加価値税についても一部で実施されるようになった.さらに,マキラドーラでは多くの企業が組立工場などを密集させたため,人件費が高騰した.こうしたことから多国籍企業のマキラドーラへの投資額は大きく減少してきている.現在,中国などアジア地域へ工場を移転させる事例も多くなっている.→世界最適調達,北米自由貿易協定[加藤 巌]

■マグレガー(McGregor, Douglas, 1906〜1964) 
アメリカ生まれ.ハーバード大学で心理学の博士号を取得したのち,数年間はハーバード大で教え,1973年にマサチューセッツ工科大学へ.主著であるThe Human side of Enterprise,1960.(高橋達男訳『企業の人間的側面』産業能率短期大学出版部,1966年)の中で,経営者の意思決定や活動の背後には,個々の経営者の経営管理スタイルを決定するのに重要な役割を果たす,人間性や人間行動に関する仮定が存在していることを述べた.この仮定は,X理論/Y理論として有名.→X理論/Y理論[木村有里]

■マクレーランド(McClelland, David C., 1917〜1998)まくれらんと 
アメリカ生まれ.ハーバード大学教授.人間には達成(achievement),親和(affiliation),権力(power)の3つの欲求があり,人間の達成欲求を動機づけ要因とする「達成動機理論」を説いた.(達成欲求とは「なにかを成し遂げたい」という欲求のこと.)長年にわたり,達成動機に関する研究を組織的に展開し,達成動機の測定法の開発や,それを用いた達成動機の個人差と規定要因の解明に業績をあげた.マクレーランドの輪投げ実験も有名.[木村有里]

■マーケットメーク方式まけつとめく 
値付け業者となった証券会社(マーケット・メーカー)が,特定の銘柄について自らの相場観や株券調達能力を基に,売り気配と買い気配を常に提示し,その値段での顧客からの売り注文に対しては買いに応じ,買い注文に対しては売りに応じる方式である.クォート・ドリブン方式ともいう.大口取引を迅速に成立させることができる.ロンドン証券取引所やアメリカの第三市場はこの方式を採用している.ニューヨーク証券取引所でもスペシャリストにこの業務は許されている.わが国の場合は,店頭株式市場改革の一環として1998年12月に導入された.2004年5月現在の銘柄数は270であり,マーケット・メーカーは2004年5月現在で19社となっている.→店頭登録市場[貞松 茂]

■マーケティング(marketing) 
かつて企業は,生産志向,製品志向,販売志向,の経営理念を掲げて経営を行うことが多かった.これらの経営理念は,企業の外部である顧客を志向するものとは異なり,企業の内部である生産の効率化,顧客ニーズやウォンツを忘れた製品改良,企業の論理を前面に出した顧客への強引な売り込みなどを意味することが多かった.これらは,企業側からの一方向的な顧客への働きかけであり,これらの理念だけでは企業の存続や成長が危ういことが経験的に明らかになってきた.続いて,顧客のニーズやウォンツを前面に出した顧客志向の経営理念が脚光を浴びるようになり,顧客のニーズやウォンツを吸い上げ,そこから新製品や製品改良のアイデアを生み出し,製品化によって応えることで,リアルタイム的ではないものの,企業と顧客との間の双方向的なやりとりが重要視されるようになった.交換を促進するためのこのような双方向的なやりとりがあらわれるに至って,これをマーケティングの誕生とみなすことが多い.企業が直面する外部環境と企業自身との間に,経済的なよき関係をつくることがマーケティングの核心であり,4pがその手段として用いられる.→マーケティング・コンセプト,マーケティング・ミックス[金子武久]

■マーケティング環境(marketing environment) 
企業のマーケティング環境は,マーケティングの外部を取り巻く関係者や要因から成る.これらの関係者や要因が,ターゲット顧客との良好な取引を開拓し,維持するマーケティング能力に影響を及ぼす.マーケティング環境は企業に機会と脅威の双方をもたらすので,企業は成功を収めるためには変化する環境から常に目を離さず,それらに的確に対応していかなければならない.
 企業を取り巻く環境は,マクロ環境要因とミクロ環境要因から成り立っている.マクロ環境要因は,人口統計的要因,経済的要因,技術的要因,政治的要因,文化的要因,自然要因などから構成されている.これらの諸要因は,企業にとって統制することが不可能である.しかし最善の機会を見い出すためには,これらの諸要因を監視し,適応していくことが不可欠である.一方,ミクロ環境要因は,次の6要因から構成されている.
(1)企業自身:トップ・マネジメントをはじめ,財務,研究開発,購買,製造,会計等,企業における諸部門から成り立っている.企業は,これらの諸部門との関係を,マーケティング戦略を策定する上で考慮すべきである.
(2) 供給業者:製品やサービスの生産に必要な資源は,供給業者から調達する.供給業者は,企業のマーケティング活動に大きな影響を与える.
(3) マーケティング媒介業者:中間業者や物流業者,マーケティング・サービス業者,金融業者等からなるマーケティング媒介業者は,企業における最終購買者への製品の販売と流通活動を支援している.
(4) 顧客:顧客は,売り手である企業と,製品やサービスとその対価を交換する事により,特定のニーズやウォンツを満たそうとする.その交換のために,顧客と企業が集まってくる場所が市場である.市場は,消費市場,業務市場,再販市場,政府・非営利市場,海外市場などから成り立っている.
(5) 競争者:企業が長期的に生存・成長するためには,顧客を理解するだけでは不十分である.自社の競争力を磨くために,競争者にも顧客と同等の注意を向けなければならない.
(6) 公衆:公衆とは,企業の目的達成能力に対して,現実的あるいは潜在的に利害関係と影響力を有するグループを指す.公衆は,従業員などの企業内公衆をはじめ,メディアや政府,市民運動グループなどから構成されている.[木村達也]

