増補版 現代経営用語の基礎知識
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■海外生産(foreign production)
日本の製造業は,円高により,企業のコスト競争力が低下したため,労務コスト,地価,光熱費などの社会的インフラ・コストの低減を求めて海外生産を開始するようになった.アジアや中南米では,低労務コストのメリットを生かして,生産拠点を第三国への輸出基地とする場合が多い.しかし,部品産業の層が薄いと,現地の部品産業の育成,または日本の部品メーカーに対する海外進出の要請などが問題となってくる.
 欧米では貿易摩擦を回避するために,海外生産を開始する場合が多い.しかし,現地では,対処すべき特有な問題が多く,アメリカでは,マイノリティの雇用やUAW(全米自動車労働組合)への対応,ローカル・コンテントなどの問題に直面した.輸送費の高い製品,または輸入関税が高く現地企業と競争不可能な製品は,現地で生産する場合が多い.
 日本の製造業の海外生産比率は12.4%(1997年度)と,アメリカの28.1%(1996年),ドイツの27.7%(1996年)に比べて,海外生産比率は低い.海外生産を成功させるためには,国際競争力をもつ生産システムを日本から移転させて,製品のコスト,品質,納期などの点で競争優位を獲得することが重要な鍵となる.
 海外生産の拡大により,国内の製造業が空洞化して就業者が減少し,雇用が悪化する問題および地域経済が弱体化する問題がある.国内では高付加価値製品,海外では標準品の生産というように棲み分けて,製造業の空洞化を幾分か緩和できるかもしれない.しかし,日本の製造業では,工程技術革新が現場から創造され,それが製造業の国際競争力に貢献してきたことを考慮すると,大幅な海外生産の増加は,その競争力を弱体化させるかもしれない.→企業内国際分業,空洞化[黒川文子]

■外貨換算会計 (accounting for foreign currency translation) 
外貨換算会計は,外貨を本邦通貨に換算するための会計である.外貨換算の対象となるのは,@外貨建で行われた外国企業との取引,(2)在外支店の財務諸表項目の換算,および連結会計固有の問題である(3)在外子会社の外貨表示財務諸表の換算である.代表的な外貨換算の方法には,流動・非流動法,貨幣・非貨幣法,テンポラル法および決算日レート法がある.
 わが国においては,1999年10月に改訂された「外貨建取引等会計処理基準」が公表されており,上記のように在外活動を法的形態に基づいて分類したうえで,どの項目をどの時点での為替相場で換算し,そして換算差額をどのように処理するかが規定されている.[古庄 修]

■改革・開放政策かいかくかい 
文化大革命終息後の中国で実施されている経済改革と対外開放の2大経済方針のこと.中国では文革期(1966〜76年)に鎖国状態に陥り,経済発展がストップした.1978年末の中国共産党第11期三中全会で,●小平の指導下に経済改革と対外開放を経済戦略の方針に据え,毛沢東時代のシステムからの転換を決定した.
 初期の経済改革は農村部から始まり,人民公社を解体し,農家請負制を実施した.対外開放の面では,広東省と福建省に対外経済活動の自主権をもたせ,外資に対して税制優遇政策をとることができる経済特区を設立し,外資誘致をはかった.80年代半ばには,経済改革の重点は農村から都市へ移され,対外開放は沿海部の都市へと拡大された.80年代後半になると,改革・開放政策をさらに推進していく方針が打ち出され,私営企業の存在および株式配当が合法化された.この時期インフレが進行する一方,政治の民主化・自由化を求めた民衆を弾圧した天安門事件が起こった.この事件で西側諸国の経済制裁をうけ,経済成長は鈍化した.
 中国共産党内部で,改革を積極的に進めようとする改革派と慎重な保守派の対立があったが,1992年の南巡講話における●小平の改革・開放の一層の促進に向けた号令により,改革派の勝利で決着した.同年の中国共産党第14回大会で政府のマクロ・コントロールの下で,市場が資源配分に対して基本的機能を発揮するという社会主義市場経済が宣言された.対外開放でも全方位開放の段階に入り,長江中下流都市と国境沿いの都市が開放され,先の沿海地方の開放とあわせて三沿開放とよばれている.改革・開放政策は,中国に飛躍的な経済発展をもたらしたが,他方でインフレの昂進とマクロ経済の混乱,地域間・産業間の不均衡発展,所得格差,資源不足,環境汚染などの多くの問題を引き起こしている.→社会主義市場経済[鈴木岩行]

■開業率/廃業率かいきようり 
開業率とは,総務庁(現:総務省)の「事業所統計調査」によって示されてきた新規開業企業の比率を表した数字である.この調査は1947年に開始され81年までは3年ごと,その後は5年ごとに実施され,96年には調査名称が「事業所・企業統計調査報告」に改められた.算出式は,今回調査時点の事業所数のうち,前回調査から今回調査時点までの期間に開業した事業所数の比率をあらわす.また廃業率は開業率から純増加率を差し引いた数値である.しかし,@期間中に開業かつ廃業した企業は含まれない,(2)事業所には本店や支店も含む,という理由から厳密な開・廃業率を示すものではないという見方もある.1991年調査では,廃業率が開業率を上回るという戦後初の逆転現象が起こり,日本の企業数の99%を占める中小企業の開業支援が重要だとの議論が出てきた.[川名和美]

■会計監査人 
企業経営者の経営判断や行動の妥当性と適法性をチェックするものとして,取締役会と監査役があり,資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社である大会社にはそれらに加えて監査役会と会計監査人がある.このように大会社の監査体制は業務監査および会計監査について重畳的な監査体制がとられている.このうち会計監査人の会計監査は,監査役会と連携しながら,公認会計士や監査法人という会計監査のプロフェッショナルとして経営者の会社資金の運用や使用の適法性に焦点が当てられる.企業不祥事が●発するたびに,経営者の違法な資金の使用をなぜ会計監査人が見抜けなかったのかが議論になり,その度に会計監査人の経営者からの独立性の確保やその権限の強化が叫ばれ,会計監査人を新設した1974年の「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」が今日までたびたび改正されてきた.→監査役会[黒木松男]