■マーケティング・コンセプト(marketing concept) 
マーケティング・マネジメントが志向する理念には,生産志向コンセプト,製品志向コンセプト,販売志向コンセプト,マーケティング・コンセプト,社会的マーケティング・コンセプト,がある.生産志向コンセプトとは,生産過程の改善と流通の効率化をめざす管理理念であり,当該製品に対する需要が供給を上回り,顧客が製品の入手しやすさと低価格に関心がある場合に有効と考えられている.製品志向コンセプトとは,製品の品質改善をめざす管理理念であり,顧客が製品の品質に関心をもち,競合ブランド間の品質の差異を認知して予算の範囲内で最良の製品を購入するような場合に有効と考えられている.販売志向コンセプトとは,生産過程や製品自体が改善されたり流通が効率化しても,当該製品への関心を引き出すためには顧客を刺激する必要があるとする管理理念であり,顧客が普段は買おうとは思わないような製品を扱う場合に有効と考えられている.また,製造業者や流通業者が製品の余剰在庫を抱えている場合にもこの理念が用いられる.
 以上の管理理念は売り手主導の考え方であるが,マーケティング・コンセプトは,買い手主導の理念であり,顧客がどのようなニーズ・ウォンツをもっているのかにより,これを満たす手段としての製品やサービスを,競争相手よりも効率的・効果的に顧客に提供することを志向する.近年,個々の顧客のニーズやウォンツに目を向けるだけでなく,地球環境や社会のあるべき姿や社会的価値を考慮に入れて拡張された社会的マーケティング・コンセプトが台頭してきている.その中でとくに注目されてきているものに自然環境を強調したエコロジカル(グリーン)・マーケティングがある.→エコロジカル・マーケティング[金子武久]

■マーケティング情報システム(marketing information system)まけていんく 
企業にとって情報は,ヒト・モノ・カネとともに,経営資源を構成している.適切なマーケティング意思決定を行うためには,市場の実態や動向に基づいた情報をはじめ,企業内会計情報などが必須となる.この情報は,企業経営にとっても重要である.そこで,マーケティング意思決定を支援する情報を提供するに際して,重要な役割を果たすような種々の方法や用具が考慮されなければならない.オペレーションズ・リサーチや数学的な情報処理モデル,および購買動機に関する調査と情報システム,販売報告システムなどは,マーケティング意思決定を支援するシステムとして開発・利用されている.マーケティング意思決定は,十分にして適切,かつ正確な情報に大きく依存している.それゆえに,マーケティング情報システムによる有効な蒐集・分類・分析・管理・評価・伝達が求められる.マーケティング情報システムには,マーケティング情報の蒐集方法をはじめ,定量的な情報の処理方式や定性的な情報の定量化方式などが組み入れられている必要がある.
 マーケティング情報システムの目的は,企業経営者やマーケティング担当者などに対して,彼らの行動の基礎となる適切な情報を準備し,提供することにある.このシステムは,マーケティング意思決定を支援すべく,予測とフィード・バックという2つの基本的な機能の遂行を通して目的を果たす.予測は長期・短期における企業目的あるいは計画の策定に役立ち,フィード・バックは計画と実績の差異を分析する上で役立つ.マーケティング情報システムを活用することにより,蒐集した情報を分析し,その分析結果を解釈し,さらには将来的に発生しうる事態の傾向や発生確率を予測することが可能になり,有効なマーケティング戦略の策定に結実する.企業のマーケティング活動が全社的な使命の達成と関連する場合,マーケティング情報システムは,現実を直視し,かつ実践性の高いマーケティング活動を導出する上で,有効なベースとなりうる価値を有している.それは,潜在需要を顕在化させ,消費者に最大の満足を与え,マーケティング目的のみならず全社的な使命の達成に寄与できるものと考えられている.→オペレーションズ・リサーチ[木村達也]

■マーケティング・マイオピア(marketing myopia)まけていんく 
マーケティング学者レビット(T.Levitt)によって提唱され,マーケティングを進めるにあたって陥りやすい罠を象徴的に表現した言葉.マイオピアとは近視眼のこと.事業を展開するためには自らの活動領域を具体的かつ明確に定義した方が効率的に行える.しかしながら,あまりに具体的に自らの活動領域を定義してしまうと木をみて森をみずという状況に陥ってしまうことがある.たとえば,かつてアメリカにおいて,鉄道産業が大いに繁栄したが,その後衰退の一途をたどった.鉄道産業は,車両を鉄道の上に載せて運行する鉄道業として自らを定義し,顧客はその鉄道車両に乗りたいのだとみなしていた.しかし,顧客のニーズは鉄道に乗ることなのではなく移動することであり,また,荷物を鉄道に載せることではなく荷物を送るというニーズがあったのである.自らを鉄道産業と狭く規定するのではなく,輸送産業と広く定義づければ,そこからさまざまな輸送サービスを生み出す可能性が出てきたであろうが,自らの事業領域を狭く近視眼的に捉えてしまったために,顧客の本当のニーズがみえなくなってしまったといえる.視野の広い顧客志向のマーケティング・コンセプトになるべきであることをマーケティング・マイオピアという言葉が象徴している.→マーケティング・コンセプト[金子武久]

■マーケティング・ミックス(marketing mix)まけていんく 
さまざまなマーケティング活動をその関連性の強さでまとめあげ,製品(product),プロモーション(promotion),流通チャネル(place),価格(price),の4つの分野に類型化したものをマーケティング手段とよび,これらはマーケティング学者マッカーシー(E.J.McCarthy)によって提示された.これら4つの分野の英単語の頭文字がいずれもpであることから4Pと一般的によばれる.
 長期的な視点にたってヒト,モノ,カネ,情報などの経営資源の再配分をも考慮したうえで,企業やその事業部などのマーケティングを行う主体が立案し実行するマーケティング手段を,マーケティング戦略とよぶ.その場合の4Pは,製品戦略,プロモーション戦略,流通チャネル戦略,価格戦略などとよばれる.一連のマーケティングが有効性を発揮するためには,戦略として4Pそれぞれが互いに独立したものではなく,有機的に関連づけられている必要があると考えられている.たとえば,製品戦略の部分で高級さを意図して製品が開発されたにもかかわらず,プロモーション戦略の部分で軽い面白さを狙ったのでは製品戦略とプロモーション戦略が連動・調和せず,顧客へのインパクトが弱くなってしまったりマイナスの影響を及ぼしたりしてしまう.製品戦略に合わせて高級なイメージを醸し出すようなプロモーションを行うことが顧客へのインパクトを強め,これによって一連のマーケティングの有効性が高められることが期待される.このように互いにうまく関連し合っている4Pの組み合わせをマーケティング・ミックスとよぶ.→価格戦略,製品戦略,プロモーション戦略,流通チャネル戦略[金子武久]

■マーケティング・リサーチ(marketing research)まけていんく 
企業と市場環境を結びつけるマーケティングをより効果的に行うための情報提供活動であり,それには,情報の特定,収集,分析,解釈などが含まれる.これによって企業がおかれている環境を理解し,企業が直面している問題や機会を識別し,マーケティング活動の代替案を策定し,それを評価することが可能となる.マーケティング・リサーチを進めるにあたっては,いくつかの作業段階を踏まえるべきことが経験的に知られている.そこには,リサーチ目的の明確化,リサーチ情報の評価,リサーチの設計,リサーチの実施などが含まれる.
 リサーチの実施時においては,単純集計やクロス集計をはじめとし,平均の差の検定,多変量解析などの各種統計技法が利用される.近年,POSシステムやインターネットなどを利用したデータ収集技術の発展によって膨大なデータが蓄積されてきており,あわせてコンピュータを中心とするハード面の性能向上,人工知能や統計技法などのソフト面の発展と普及に伴い,蓄積された膨大なデータの中から傾向や法則性を推定するデータ・マイニングの技術が生まれ,これによる自動的なマーケティング・リサーチを行うシステムが発展しつつある.→消費者行動分析,データ・マイニング[金子武久]