■会計基準 (accounting standards)かいけいきし 
企業の会計実践を指導し,会計目的を達成するための会計行為の解釈指針である.会計基準は,一般に会計原則と同義とされ,両者は互換的に用いられる.すなわち,会計基準ないし会計原則は,広く会計上の認識,測定・評価,開示に係る一連の会計ルールおよび会計上の手続きを規制する社会的規範を意味する.だが,会計基準と会計原則の本来の語義の相違を根拠に,両者を区別する説もある.その場合,会計基準は,会計実践の用具として会計上の判断の基礎となり,特定の事情がある場合には離脱が容認されるのに対して,会計原則は普遍的妥当性ならびに不変性をもつものと意義づけられる.いずれにせよ,この両者には必ずしも明確な概念規定があるわけではない.
 イギリスおよびアメリカでは,会計基準その他会計行為に係る一連のルールの総体を一般に認められた会計原則(Generally Accepted Accounting Principles: GAAP)と称してきた.
 わが国においては,戦後企業会計の改善・統一のために1949年に「企業会計原則」が設定された.「企業会計原則」は,実践規範としての性格を有し,わが国の公正なる会計慣行の形成に寄与してきた.最近では,わが国における民間の会計基準設定主体である企業会計基準委員会(ASBJ)が,企業会計をめぐる国際的な動向と内外の環境変化に対応して会計基準の改訂ならびに新設に係る作業を展開している.→企業会計原則
[古庄 修]

■会計責任 (accountability)かいけいせき 
会計学においてアカウンタビリティは古くから「会計責任」と訳されてきた.会計責任は,企業会計が果たしているもっとも基本的な職能として理解され,その概念は会計行為の説明理論あるいは制度会計の規範的基礎を形成してきた.会計責任概念は成果分配機能とともに,これまで取得原価主義会計を支持する根拠ともされてきた.
 その意味するところは,資本として拠出された財産の委託―受託関係を基礎として,財産の管理保全および運用に係る責任(受託責任)を負う受託者が,資本提供者=持分権者に対して財産変動の顛末について事後的に説明する責任である.資本として拠出された財産の委託―受託関係が存在しないところに明確なアカウンタビリティは成立しないとするのが伝統的な会計学の立場である.
 株式会社においては,所有と経営の分離により,受託者たる会社ないし機関としての経営者が,株主から委託された資本について会計責任を負っている.経営者は,株主の利益のために受託責任を誠実に果たすことが期待されるが,受託資本の管理保全および運用状況は,特定の測定機構(複式簿記機構)を通じて記録・計算され,その結果は財務諸表によって報告される.財務諸表は受託責任報告書としての性格を有し,株主の承認を経て,その責任が解除される.その意味で財務諸表は受託責任を課された受託者の業績を総合的に評価するための監視手段であるともいえる.[古庄 修]
 
■会社主義 
会社中心主義のことである.日本では,これまで企業の発展を中心とする経済成長の実現に重点を置いて,多くの政策が実施されてきた.その結果,とくに高度成長期以降,効率を重視する企業中心の「日本型企業社会」が形成されてきた.このような会社中心主義の矛盾が問題となりはじめたのは,80年代以降の「洪水的」輸出に対する海外からの批判によってであった.
 80年代末のバブル経済期に至ると,地価の異常な高騰を契機に,真の「豊かさ」とは何かという観点から,国内からも批判が噴出し,日本の労働者の実質賃金や労働分配率の低さ,長い労働時間等が問題にされるに至った.とくに,「サービス残業」を除いても欧米よりはるかに長い労働時間は,心不全や脳出血による「過労死」の増加をもたらした.
 1992年には,経団連も会社中心主義の弊害の是正による海外との経済的共生を,その活動方針としてかかげざるを得なくなり,また政府も,同年「生活大国5ヵ年計画」を策定して,効率を中心とする企業中心の社会から,生活者・消費者の視点を重視する社会への転換をめざすことになった.しかし,バブル崩壊による経済の低迷等によって,これらの目標の多くはいまだ実現できていない.→日本株式会社[那須野公人]

■会社それ自体説かいしやそれ 
北原勇によって提唱された巨大企業における所有と支配に関する所説をいう.北原によれば,現代の巨大企業は個人大株主が支配をしていた古典的企業とは異なり,「会社それ自体」が所有主体であると同時に支配主体でもある.それでは,自然人ではない「会社それ自体」が企業の実質的な所有・支配主体となり得るのはなぜか.それは「会社それ自体」の内部組織(経営者をトップとする経営管理組織)が所有に基づく支配を代行するからである.
 北原はこの理論を展開するにさいし,支配やコントロール等の概念規定やそれらの関係の明確化を行った.北原によれば支配とは「ある主体がある対象をして自己の意思に服させること」であり,コントロールとは「命令ないし影響により,対象をして支配者の意図どおりに,あるいは意図に沿うように運動させる仕方の『支配』」である.そしてバーリ&ミーンズ流の支配[経営者支配]をコントロール[マネジメント・コントロール]と位置づけ,このマネジメント・コントロール(経営陣が議決権委任機構を掌握することにより取締役の選出や後継者の指名を意のままに行えるという事態)が現代の巨大企業において広範に成立していると論じた.[前橋明朗]