■マーシャル(Marshall, Alfred, 1842〜1924) 
新古典派の経済学者.以前は生産関数として捉えられていた企業家能力や組織を,土地・資本・労働に継ぐ第4の生産要素と位置づけた.株式会社や大規模生産,企業間結合,企業成長に関する考察も行っている.主著,Principles of Economics,1890.(馬場啓之助編訳『経済学原理』東洋経済新報社,1965年)で,大規模生産による費用逓減を,企業規模の拡大などによって得られる内部経済性と産業集積などによって得られる外部経済性とに区別した.[西村 晋]

■マス・カスタマイゼーション(mass customization)ますかすたま 
マス・プロダクションとカスタマイゼーションというトレード・オフ関係にある経営システムを統合し,両者のメリットを生かそうとすること.個別化していく顧客のニーズに対応するために製品の種類を多様化するとともに,旧来の大量生産型システムを革新することによって,多様化した製品をフレキシブルに,かつ大量に生産することを目指す.
 カスタマイゼーションとは製品仕様を顧客の要望に合わせて細分化していき,究極的にはオーダーメードにすることである.しかし,このような細分化ないしオーダーメード化は,大量生産のための製品の標準化とはまさに正反対の生産方法である.大量生産は規模の経済を追求するものであり,需要が安定しており,同質的な市場に対して,低コストで標準化した製品を大量に供給することで成り立つ経営システムである.製品のライフサイクルも安定的で,開発サイクルも長い.だが,いまや市場はますます細分化され,顧客のニーズは急速に,しかも継続的に変化していく.それに伴い,製品ライフサイクルは短縮化し,開発サイクルも短縮化せざるを得なくなる.製造プロセスも,大量生産ではなく,範囲の経済を追求する多品種少量生産が可能なフレキシブル生産システムへと移行していかざるを得ない.こうして,製品のバラエティ化とカスタム化に対応しうるフレキシビリティと即応性を備え,しかも結果として大量生産を可能にすることで低コスト化を実現するマス・カスタマイゼーションの経営システムが成立してくることになる.[小阪隆秀]

■マーストリヒト条約(Maastrichit Treaty)ますとりひと 
1992年2月7日オランダ・マーストリヒトにおいて調印された欧州連合(EU)を創設する基本条約(通常マーストリヒト条約ともよばれる)のこと.1993年11月1日発効した.同条約の最大の意義は欧州中央銀行の設立と1999年1月からの単一通貨の導入を伴う経済通貨同盟(EMU)に関する規定を条文化したことである.ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)設立条約(パリ条約,1951年4月18日調印,1952年7月23日発効,2002年7月23日廃止),EEC(欧州経済共同体)設立条約とEAEC(欧州原子力共同体)設立条約(いずれもローマ条約とよび,1957年3月25日調印,1958年1月1日発効)の3つの基本条約は,単一欧州議定書(SEA)(1986年2月17日調印,1987年7月1日発効)によってEC発足後初めて改正されたが,マーストリヒト条約は2回目の基本条約の改正であり,3つの柱から構成される列柱構造をとっている.第1の柱は,EC(3つの共同体)の領域で,EC(欧州共同体,これまでのEECをECに置き換え),ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体),EAEC(欧州原子力共同体)の3つの超国家的な共同体の分野であり,原則的には欧州委員会が政策立案し,欧州議会などが諮問を受け,EUの閣僚理事会が意思決定する領域である.第2の柱は,これまでの欧州政治協力(EPC)を発展させた共通外交安全保障政策(CFSP)の領域と第3の柱である査証・移住・難民政策,犯罪捜査協力など司法内務協力(CJHA)の領域で,いずれも政府間協力の分野であるが,アムステルダム条約によって,かなりの領域が第1の柱の領域へ移された.したがって,複雑な構造をとっているEUの運営は,3共同体を中核としていることは明らかである.マーストリヒト条約は,アムステルダム条約(1997年10月3日調印,1999年5月1日発効),ニース条約(2001年2月26日調印,2003年2月1日発効)と2度も改正されて現在に至っている.さらに,2004年5月1日から中・東欧を含む25ヵ国の拡大EUが発足したことに伴い,EUの基本法となる欧州憲法条約が2004年10月29日調印され,2007年ごろの発効をめざして今後加盟各国での批准手続きがとられることになっている.→EU閣僚理事会,EU(EC)法,欧州委員会,欧州議会,欧州共同体,欧州中央銀行,欧州理事会,欧州連合,経済通貨同盟(EMU),単一欧州議定書[田中友義]

■マス・マーケティング(mass marketing) 
市場細分化にかかわらず,ある製品やサービスに関連する顧客全体をひとつの同質な市場とみなし,そこに対して一組のマーケティングを展開することをさす.特定のひとつの市場細分に焦点をあてた集中化マーケティングと比較すると,市場の規模的な捉え方に違いがあるがその区別は必ずしも明確ではない.マス・マーケティングには,顧客のニーズやウォンツがかなり同質的であるという特別な状況が必要である.一般に,新市場が立ち上がった当初は,顧客のニーズやウォンツが比較的同質である.したがって,マス・マーケティングが有効であるのは,新市場の導入期の頃,そして,成熟期を迎えてもなお同質なニーズやウォンツでありつづける特殊な業界である.→市場細分化,集中化マーケティング[金子武久]

■マズロー(Maslow, Abraham Harold, 1908〜1970) 
アメリカ生まれ.1962〜63年にはアメリカ心理学会会長をつとめる.マズローは人間行動を欲求満足化のプロセスと捉え,人間のもつ欲求を5つに分類した「欲求階層説」を説いた.人間の欲求はランダムに存在するのではなく,5段階のピラミッドのようになっていて,底辺からはじまり,1段階目の欲求が満たされると1段階上の欲求を志すとした.欲求の段階は,低次から,生理的欲求,安全の欲求,親和の欲求,自我の欲求,自己実現の欲求,とよばれる.自己実現の欲求は,自己成長や創造活動と関連した最も人間らしい欲求であるが,この欲求を完全に達成できる人はごく限られていて,自己実現を追求する志向性の有無が重視される.彼は,自分の資質を十分に発揮し,なしうる最大限のことをしたいという自己実現の欲求を成長動機(growth motive)とよび,自己実現動機という高次の欲求に動機づけられた人間を成長志向(growth oriented),逆に低次の欲求に動機づけられた人間を欠乏志向(deficiency oriented)とよんだ.主著にMotivation and Personality,1954.(小口忠彦監訳『人間性の心理学―モチベーションとパーソナリティ―』産業能率短期大学出版部,1971年)がある.[木村有里]

■マーチ&サイモン(March, James G., 1928〜/Simon, Herbert, A., 1916〜2001) 
マーチとサイモンは,サイモンによる『経営行動』の成果をうけて,共著Organizations,1958.(土屋守章訳『オーガニゼーションズ』ダイヤモンド社,1977年)を発表した.本研究は,『経営行動』と並んで,意思決定論的組織論の中核をなす業績であり,バーナード以降の近代組織論の展開の集大成ともいえる研究である.本研究で彼らは,従来の組織理論で用いられてきた概念を整理・明確化し,そうした概念を,人間行動を記述的に説明する上での操作的な変数として捉えて,研究から得られた知見をそうした変数(概念)間の関係を記述・説明する「命題」群として提示している.本研究においては,人間の心理学的公準の議論から始まって,従来の組織理論を体系化し,組織における人間行動を記述的に説明するとともに,独自の「行動プログラム」概念を媒介として組織とその変革ないし革新の問題が論じられる.限定された合理性しかもたない人間は,その情報処理能力を節約するために,定型化された意思決定と行動のパターンとしての「プログラム」を作り出し,とくに問題が生じない限りは,こうした「行動プログラム」に基づいて決定し,行動する.ここにおいて,サイモンによって決定前提の伝達を軸とする意思決定の複合体としての組織は,さまざまな行動プログラムの複合体としての組織として概念化されるのである.組織はこうした多様な行動プログラムをその内部に蓄積することによって,環境の不確実性を相当程度吸収することができるのである.しかし,環境の不確実性が,既存の行動プログラムによって処理されうるレベルを超えるような場合,意思決定不能状態としてのコンフリクトが発生する.このような状態に至って,新たな行動プログラムの探索と創出としての組織の「革新」がもたらされるのである.[山中伸彦]

■マテリアル・フロー会計 (material flow cost accounting)まてりあるふ 
ドイツで開発され,現在わが国でも展開しているマテリアル・フロー会計は,環境負荷の低減とコスト削減を同時に達成することを基本的な目的とした原価計算手法である.原材料(マテリアル)の流れを物量センターとよばれる計算単位ごとに,物量と金額の両方で測定し,管理する.マテリアル・フロー会計における原価要素は,@原材料費やエネルギー費等のマテリアル・コスト,(2)労務費や加工費等のシステム・コスト,および(3)配達・廃棄物処理コストであり,各物量センターにおいてこれらのコストと材料の数量をその種類ごとに算出する.伝統的な原価計算では,原材料費と加工費が生産プロセスで製品と廃棄物に分類されるが,この廃棄物も製品原価に加えられる.マテリアル・フロー会計においては,伝統的な原価計算では把握されなかった廃棄物の原価であるマテリアル・ロスが明らかになるため,生産効率の改善に繋げることができる.
 現在,経済産業省が有効な環境管理会計の手法としてマテリアル・フロー・コスト会計の普及を促しており,モデル企業として田辺製薬,日本電工,タキロン,キヤノンが実験的に導入している.[古庄 修]

■マトリックス組織(matrix organization)まとりつくす 
1960年代に,アメリカ航空宇宙産業の大プロジェクトを実行するために採用した組織で,基本的には職能部門制組織と事業部制組織の両方のメリットを生かした能率的な組織である.マトリックス組織の特徴は,同時に2つの異なる組織編成原理をもっているということで,伝統的な組織原則である命令一元化の原則を放棄していることである.つまり,この組織は,組織のメンバーが同時に職能部門とプロジェクトという2つの部門に属するというワンマン・ツーボスのシステムであるといえる.
 しかし,この組織はすべての状況において有効な組織であるわけではなく,特定の状況,たとえば不確実性が高く高度の情報処理が必要であるとか,人的資源など資源の共有が必要なときにその組織の有効性が発揮されるといわれている.[高橋正泰]

■マートン(Merton, Robert King, 1910〜1980) 
マートンは,アメリカの社会学者であり,パーソンズ(T. Parsons)に師事した.彼は構造―機能分析の領域では,「順機能―逆機能」「顕在的機能―潜在的機能」といった下位概念を提示し,機能分析概念の精緻化に大きく貢献した.経営学ないし組織論の分野では,彼は官僚制の逆機能の分析で知られている.彼は,官僚制組織が,ヴェーバー(M. Weber)が指摘したような卓越した技術的合理性のゆえに,意図せざる結果として,機能障害といっても良いような逆機能をもたらすことを明らかにした.彼は,官僚制の逆機能として服従への過剰同調,規律維持の自己目的化(目的の転倒),訓練された無能力などを指摘した.また,社会科学方法論の領域でも,社会科学は,グランド・セオリーを志向するのではなく,むしろ検証可能な経験的仮説の積み上げによって概念枠組みを構築していくべきであるという「中範囲の理論」を提唱した.代表的業績として,Social Theory and Social Structure,1949.(森東吾他訳『社会理論と社会構造』みすず書房,1961年)がある.[山中伸彦]

■マニュファクチュア(manufacture) 
工場制手工業ともいう.問屋制家内工業同様,封建社会末期に生まれた資本主義的な生産形態である.これは,労働手段として道具を使用しながらも,作業場を設置して労働者を1ヵ所に集め,分業に基づく協業を導入することによって,問屋制家内工業の限界を打破しようとするものである.作業場の設置によって,問屋制家内工業における原料の配布と製品の集荷という物流のムダが排除できるとともに,労働者の直接的な管理が可能となった.また,分業による作業の専門化によって,道具の改良,熟練度の向上等が進み,生産性がより向上することになった.一方,労働者は,問屋制家内工業下で保持していた生産管理職能を失い,部分作業を遂行する一労働者として資本家に従属していくことになった.→問屋制家内工業[那須野公人]