■会社分割会計 (accounting for split of company)かいしやふん 
1997年の独占禁止法改正による持株会社の解禁を契機として,企業および企業グループの組織機構に係る制度改正が展開されてきた.会社分割のための制度は一連の商法改正による企業組織再編手法の整備が図られるなかで2000年に創設された.
 会社分割とは,既存の会社の営業の全部または一部を切り離して他の会社に包括的に移転・承継させることをいう.会社分割は,分割会社の営業を分割によって,新設会社に移転・承継する新設分割,および既存の他の会社に移転・承継する吸収分割に分類される.また,新設会社および吸収会社が,分割において発行する株式を分割会社の株主に割り当てる分割型分割(人的分割),および分割会社自体に割り当てる分社型分割(物的分割)に分類しうる.会社分割は,これらの分割方式の組み合わせにより4つの基本型,すなわち分割型新設分割,分社型新設分割,分割型吸収分割,分社型吸収分割として類型化される.
 会社分割の会計処理ついては,2001年3月に日本公認会計士協会が,会計制度委員会研究報告第7号「会社分割に関する会計処理について」を公表している.
 会社分割はその類型によって「売買処理法」と「簿価引継法」のいずれかによる.
 「売買処理法」は,支配が移転する会社分割に適用される.すなわち,会社分割により移転する資産および負債が売買されたものとして会計処理する方法であり,会社分割が「取得」と判定される場合に適用される.この場合,分割により分割会社から承継会社に移転する営業の対価,すなわち移転価額は,原則として分割会社またはその株主に交付された承継会社株式およびその他の資産の公正な評価額となる.
 「簿価引継法」は,支配が継続する会社分割に適用される.すなわち,会社分割において各々の結合当事会社の支配が継続しているため,各会社が所有する資産および負債を帳簿価額で結合する方法である.この場合,帳簿価額は分割により移転する営業を構成する資産および負債の帳簿価額となる.[古庄 修]

■会社分割制度かいしやふん 
企業が有する個別の事業部門の分離・独立を容易にできるようにするため,その事業部門を整理・統合したり,各事業部門の独立性を高めて,経営の効率化やリストラを進め,企業再編をしやすくするための制度.2000年の商法改正で導入された.97年の合併法制の簡易・合理化,99年の株式交換・株式移転の創設および産業活力再生法とともに,企業再編のための法整備の一貫として創設されたものである.その創設のメリットは,とくに次の点で重要である.@持株会社の完全子会社である事業会社がもっているさまざまな事業部門を会社分割によってより簡単に再編成することが可能になり,(2)従来よりも各事業部門の分社化が一層容易になり,経営の効率性を向上させ,経営の監督の実効性を確保することが可能になる.
 会社分割には,@新設分割,(2)吸収分割,(3)簡易な会社分割での3つのタイプがある.新設分割とは,株式会社または有限会社がその営業の全部または一部を新たに設立する会社に承継させる会社分割である(商法第373条,有限会社法第63条の2).次に,吸収分割とは,既存の複数の会社においてその一方の営業の全部または一部を他方に承継させる会社分割である(商法第374条の16,有限会社法第63条の2).最後に,簡易の会社分割は,一定の要件をみたし,その会社分割が与える影響がそれほど大きくない場合には,分割計画書または分割契約書について株主総会の承認を要しない会社分割である(商法第374条の6第1項,第374条の22第1項,第374条の23第1項).→金融持株会社,持株会社[黒木松男]

■開発輸入(develop-and-import scheme)かいはつゆに 
技術力や資金力の乏しい開発途上国における農水産物や鉱物などの未開発の資源を開発・製品化するために,先進国が資金・技術を提供し,生産・輸出された産品を先進国が輸入する方式のことをいう.
 代表的な方式が提供した先進国の資本を開発途上国からの生産物輸入によって返済をうける援助方式で,「プロダクション・シェアリング・システム」(生産物分与方式)という.
 南北問題の解決,とくに先進国と開発途上国との片貿易是正と一次産品の安定的供給源の確保のため1963年のUNCTAD(国連貿易開発会議)で提唱されたものである.開発途上国の経済開発と輸出増大や先進国の資源輸入の確保にも役立つ.資源小国の日本では,1960年代から資源の長期安定供給を目的とした開発輸入が総合商社などを中心に推進された.[田中友義]

■価格戦略 
マーケティング・ミックスを構成する4pのひとつである価格に関する戦略.価格は企業の業績と直接的に関係するので,コスト志向,需要志向,競争志向,などの視点から複合的に設定されることが多い.たとえば,新製品・新サービスの導入期では,戦略的な意図から,上層吸収価格(スキミング・プライス)政策と浸透価格政策の2つが知られている.前者は,製品やサービスの開発コストを市場導入後のできるだけ早い時期に回収することを意図して採用される.一方,後者は製品やサービスをできるだけ早い時期に市場全体へ普及させ,競争上の地位を確立することを意図して採用される.また,製品について情報不足の顧客はその価格を品質推定の材料として用いることが多いので,高すぎず安すぎない値ごろ感のある価格設定も重要である.→マーケティング・ミックス[金子武久]