■マネジメント・バイアウト(MBO: Management Buy-out) 
既存企業の部門や子会社の経営責任者が,その事業部門や子会社を親会社から買収する手法のこと.これによって,売却側の企業は事業のリストラクチャリングを進めることができ,買収者側は従業員からオーナー経営者となることから経営へのインセンティブが向上する.内部の状態を知っている現職の経営責任者が買収の当事者となり,これまでの取引関係もあることから,事業の継続性が高く買収後の成功が見込まれやすい.通常,買収額のうち経営責任者の自己資金による部分は少なく,買収額の多くは銀行融資や機関投資家・ベンチャーキャピタルからの投融資,あるいは買収ファンドによって賄われる.
 イギリスではすでに1980年代から実施され定着している.日本では,1998年12月に本格的なMBO(WDI Holdingsから独立したICS国際文化教育センターの事例)がはじめて行われた.このほか,買収ファンドや投資グループが部門や子会社を買収した後,外部から経営者を投入する買収をマネジメント・バイイン(Management Buy-in: MBI),部門や子会社の従業員(執行役員を含む)が行う買収を従業員バイアウト(Employee Buy-out: EBO)という.→M&A,執行役員,リストラクチャリング[文堂弘之]

■マルチドメスティック産業/グローバル産業まるちとめす 
グローバル企業の競争優位について,ポーター(M.E.Porter)は競争優位となる源泉がそれぞれの産業の構造で異なるので,企業の戦略の特徴は産業構造によってある程度決まるとする.彼は,グローバル競争戦略に影響する産業構造の特徴をマルチドメスティック産業とグローバル産業に分けた.
 マルチドメスティックとはマルチ(複数)のドメスティック(国内的)を合わせた造語であり,「多くの国々に存在する産業であるが,そこでは競争が一国家ベースでおこる産業」を意味する.製品に対する要求が国ごとに大きく異なる製品を扱う産業の場合は,価値連鎖の川上活動での規模の経済よりも現地市場への適合が重要となり,各現地市場をそれぞれ独立した市場として捉えた戦略となる.したがって,それぞれの国内市場中心の戦略であり,グローバル企業全体の戦略はその集合である.ポーターは典型的なマルチドメスティック産業として包装,食品,流通業,日用品,保険業などをあげている.
 これに対してグローバル産業とは,アップストリームでの規模の経済が企業の競争優位にとってきわめて重要な産業である.たとえば,製品の標準化が進んでいて,膨大な研究開発費が必要で生産の規模の経済が発揮されやすい産業の場合は,世界中で同一の製品を販売することが川上活動の規模の経済にとってきわめて重要である.グローバル産業では,ある国の販売の成否は他の国の販売の成否につながっている.なぜならば,ある国での販売失敗は,世界全体の販売の減少となり,それが規模の経済にマイナスの影響を与えるからである.したがってグローバル産業の戦略はマルチドメスティック産業の戦略とは異なり,各国間で高度な調整が必要となる.ポーターは典型的なグローバル産業として,航空機メーカー,半導体,コピー機,時計などをあげている.→規模の経済,立地特殊優位[池田芳彦]

■マルチプロジェクト戦略(multi-project strategy)まるちふろし 
新製品開発活動における複数プロジェクトの相互関係をいかに管理するのかにかかわる戦略.多くの企業は複数の製品開発を継続的に行っている.ゆえに,個別プロジェクトにおける開発活動という視点を超えて,複数プロジェクトをどのように関係づけて開発を行っていくのかという戦略が必要となる.
 マルチプロジェクト戦略は,製品ライン間戦略と製品世代間戦略の大きく2つに分類される.前者は,技術・部品の共通化,先進技術の効果的な展開などの戦略を含むものである.後者では,次世代製品導入のタイミング,過去のプロジェクトから得られた技術・ノウハウの効果的な蓄積・伝承などが戦略上のポイントとして取り上げられる.→製品開発戦略,プロジェクト・チーム[遠藤健哉]




■MIS(Management Information Systems)みす 
経営情報システムのこと.広義では組織の情報システムを一般的にいうこともあるが,1960年代初頭から70年代初頭にかけて提唱された伝統的MISをさす場合も多い.伝統的MISは情報技術による業務や管理活動への貢献を理念的スローガンとし,データ処理を全社的に統合して,必要な情報を必要に応じて必要な形態で必要とする管理者層に提供する情報システムの実現をめざした.しかし,当時の技術が期待されたレベルに達していなかったため,結局,「MISは幻想である(MIS is Mirage)」という指摘を生むことになる.とはいえ,MISは反復的で定型的な管理活動における決定や判断領域においては,一定の成果を上げることができたと評価される.[岸●理子]

■ミディアム・ターム・ノート(MTN: Medium Term Note) 
1981年に短期のコマーシャル・ペーパーと長期の社債との中間的な資金調達手段としてメリルリンチによって開発された.償還期限的には中期債の性格.発行にさいしては,包括起債枠を設定する.このプログラム手法は機動的な資金調達に有効で,いったん登録されるとドキュメントにしたがいその枠内で,いつでも継続的に資金調達ができる.また「低コスト」の調達も可能である.発行企業自体やその親会社の業績や財務状況が優良であれば高い格付けが得られるが,この親会社保証,Keepwellによって一般よりも低い金利で発行ができる.付利方式は利付.→コマーシャル・ペーパー,社債[坂本恒夫]

■ミドル・マネジメント(middle management) 
経営階層の中で,トップとロワーの中間層にあるのがミドル・マネジメント(中間管理層)である.ミドル・マネジメントの職能は,企業を構成する複数の事業単位の中の一事業単位において,トップ・マネジメントの決定に基づき,当該部門の事業活動を計画・実行することにある.意思決定の特徴は,定型的な面と非定型的な面があり,トップの戦略的全般的な決定とロワーの日常業務的な決定との間にあって,両者の調整的な役割を担う.これまでの日本における年功的人事のもとで増大してきた中間管理職は,90年代の長期不況の中でリストラの対象となっているが,他方で,トップとロワーとの間で,知識創造にとって重要な役割をも担っている.→トップ・マネジメント,ロワー・マネジメント[秋野晶二]

■民営化(privatization) 
国営事業や公企業などが株式会社などの私営企業形態へ移行することを意味する.1980年代に実施された3公社(日本国有鉄道,日本電信電話公社,日本専売公社)の株式会社形態への移行は,わが国での民営化の代表的事例である.また,行政サービスの民間委託や第三セクター方式への移行なども,地方自治体などが実施する民営化の方式といえる.
 民営化が国際的トレンドとなるには2つの大きな契機があった.そのひとつは1980年前後の先進諸国で「小さな政府」政策が台頭したことである.1979年にサッチャー政権(英),81年にレーガン政権(米)と中●根政権(日),82年にコール政権(旧西独)が発足し,次つぎと民営化政策を推進した.いまひとつの契機は旧ソ連東欧での社会主義政権の崩壊であり,必然的に既存の国営企業は民営化されることとなった.こうした民営化の促進要因として,先進諸国では財政赤字の軽減が,発展途上国では累積債務への対応があった.また,先進諸国の場合,国営企業の民営化によって誕生した巨大私企業が,規制緩和の国際的潮流のもとで多国籍的な事業展開をしている事例もみられる.→規制緩和,第三セクター[井上照幸]