■科学的管理(scientific management)かかくてきか 
1910年頃にアメリカのテイラー(F.W.Taylor)によって提唱され,以後,世界的に普及していった管理法.当時の作業場では,熟練労働者でもある職長が,経験や勘に基づいた現場の監督者として職長帝国とよばれるほどの大きな影響力をもっていた.これに対してテイラーは,個々の作業者の仕事の量と質を科学的に定められた方法で管理者が決定して,作業場を管理しようとした.
 科学的管理の柱は課業管理である.課業とは,個々の作業者が日々遂行しなければならない作業である.これを時間研究という方法で管理者が決定し,個々の作業者にそれを実行させるのが課業管理である.時間研究は,一流労働者の作業を観察して,それを細分化した要素作業に分割し,それぞれの作業時間を測定して,もっとも早く作業ができる作業の仕方を作り上げる方法である.
 課業管理を実行に移すための組織が職長の仕事を8つの機能に分割する職能別職長制である.その8つの職能は,大きく計画部職長と現場職長の2つに分けられる.計画部職長は,課業の設定などの頭脳的,計画的職務を担い,現場職長は,計画部で設定された課業に従って直接作業者を監督する仕事を行う.こうして計画をつくる管理者から作業のみを行う作業者まで階層的組織的に分離した.
 このような科学的管理は,すでに注目を集めた1910年頃には,その導入を図った兵器廠で労働者の抵抗をうけ,作業者に対する機械のような取り扱いや労働強化が社会的な問題となった.他方で,こうした科学的管理の考え方は世界的に研究・導入され,後にインダストリアル・エンジニアリング(IE)など工学的な管理手法の基礎となり,今日に至っている.→時間研究/動作研究[秋野晶二]

■華僑ネットワークかきようねつ 
世界中に約2,500万人の華僑・華人(華僑とは中国の国籍をもちながら,居住国の定住権を保有している在外中国系人であり,華人とは居住国の国籍を有し,その多くが居住国で生まれた中国系人のことをさす)がいるといわれているが,彼らは血縁(同姓組織),地縁(出身地組織),業縁(業界団体,商工会組織)のネットワーク組織をもっており,その総数は9,500に達するとされている.
 華人ネットワークは,19世紀に中国人の海外移住に伴い,相互援助を目的とした血縁,地縁および業縁のネットワークが東南アジアで各地域ごとに形成された.1940年代にはこれらのネットワークが居住国で統合され,70年代には東南アジアで華人ネットワークの国境を越えた連携が形成された.80年代以降,香港・台湾・東南アジアに居住する華人が,北アメリカ,ヨーロッパへの第2次移住を開始した.その結果,東南アジア,北アメリカ,ヨーロッパ3地域の華人ネットワークのグローバル化が実現した.
 また,80年代以降,東南アジアの華人企業家は,香港・台湾の企業家とも協力して,中国本土に積極的な投資活動を展開している.→印僑[鈴木岩行]
 
■格付機関(rating agency) 
債券の格付業務を専門に行っている信用調査会社である.格付機関は,原則として,発行体から依頼をうけてから格付け作業をスタ−トする.発行体から債券格付けの依頼をうけると,ただちに,発行体の調査・分析を担当するアナリストのチ−ムを編成する.このチ−ムは通常,2〜3名で編成される.一方,発行体は,格付機関と経営陣との面接調査(マネジメント・ミ−ティング)で使用する説明資料を作成し,用意できしだい格付機関に提出する.マネジメント・ミ−ティングは,格付けの手順全体の中でももっとも重要な過程である.格付機関は,ミ−ティング終了後,通常4〜6週間以内に格付委員会を開き,格付けを決定する.→債券格付け,ソブリン格付け[三浦后美]

■確定拠出型年金(defined contribution pension plan)かくていきよ 
事前に確定された掛け金を毎月拠出し,積み立てられた資金の運用成績に応じて受取額が変動する年金(日本版401k)のこと.従来から,わが国では事前に年金額を確定したうえで掛け金を変えていく「確定給付型年金」が採用されてきた.しかしながら,近年の景気低迷により,企業は従業員に保証した年金額を資産運用によって完全に賄うことが難しく,その不足分を自腹で支払わなければならない.このことは,運用リスクを負う必要のない確定拠出型年金の採用を企業が強く望む一因となっている.
 確定拠出型年金が確定給付型年金と異なる点は他にもある.たとえば,それぞれの従業員が個人勘定をもち,資産運用方法を自由に選択することができる.そのために,企業は投資信託など金融商品のメニューを3つ以上用意しなければならない.ただし,従業員は選択した金融商品の運用成果が悪いと,将来受け取る年金額が少なくなるといった,自己責任原則が適用される.また,確定拠出型の場合,拠出した積立金を移動することが可能になったため,従業員は転職のさいにその積立金を携帯でき,年金受給権が確保される.さらに,税制上の優遇措置等もある.
 アメリカではすでに確定拠出型年金である401kに移行しているため,日本政府は公的年金の上乗せとして確定拠出型年金の導入を決定した.[恩蔵三穂]
 
■確認株式会社かくにんかふ 
「中小企業等が行う新たな事業活動の促進のための中小企業等協同組合法等の一部を改正する法律」(通称「中小企業挑戦支援法」)によって設立が可能となった会社形態.2003年2月施行の同法には「株式会社,有限会社の最低資本金等の商法上の規制に関する特例」が盛り込まれている.これに沿って経済産業大臣に対し「確認申請」をして認められた場合に確認株式会社が設立される.確認株式会社は法律の条文に明記された正式の名称だが,商号では「確認」の文字を除いて「株式会社」と表記してよい.これと同様に確認有限会社もある.
 確認株式会社の最大の特徴は,商法による最低資本金規制を受けないことである.商法によって株式会社は1,000万円(有限会社300万円)以上の資本金を要するが,確認株式会社(あるいは確認有限会社)の場合は資本金が1円でも設立できる.したがって「1円株式会社」とよばれることもある.なお,実際の会社設立には登録免許税・定款貼付の印紙代・定款認証料など少なくとも数十万円の諸費用を要する.
 確認株式会社が想定するのはベンチャー型の小規模企業などで,主な業種としては財務・経理の受託業務,コンサルタント業,ソフトウェア開発,初期投資の小さいサービス業などがある.なお,会社設立から5年以内に資本金を1,000万円(有限会社300万円)に増資しなければ組織変更もしくは解散しなければならない.→株式会社,有限会社[井上照幸]

■額面発行/時価発行 
増資において株式を発行するさい,発行価格が額面の場合を額面発行,市場価格の場合を時価発行という.第2次世界大戦後から1970年頃まで,日本では額面発行が一般的であり,募集方法は既存の株主が優先的に購入する株主割当方式であった.この場合は,市価と額面との差額は株主が取得することになるから,会社よりも株主が有利な発行方式ということができる.しかし1970年以降は時価発行が一般的になり,募集方法は不特定多数を対象とする公募となった.この場合は市価と発行価格には差がないので,既存の株主にとっては何のメリットもないが,逆に会社にとっては低コストの資金調達が可能になった.この他に中間発行というものがあるが,これは額面と市価の中間を発行価格とするものである.また募集方法には,株主割当と公募の他に,第三者割当がある.これは,株式の募集にさいし,会社役員・取引先・従業員など特定の者に新株引受権を付与し,株式を割り当てるというもので,政策的増資の場合に採用される.[坂本恒夫]

■ガーシェンクロン・モデル(Gerschenkron model)かしえんくろ 
1960年代にアメリカのロシア経済史家アレクサンダー・ガーシェンクロン(A. Gerschenkron)が提唱した,後発国の工業化理論のこと.一国の工業化のパターンとしては,それまでイギリスが典型と考えられており,イギリスと後発国との主たる違いは,発展の時間的な差にあるとされていた.ところが彼は,後発国の発展パターンは先進国とは全く異なることを主張したのである.すなわちまず第1に,後発国の工業化は先進国の最新技術を活用しうること,先進国との競争上最新技術を使用せざるをえないこと等のために,一般に急速なものとなること.第2に,後発国では軽工業部門よりも,技術の発展が急速に進行している重工業の方が,先進国が稼動中の設備をすぐに廃棄できないことから,競争を有利に展開できること.第3に,第1と第2の理由から,後発国では当初から大規模経営となること.第4に,前記のように後発国になればなるほど工業化の可能性は大きい.とはいえ,国内的な工業化の条件は乏しいことから,銀行,国家,外国企業等による誘導が必要になるということ.第5に,後発国の工業化のためには,半ば宗教的ともいえる情熱が必要であること,等を指摘したのである.彼が理論を展開した1960年代と現代との産業構造の違いを考慮するなら,この理論は今日でも有効性をもっているということができよう.[那須野公人]

■寡占的優位理論かせんてきゆ 
寡占的優位論は,企業の多国籍化を説明する理論のひとつである.ハイマー(S. H. Hymer)により提起され,キンドルバーガー(C. P. Kindleberger)によって精緻化された.ハイマーは,1960年に産業組織論の立場から不完全市場と寡占的優位が結びついて海外直接投資が行われると主張した.
 一般に,製品市場が完全ならば輸出がもっとも有利であり,技術市場が完全ならばライセンシングが有利である.製品市場も技術市場も不完全な場合,海外直接投資による現地生産がもっとも有利となる.企業が外国市場へ参入する時,現地企業よりも対外差別や国家リスク,為替リスクなどで不利な立場にあるため,ハイマーは企業特殊優位,たとえば低コストの生産要素,効率的生産に関する知識,製品差別化能力などといった寡占的優位を有する必要があると主張する.
 69年にキンドルバーガーは寡占的優位が参入障壁を高め,情報を独占し,交渉力を向上させるため,不完全市場を形成すると論じた.そして寡占的優位として,@製品・価格の差別化能力(製品差別化,特別なマーケティング技術,小売価格維持,管理価格),(2)要素市場の差別化能力(特許技術,非公開技術,資本調達における差別化,競争組織に組み込まれた経営者能力),(3)規模の経済性を指摘する.→経営資源移動理論,多国籍化過程,内部化理論[安田賢憲]

■価値分析/価値工学(VA/VE) 
VAは価値分析(Value Analysis),VEは価値工学(Value Engineering)をさす.これらの活動は品質,用途,寿命,外観,顧客の特色などとは無関係なコストを,原材料から最終製品に至る全製造工程にわたって,能率的に把握・削減するための組織的・継続的な問題解決システムである.設計仕様と材料を所与として,材料節約・作業時間短縮を追求していても作業改善や標準化が進んだ場合にはコスト削減の余地が小さくなる.そこで与件である設計仕様の変更を含め,より安価な材料,加工しやすい形状などを採用する方向でコスト削減を図るというのがこの活動の趣旨である.さらに設計者は最終製品の機能や品質に主眼をおくため使用材料や工程に関しては過剰品質や不適合が現れる可能性がある.VA,VEは設計部門以外の者がこれを検討して設計仕様を見直す機会でもある.[加茂紀子子]

■合併差益かへいさえき 
会社の合併により消滅した会社(被合併会社)から引き継いだ財産の価額が,その会社より引き継いだ債務の金額およびその会社の株主に支払った金額ならびに合併後存続する会社(合併会社)の増加資本金の金額または合併により設立した会社の資本金の金額を超過する場合,当該超過額を合併差益という.
 合併差益=被合併会社の純資産−(増加資本金+合併交付金)
 ここに合併交付金とは,合併会社が被合併会社の株主に株式を交付するほかに現金を渡す場合の当該現金のことである.これは合併比率の調整等のために支払われるものである.
 合併差益は,合併に際して払い込まれた資本(純資産)が発行した株式の資本金を超える額であるため,それは株式払込剰余金と同様の性格を有する.すなわち合併は,被合併会社の株主が合併会社に対して,被合併会社の純資産を現物出資したとみることができる.合併の本質に係るこのような考え方を現物出資説という.
 これに対して,合併当事会社が契約により合体し,1つの合併会社または新設会社になると解する考え方を人格合一説という.
 「企業会計原則」は基本的に現物出資説を採るのに対して,税法は人格合一説を採るものである.商法は,原則として現物出資説の立場から合併差益を全額資本準備金として表示するが(288条ノ2第1項5号),被合併会社の利益準備金その他の留保利益に相当する額を資本準備金としないことも容認する(同条5項).これに対応して企業会計原則も弾力的な処理を認めている(注解19).
 なお,合併差益は払込資本の枠内で解釈できるため,損益項目であることを連想させる合併差益ではなく,資本剰余金のひとつとして「合併剰余額」の科目名称を用いるべきであるとする主張もある.[古庄 修]