■民間非営利組織体会計 (NPO accounting) 
アメリカ財務会計基準審議会(FASB)は,民間部門(private sector)の非営利組織体の中には「非営利」に固有の特徴が明確なものから営利的性格の強いものまで多種多様な組織体が存在することを認めたうえで,横断的・統一的な会計基準を設定している.
 FASBは,非営利組織体の本質について,@提供した資源に比例した見返りを期待しない資源提供者から相当の資源を受領すること,(2)利益を得て財貨またはサービスを提供すること以外に主たる活動目的があること,(3)売却や譲渡可能な所有主権益が存在しないことまたは清算にさいして資源の残余分配を得る権利を伴う明確な所有主権益が存在しないことをあげている.かかる定義において,明確な所有主権益が存在せず,事業収益を会員や寄付者に分配しないことを除けば,非営利組織体は営利企業と相違はなく,同様に効率的な資源の管理や組織運営が必要になる.
 FASBは,非営利組織体の財務諸表として貸借対照表,事業活動計算書(営利企業の損益計算書に該当する)およびキャッシュ・フロー計算書を体系化している.その特徴は,サービスの提供能力を維持するための基礎となる純資産を資源提供者による使途拘束の有無に従って貸借対照表上で区分表示し,当該区分に対応して純資産の増減要因を事業活動計算書に区分表示する点にある.これにより利益計算を行わない非営利組織体における貸借対照表と事業活動計算書の相互関係が確保されている.
 FASBの場合,現在の資源提供者に対する受託責任に係る事後的説明にとどまらず,潜在的な将来の資源提供者を含めた多様な利害関係者の意思決定を支援する「情報公開型会計」を指向するものであるといえる.
 わが国においては,民間非営利組織体に統一的な会計基準は存在せず,各法人の所轄官庁が設定主体となって会計基準を設定している.近年では,社会福祉法人や公益法人等においては,従前の予算準拠主義を基調とした「指導監督型会計」が大きく変化しており,アメリカの会計基準をモデルとして,損益計算思考を導入した「消費経済体会計の生産経済体会計化」がより一層進展しているといえる.FASBをモデルとする財務諸表の体系は,民間非営利組織体の存続が自主財源による自立を前提として,営利企業との競合を含めた事業活動の市場化を肯定することに繋がる.だが,非営利組織体の財務的生存力(financial viability)の指標となるボトムラインの解釈は営利企業の場合とは異なり,活動の成果を評価しうる客観的なアウトプット指標が財務諸表から直ちに得られるわけではないことには注意すべきである.[古庄 修]

■民事再生法みんしさいせ 
わが国の経済は,順調な成長を続けてきた時代から,経済の●落および産業構造の大転換期を迎え,多くの企業が経営困難の状況に直面せざるをえない時代となった.これらの企業に対し適正かつ迅速な倒産処理によって,清算すべき事業は清算し,再生すべき事業は再生することを通して,わが国の経済の活力を取り戻すことが要請される.このような倒産法制には,従来,破産法,和議法,会社更生法,会社法上の会社整理などが存在していたが,法思想の進展,社会情勢の変化及び経営環境の変化に十分対応できないものとなり,近年,倒産法制の全体的見直しと改革の必要性が社会的に要請されてきた.民事再生法は,このような要請に応えるものとして,1999年に新たに制定された再建手続法である.
 この民事再生法の主な特色は,次の点である.@さまざまな欠陥のあった従来の和議法を廃止し,民事再生法が新しい再建型倒産処理の一般法になった.とくに民事再生手続の開始原因について,債務超過や支払不能などの破産原因がなくてもその事実が生じるおそれがあるときとされた(民事再生法第21条).(2)従来の和議法の発想では及びもつかなかった強力な再建手段をいくつも取り込んだ.たとえば,強制執行の包括的禁止命令である(同法第27条).民事再生の申立段階での裁判所の包括的禁止命令によって,その財産や事業を保全できることが可能になった.(3)簡易迅速で安い倒産手続きをめざしている.(4)日本の倒産法制の国際的調和への第一歩になっている.それは,属地主義の部分的修正,外国倒産手続きとの連携にみることができる.
 2000年のそごう(株)の倒産にあたり,この民事再生法が初めて適用された.
 また,2000年4月からの施行後4年間で,3,635件の民事再生法の申請があった.中小・零細企業から上場クラスの大企業に至るまで,種々の規模・業種で申請がなされ,すでに再建を果たした企業も少なくない.[黒木松男]

■ミンツバーグ(Mintzberg, Henry, 1939〜)みんつはく 
カナダの経営学者.カナダのマッギル大学で工学を学んだ後,MITで経営学のPh. Dを取得.彼の研究範囲は,経営者の職務研究,組織構造およびパワー研究,戦略的意思決定の形成過程に関する研究など多岐にわたる.分析的・規範的一辺倒のアプローチを批判し,経営者の直観や透察といった感性や現場での経験といったものを組み込んだ理論化・体系化の重要性を指摘し,「理論に縛られない理論家」と評される.独自の経営学体系を構築し,欧米における研究者・実務家からの高い評価を得ている.[安田賢憲]




■ムーアの法則(Moore’s law) 
半導体メーカーIntelの創始者のムーア(G. Moore)が提唱した「半導体の集積密度はおよそ18ヵ月で倍増する」という法則.半導体技術の進歩は,現在もおおむねこの法則に従っているといえる.
 この法則は,本来,半導体の集積密度について述べたものだが,転じてCPUの性能について「およそ18ヵ月で倍増する」といわれる場合も多い.
 ただし,このペースで半導体の集積密度が向上したとすると,2010年代には半導体の微細化の限界に達してしまうため,ムーアの法則が通用しなくなると予想されている.[熊谷敦也]

■無額面株式(non-par value stock)
2001年の商法改正に至るまで,商法上の株式には額面株式と無額面株式があった.額面株式には,1株の金額(20円,50円,500円,50,000円)が記載されていた.無額面株式は,1株の金額が記載されていない株式のことをいう.これまでは,株式の発行価額を5万円以下に設定することはできなかった.現代では,時価で株式を発行する企業がほとんどであり,額面株式を発行する物理的な意味が無くなってきた.そのため商法改正によって,額面株式が廃止され,発行済みの株式はすべて無額面株式に変更された.さらに,会社設立時の発行価額の制限も撤廃され,商法改正後は発行価額が5万円以下でも株式を発行できるようになった.[森谷智子]