■カテゴリー・マネジメント(category management)かてこりまね 
カテゴリー・マネジメントには2つの視点がある.ひとつは,自社が有する複数のブランド間で社内の資源を争奪するとともに市場シェアの獲得を志向するという古典的なブランド・マネジメントの発想から,製品カテゴリーごとに自社内のブランドを管理しようとする考え方である.この考えのもと,カテゴリー・マネジメントでは,メーカー企業の製品統括者が,マーケティング,研究開発,消費者向け販売促進,財務等の担当者からなる機能横断的チームを率いて担当カテゴリーのビジネスの最大化を目的に業務を行う.またもうひとつは,メーカーと小売業者が協力して,あるカテゴリーの商品の売上げと利益を最大化するために店舗において実施される生産性向上の手法としての視点である.もともとこれは,日用雑貨品メーカーがスーパーマーケットなど小売り店頭において,●割提案を他社製品をも含めて行ったことから始まった.[木村達也]

■ガバナンス関連情報開示(corporate governance disclosure)かはなんすか 
1990年代以降,イギリスを端緒に大規模公開会社の監視・監督機構の枠組み,内部統制の整備・充実および監査委員会の設置等を通じた財務報告の創出機構のあり方をめぐる改革が,各国のアニュアル・リポート開示規制と強く結びついて展開されてきた.各国のコーポレート・ガバナンス改革において,ディスクロージャーと透明性の改善はその主要な課題として掲げられ,ガバナンス関連情報の開示水準の向上と信頼性の確保が強調されてきた.
 ガバナンス関連情報は,狭義には監視・監督機能を果たすべき取締役会の構成・構造や,取締役の責任に係る情報を意味するが,広義には財務報告はもちろん,内部統制報告や経営者報酬報告を含めた株主その他の利害関係者に対するガバナンスを支援するための広範な情報を意味するものと解される.
 わが国においては,会社法制上の機構改革問題にコーポレート・ガバナンスに係る議論が集中し,他方でディスクロージャーの必要性がきわめて抽象的に取り上げられる傾向が強かった.この点について,わが国では,適時開示の一環として,東京証券取引所が1999年から決算短信において各社のガバナンスの充実に向けた具体的な取り組み等の内容を「経営方針」欄に定性的情報として記載することを求めており,これが制度上のガバナンス関連情報開示の端緒であるといってよい.
 2002年12月に金融審議会が公表した報告書「証券市場の改革促進」を受けて,2003年3月31日付「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第28号)により,2004年3月期決算会社から,有価証券報告書等において「コーポレート・ガバナンスの状況」の開示が求められることとなった.
 内閣府令は,「記載上の注意」のみを規定し,詳細な指針を示すものではない.この点を補って,(財)財務会計基準機構は2004年2月に「有価証券報告書における『事業等のリスク』等の開示に関する検討について(中間報告)」を公表している.
 内閣府令における「記載上の注意」は,「コーポレート・ガバナンスの状況」を明確に定義していないが,以下の事項を記載内容として例示列挙し,有価証券報告書の「第4 提出会社の状況」の「6 コーポレート・ガバナンスの状況」において,具体的なかつ分かりやすい記載を求めている.
@ 会社の機関の内容
(2) 内部統制システムの整備の状況
(3) リスク管理体制の整備の状況
(4) 役員報酬の内容(社内取締役と社外取締役に区分した内容)
(5) 監査報酬の内容(監査契約に基づく監査証明に係る報酬とそれ以外の報酬に区分した内容)[古庄 修]

■株価 (stock price)かふか 
上場会社の株価は証券取引所での約定価格,店頭登録会社の株価は証券会社の店頭における売買価格である.基本的にオ−クション取引か相対取引かによって決められている.株価モデルとしては,配当割引モデル,利益割引モデル,キャッシュ・フロ−割引モデル,資本資産評価モデル,裁定価格理論などがある.しかし,まだ決定的な学説はない.株価を決定する要因にはさまざまなものがある.景気動向,金利動向,通貨供給,為替相場動向,物価,商品市況,海外金融市場動向,政局の動向,財政政策,税制政策,規制緩和政策,企業収益の変動,配当状況,財務政策,M&A,買占め,新製品開発,工場の災害や事故,業種,企業規模,外国人投資の動向,信用取引,裁定取引,投資信託の設定などである.だが,基礎となるのは景気,企業業績,金利の3つであり,最終的に株価を形成するのは利益というのが普遍原則である.
 株式市場の動向をみる代表的な指標として,上場銘柄については225種日経平均株価と東証株価指数(TOPIX)がある.日経平均株価は,225銘柄の株価合計/除数,という計算式で,TOPIXは,東証第一部銘柄について(比較時価総額合計/基準時価総額)×100という計算式で算出され,取引のあった日は毎日公表されている.店頭銘柄については,日経店頭平均と店頭ジャスダック指数が発表されている.代表的な投資尺度としては,配当利回り(1株当たり年間配当額/株価×100),PER(株価収益率:株価/1株当たり利益),PBR(株価純資産倍率:株価/1株当たり純資産),PCFR(株価キャッシュフロー倍率:株価/1株当たりキャッシュフロー),ROE(株主資本利益率:税引き利益/株主資本)などがある.→M&A,現代ポ−トフォリオ理論,効率的市場仮説,成長株理論[貞松 茂]