■メイヨー(Mayo, Georges Elton, 1880〜1949)めよ 
オーストラリア生まれ.医学部を中退,西アフリカの金鉱の経営に参加したり,印刷工場で働くなど紆余曲折ののち,心理学,哲学を学び,クイーンズランド大学で講師となった.1922年に渡米.のちにハーバード・ビジネススクールの教授となった.1924年から32年まで続けられた,ウェスタン・エレクトリックのホーソン工場での実験に27年より参加,理論構築に貢献した.著名な業績としてThe Human Problems of an Industrial Civilization,1933.(村本栄一訳『産業文明における人間問題』日本能率協会,1951年)がある.ホーソン実験から発展した理論は「人間関係論」とよばれる.金銭的な欲求にのみ基づいて人間は行動すると考える「経済人モデル」を否定し,人びとが社会的な欲求をもち,それを満足させるために働くという「社会人モデル」を提唱した.彼の考えは,テイラーとしばしば対立的に位置づけられるが,2人は同じ課題を追求していた.それは,産業における調和と,経営者と労働者の敵対の終焉である.[木村有里]

■メカトロニクス(mechatronics)めかとろにく 
機械工学(メカニズム)と電子工学(エレクトロニクス)を合成した和製英語.1972年に安川電機が商標登録したのが始まりといわれる.この言葉が定着する前にも「機電一体化」という類似の言葉はあった.しかしメカトロニクス(メカトロ)はより融合の水準が高い.それを可能にしたのはマイクロ・エレクトロニクス(ME)の出現,すなわち1971年のインテルの4ビット・マイクロプロセッサーの登場である.MEの技術的な飛躍によるメカトロ実現可能性の要点は,第1にMEの出現により,高度な論理回路を一枚のチップ上に形成することが可能となり,電子回路部分が一気に小型・軽量化され,機械内部に容易に搭載可能となったこと.第2に,ソリッドステート化・集積化により回線接続部が減少し対環境性が飛躍的に向上したこと.第3に,回路組立工程の単純化により大幅なコストダウンが可能となったことである.日本のメカトロ製品としてはミシン,カメラ,一般家電製品,自動車,NC工作機器などがある.こうしたメカトロ製品は入力作業が単純化され,ユーザーフレンドリーという特徴をもつ.生産過程のメカトロ採用により,作業が単純化する一方でマイコン制御プログラムをつくる知的労働が新たに生まれ,労働の二極分化がもたらされた.[加茂紀子子]

■メセナ活動めせなかつと 
メセナとは,フランス語で,芸術・文化・科学に対する保護・援助を意味する言葉である.そこから,企業が行う,芸術文化の擁護・支援を意味する言葉として使われるようになった.メセナ活動は,主に企業による芸術文化支援活動を意味し,企業のフィランソロピーの中で,とくに,芸術文化に関する活動のことである.1980年代に,アメリカに進出した日本企業がアメリカ社会から社会貢献を求められたことを契機として,企業による芸術文化支援活動が日本へも伝えられるところとなり,1990年に企業メセナ協議会が設立され,『メセナ白書』を発行している.→フィランソロピー[出見世信之]

■メディア・ミックス(media mix)めていあみつ 
広告の媒体価値は,その質と量,ならびに料金によって決定される.限られた広告予算の中で,テレビ,新聞,雑誌,ラジオの4マス媒体をはじめ,交通広告や屋外広告,POP広告などの広告媒体を総合的に上手く組み合わせることにより,最大限の広告効果を引き出そうとする考え方をメディア・ミックスとよぶ.消費者のメディア接触が多様化するなか,単一の広告媒体の利用のみで期待する広告目的を達成することは難しい.そこで,複数の広告媒体を用いることによって,メーカーや提供する製品・サービスの露出度を高めるとともに,効率よく広告メッセージを伝えることが求められる.メディア・ミックスを実施することで,広告のターゲットは,複数の広告媒体を通じて広告メッセージを受け取ることが可能となる.ターゲットは,メッセージの発信源であるメーカーを身近に感じるようになり,広告への認知や関心,興味を,時間をかけずに高めることができる.メディア・ミックスを成功裏に収めるためには,広告のターゲットを定め,その特徴や属性を十分に考慮した上で,ターゲットが高い●度で接触する広告媒体を選択することが求められる.[木村達也]

■メルコスル(MERCOSUR: Mercado Comun del Sur) 
ブラジル,アルゼンチン,ウルグアイ,パラグアイの南米4ヵ国からなる自由貿易地域のことで「南米南部共同市場」とよばれている.準加盟国としては,チリとボリビアがある.将来的には「市場統合」や「共通通貨」の導入まで見据えている.
 2004年にはメキシコが加盟申請を行う一方,メルコスルは欧州連合(EU)との間でも自由貿易協定(FTA)締結で基本合意に達している.アメリカ主導の「米州自由貿易地域(FTAA)」の交渉が難航する中,メルコスルの南米域外への拡大の動きは際立っている.メルコスルの拡大と域内自由化へ向けての動きは,南米各国のアメリカに対する発言力,そして国際的な存在感を高める狙いがあるともいわれる.なお,世界貿易機関(WTO)の規則によれば,FTAを締結するには2国間貿易における90%の品目で関税を撤廃しなければならない.そこで,南米地域で作られるトウモロコシなどの穀物や砂糖,コメ,ワインなどの農産物・食品関係の関税が廃止されれば,こうした農産物を割安な価格で生産できるメルコスル加盟国は欧州とのFTA締結により,欧州市場で大きなシェアを獲得する可能性がある.→自由貿易協定[加藤 巌]




■目標による管理(management by objectives) 
組織の各構成員がそれぞれ担当する業務について達成すべき目標を設定し,その実現をめざして担当者自らが努力と統制を行うように動機づけられた管理およびそれを可能にするシステム.目標による管理の特徴は,上司による強制的な命令や統制という上からの硬直的な管理にかえて,部下自身による業績目標の設定という決定への参加と自主性・自律性を認めるところにある.そして,これによって,勤労意欲の向上が図られる.このような管理のシステムが有効に機能するためには,各構成員の設定する目標が組織目標に合致し,その達成に貢献しうるものでなければならない.
 したがって,組織が達成すべき目標と下位の管理階層で部下が設定する目標との間に,目的・手段の関係が成立するように調整されなければならない.また,部下による成果の自己評価を,意欲の増大と自己啓発に結びつけると同時に,組織目標の達成につながる生産性の向上に結びつけていかねばならない.この調整機能は当然上司が担うことになる.この管理手法を主唱したドラッカー(P. F. Drucker)は,上司と部下の間のコミュニケーションが重要であると指摘している.→X理論/Y理論[小阪隆秀]