■株式会社 (stock corporation)かふしきかい 
もっとも多くの資本を集中することのできる企業形態.株式会社の企業形態上の本質的な特徴は,資本の証券化と全出資者の有限責任制である.すなわち,株式会社の資本は小口の均等な証券に分割され,自由に譲渡することが保証されている(資本の証券化).また,出資者はその出資額を超えて責任を問われることはない(有限責任制).合名会社や合資会社においては無限責任社員(出資者)が存在し,これがこの企業の第三者とりわけ債権者に対して最終的な責任の負担者になっていたのに対し,株式会社にはこうした無限責任の負担者が存在しない.
 株式会社においては株主総会,取締役会等の会社機関が整備され,こうした機関が第三者に対する責任を負担することになると考えられている.また,株式会社においてはその資産規模も巨大となり,株式会社そのものに相当の責任負担能力が出てきた.
 ところで,資本の証券化も有限責任制もその自由譲渡制が保証されてはじめて十分な意味をもつものであり,したがって株式の流通市場が整備されていることを前提としている.すなわち,株式会社がその資本集中機能を十分発揮しうるようになったのは19世紀末の証券市場の成熟以降のことである.
 1602年に設立されたオランダ東インド会社は,一般に株式会社の起源と考えられているが,ここではじめて出資者の有限責任制が確立され,持分の自由譲渡が保証された.しかし,当時,株式会社の設立には国王の特許状もしくは議会による特別法を必要とし,出資者総会および取締役会は支配階級によって専制的に運営されていた.
 これに対して,イギリス東インド会社ではピューリタン革命の影響を背景に17世紀後半,株式会社組織の民主化が進められた.イギリスでは1844年,登記法(Registration Act)が制定され,株式会社の設立が特許主義から一定の条件を満たせば,法人格が与えられる準則主義に移行した.→株主総会,企業形態,取締役会[佐久間信夫]

■株式会社革命(corporate revolution)かふしきかい 
バーリ&ミーンズ(A. A. Berle & G. C. Means)は,大規模な株式会社の多くにおいては株式が分散し,その結果,所有と経営,所有と支配が分離していることを指摘した.かつて財産はそれを所有する人にいわゆる使用・収益・処分といったさまざまな権利を認めてきた.ところが,所有と支配が分離した企業においては,株式(財産)の所有者にはこのような財産所有者の権利は認められない.株主(財産所有者)にとって,株式(財産)は財産に付随する権利を象徴する紙切れにすぎないものとなってしまった.彼はこれを「財産の変革」とよんだ.
 また,所有者支配の企業では経営者は株主に対して責任を負っていたが,所有と支配の分離した経営者支配の企業においては,企業は経営者が多くの利害関係者に対して責任をもつ準公的会社(quasi-public corporation)へとかわってゆく.大企業の中に占める所有者支配企業の割合が減少し,経営者支配企業が増加しつつあること,経営者支配企業が準公的企業に変化していくこと,さらには「財産の変革」を含めてバーリ&ミーンズは株式会社革命とよんだ.→経営者支配説,所有者支配説,所有と経営の分離,バーリ&ミーンズ[佐久間信夫]

■株式交換制度 (stock-swap system) 
株式を100%所有される完全子会社となる会社の株主が,所有するその会社の株式を,100%所有する完全親会社に移転し,一方で完全親会社株式の割り当てをうける制度(商法第352条).たとえば,B会社株主(完全子会社となるB会社の株主)とA会社(完全親会社)との間の株式交換により,B会社株主はA会社の株主になると同時に,B会社はA会社の完全子会社となる.株式交換は,A会社かB会社に対してM&Aをしかけるひとつの手段であり,乗っ取られるB会社が納得してこれに応じる点で,友好的なM&Aである.この株式交換と同様な経済的効果を目的とするが,完全親会社を新たに設立する点で異なっているものに株式移転がある.株式移転は,完全親会社を新たに設立し,完全子会社となる会社の株主が所有するその会社の株式を完全親会社に移転し,一方で完全親会社株式の割り当てをうける方法である(商法第364条).たとえば,X会社株式(完全子会社となるX会社の株式)のY会社(完全親会社)への株式移転により,X会社株主はY会社の株主になると同時に,X会社はY会社の完全子会社となる.この株式交換と株式移転は,1999年8月の会社法改正で新設された制度であり,その創設目的は,急速なスピードで変化する経営環境に機動的かつ弾力的に対応するため,@持株会社体制への円滑な移行を可能にし,(2)企業買収を促進させることである.2000年9月に行われたみずほフィナンシャルグループの設立は,株式移転の方式がとられた.→M&A,持株会社[黒木松男]

■株式相互持合(stock cross-holding)かふしきそう 
A社の株式をB社が所有し,B社の株式をA社が所有するというような株式の所有形態のこと.あるいはA社がB社の株式を,B社がC社の株式を,C社がA社の株式を所有するといった所有形態も(循環的)株式相互持合とよばれる.三井,三菱,住友などの財閥系企業集団,トヨタ自動車などの企業系列,系列の異なる企業間にもみられる.このような所有形態は,1950年代の独占禁止法の緩和による企業集団の形成とともに始まり,1960年代の資本の自由化にさいして企業乗っ取り防衛策である安定株主工作として一層積極的に行われた.株式相互持合は日本企業に特徴的な所有形態であり,結果として経営者支配を強めることになったが,資本充実という資金調達面でのマイナスを指摘できる.企業集団の中核となっている銀行同士の合併や,時価会計への移行のなかで株式相互持合はそのメリットがうしなわれつつあり,解消される方向にある.このような経緯から,株式相互持合の解消の方法が現在,大きな問題とされている.仮に一度に大量の株式の売却が行われると,株価が大幅に下落することが予想され,株式市場に大きな混乱を招くことが予測されるためである.→機関化現象,企業集団,経営者支配説[牧野勝都]