■モジュール化(modularity) 
製品システムを,独立に設計可能でありながらも全体として統一的に機能する,より小さなサブシステム(モジュール)に分解して,ルール化されたインターフェースで連結しようとすること.
 モジュール化には,@構成要素間の調整にかかるコストを大幅に削減できる,(2)モジュールを組み合わせることによって製品システムの多様性を確保できる,(3)各モジュールの開発タスクを自律分散的に行えることで,製品開発の効率性と製品性能の向上スピードを大幅に高めることができる,といったメリットが指摘されている.一方,インターフェースのルールを事前に規定することによって,製品システムの達成可能な最大パフォーマンスが制約されるというデメリットをもっている.→製品アーキテクチャ,製品開発戦略,モジュール生産[遠藤健哉]

■モジュール生産 
モジュール生産で利用されるモジュール部品は組立企業に納入される段階で複数部品が複合化・ユニット化され,従来型の納入部品より大きなまとまりになっている.たとえば自動車部品は3万点とも10万点ともいわれるが,モジュール生産ではこれを一次供給者に集約して,すでにメーターや時計など複数の計器類が装着され完成車に組み付ける段階になっている計器パネルのように,ひとまとまりの部分品にしてしまうのである.このことから,モジュール生産は組立工程数削減による組立コスト削減,一次供給業者数の集約による購買管理コスト削減などを狙った組立企業側の新しい購買戦略であるといえる.さらにモジュール生産のコスト削減の効果は組立レベルにとどまらない.モジュール部品開発を供給業者にアウトソーシングすることにより,細かい単位で納入させていたときには見いだせなかったモジュール単位での設計改善・付加価値創造の可能性が広がる.さらにそれを専門業者に一任することにより組立企業は次世代技術や製品全体性といった完成品レベルでの開発に集中できる.逆に組立企業側のデメリットとしてはモジュールの段階での技術がブラックボックス化してしまう可能性が指摘されている.7つのモジュール部品を組み立てるだけでできあがってしまうMMC(ベンツの子会社)の「スマート(2人乗り乗用車)」の例が有名である.→モジュール化[加茂紀子子]

■持株会社(holding company)もちかふかい 
株式を保有することによって他の会社を支配することを目的として設立された会社.日本では第2次世界大戦前,財閥が傘下の主要会社を支配するために利用が一般化した.持株会社を頂点にピラミッド型に数多くの会社を支配することは,経済力を集中し市場に独占をもたらすだけではなく,海外への侵略性という弊害をも併せもつとして,戦後「独占禁止法」が導入され,自らは特定の事業を営まず子会社を支配することだけを目的とする純粋持株会社の設立は禁止された.しかし事業会社との兼営持株会社は容認されたため,実際は事業会社が株式の相互保有や一方的所有によって相互支配,傘下会社支配を展開し,企業集団が形成・確立された.
 1997年「独占禁止法」が改正され,グループ企業を統括するために持株会社の設立が解禁された.これはグループ企業の効率的経営をめざすこと,すなわち事業参入・撤退の柔軟性,異なった賃金体系の利用,リスクの分散などを目的とするもので,戦前の家族的・閉鎖的な支配構造とは異なってはいる.したがって傘下の企業がその採算によって売却されたり,縮小・撤退されたりする戦略型利用形態だといえる.[坂本恒夫]

■モバイル・コマース(mobile commerce)もはいるこま 
携帯の情報端末機(携帯電話機,通信機能を装備したPDA (Personal Digital Assistance)やノートパソコンなど)で行うB2Cのこと.モバイル・e-コマースまたはmコマースともよぶ.モバイル・コマースは欧州で始まった.1997年にモバイル・コマースを普及させるための啓蒙活動をする団体であるGMCF (Global Mobile Commerce Forum)がイギリスで設立され,1999年には安全なモバイル・コマースの地球規模の基盤をめざして産業界を横断する組織としてRadicchioが設立された.日本では,NTTドコモのiモードサービスやauのEZweb,ボーダーフォンのボーダフォンライブなどインターネットへの接続機能と独自の情報サービスが普及したので,モバイル・コマースの通信基盤が整い,買い物,オンライン・バンキング,チケット予約などで利用されている.→B2C[市田陽児]

■モバイル・コンピューティング(mobile computing)もはいるこん 
移動中にコンピュータ操作を行うこと.またその機器.とくにネットワークに接続した利用をいう.コンピュータを利用した作業形態はコンピュータの発達とともに変化してきた.汎用機を使用していた時代には,専用回線でホストに接続されたダム端末とよばれるCPUをもたないキーボードとディスプレイだけを装備した端末を使用して入力作業が行われていた.パソコンの普及により,このダム端末はデスクトップ型のパソコンに取って変わられた.しかし,この時代のパソコンを使用した作業形態は「デスクトップ」という名が示すように,机に向かって作業を行うことであった.ところが,ノートブック型のパソコンが普及するようになると状況が変化を始めた.ノートブックパソコンが営業員が得意先でプレゼンテーションを行ったり,得意先の電話を使い,自社のコンピュータと接続し受注処理を行ったりといった利用のされ方が多くなるにつれ,ニーズに対応して通信機器が発達していった.
 ネットワークの接続には,初期の受話器に取りつける音響カプラから,携帯用モデム,内蔵モデムの時代を経て携帯電話,PHSをパソコンに接続できるようになるにつれ,いつでもどこでも(電波が圏内である限り)インターネットにアクセスできるようになった.
 現在では,iモードに代表されるように,携帯電話やPDA(Personal Digital Assistants)などの携帯端末がインターネットの端末になるにつれ,ネットワークへの接続端末がコンピュータから情報通信端末に移ってしまった.つまり「モバイル・コンピューティング」とは,移動しながらコンピュータを使用して情報交換をすることであったが,端末がコンピュータではなくなりつつあるのが昨今の状況である.
モラル・ハザード(moral hazard) 保険契約に伴って事故や損害を減じようとする危険回避の努力が損なわれていくという逆効果が生じる現象に対して用いられる.すなわち,保険に加入しているため,たとえ事故が起きても,保険会社がその費用を支払ってくれるならば,加入者は事故を防ごうというインセティブが小さくなる.火災保険で支払われる金額が,その対象となる住宅の価値以上のものであれば,その住宅に放火しようという誘惑にさえかられることも起きる.このような注意義務の怠慢や利己的行動は,契約相手にとって簡単に観察できないために罰則を受ける恐れなしに行われることになる.そこに,倫理の欠如ないし善意の悪用があり,これをモラル・ハザードという.[小阪隆秀]



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