■株式分割(split of stock)かふしきふん 
資産・資本の残高をそのままに株式数を増やすこと.高株価の会社の発行株式数を増やすことによって株価を低下させ,流動性を高めることが狙い.株式数が増加しても既存の株主には持ち株数に応じて配分されるので,権利や配当が実質的に変わることはない.なお額面株式1株の金額に分割後の発行済み株式数を乗じた額が資本の額を超えてはならないこと,また純資産を分割後の単位株数で割った額が5万円を下回ってはならないことを商法では規定している.[坂本恒夫]

■株主オンブズマン(shareholder’s ombudsman) 
企業の違法行為を抑制・是正し健全な企業活動を促すという目的から,1996年2月に大阪市において設立された非営利の市民団体の名称.会員は弁護士・公認会計士・大学教授などの識者と「市民株主(個人株主のなかでも大多数を占める小額株主)」および一般市民からなる.これまでに展開された具体的な活動は,@上場企業に対する株主総会改革の提議,(2)取締役の違法行為に対する株主代表訴訟の提起,(3)取締役の報酬および退職慰労金の個別開示を求める株主提案,(4)政治献金の返還と差し止めを求める訴訟,(5)企業の社会的責任にかかわる諸問題(環境,平等,労働,健康など)についてのアンケート調査の実施と提言など,多岐にわたっている●[前橋明朗]

■株主行動主義→機関投資家,CalPERS株主主権論かふぬしそう 
「会社は株主のもの」とする法制上の理念をいう.会社法は経営者が株主から拠出された資本を最大限に運用して利益を上げ,これを株主に配分すべき旨を想定している.それゆえ株主にはこれに担保をとるための配当請求権や残余財産分配請求権,そして株主総会(最高議決機関)を通じた経営者の選任並びに解任など種々の権利が与えられている.こうした法律前提により株主は会社の主権者として位置づけられると解される.たとえばアメリカにおいて,経営者は代理人として会社の所有者本人たる株主の利益の最大化をめざすべきことが強く認識されている.
 株主が会社の主権者となりうる実質的な根拠としては,彼らの出資にかかわるリスク負担という点が挙げられる.たとえば株主がその出資の範囲内で得るべき配当は会社収益の多寡に応じて変動するうえに,債権(たとえば銀行)利子と比べて受け取り順位が低いといったリスクを伴う.さらに会社には出資を払い戻す必要がないことから経営者の●意的な配当政策により株主にとって妥当を欠く配当がなされる危険性も含んでいる.
 しかし現実において,株主が会社の主権者であるか否かはバーリ&ミーンズ以降における企業の支配ひいては統治をめぐる議論の最大争点となっている.[前橋明朗]

■株主総会(general meeting of shareholders)かふぬしそう 
株式会社の最高議決機関.わが国の商法は定款の変更,資本減少,解散,合併など会社の存立にかかわる重要事項についての決定は株主総会の議決を必要とすることを定めている.計算書類の報告・承認や取締役の選任・解任も株主総会によって議決される.
 大規模な株式会社は株主数が多いため,株主の総会への出席率はきわめて低く,株主総会の形骸化が各国に共通の問題となっている.
 日本の株主総会はほとんど質疑が行われず,短時間で終了し,また個人株主の質問を受けつけないというような非民主的な運営が長い間問題とされてきた.経営者は多くの安定株主から集められた白紙委任状によって全議決権の圧倒的な比率を手中に収めているため,これに対抗できるような株主はほとんど存在しないのが現状である.これに対して,アメリカでは株主提案権の行使が活発に行われている.一部の株主からの株主提案が委任状説明書に記載され,株主総会に先だって全株主に周知されるような制度が確立されている.そのため経営者の方針に反対するような株主提案について多くの株主から委任状を集めることができ,これがアメリカの企業統治活動において大きな効果を発揮している.→株式会社,株主提案権,取締役会[佐久間信夫]

■株主代表訴訟(stockholder’s representative action)かふぬしたい 
株主が会社に代わって会社に損害を与えた取締役の責任を追及する訴訟のこと(商法第267条).株主の経営者に対するモニタリング(監視)の手段には種々のものがあるが,その中でももっとも強力な手段である.1993年以降この株主代表訴訟が急増したが,その主たる理由は,同年の商法改正で株主代表訴訟の訴訟費用を一律8,200円という低額にしたことにある.さらにバブル崩壊後の長期不況の中で企業不祥事が続発したことも株主代表訴訟の増加の要因となった.とくに企業不祥事として株主代表訴訟が提起された事件は,証券会社による損失補てん事件,ゼネコン疑惑事件,総会屋事件,薬害エイズ事件などがある.この株主代表訴訟の急増に対し,経団連などの財界人から,株主代表訴訟はわが国の経営者にとって耐えがたい負担を強いており,日本企業の活力を損なっているとの見解が公表された.さらに,2000年9月20日に大阪地方裁判所が大和銀行のニューヨーク支店の巨額損失隠ぺい事件に対して提起された株主代表訴訟について会社役員らが830億円の損害賠償責任を負う判決を下したことにより,このような莫大な賠償額を含めて,わが国における株主代表訴訟のあり方が論議されている.→コーポレート・ガバナンス[黒木松男]

■株主提案権(stockholder’s proposal right)かふぬしてい 
株主総会において議決権をもつ株主が,事前に会社に対して通知をしておくことにより,議案を提案できる権利のこと.日本においては発行済み株式総数の100分の1以上の株式または300株以上の株式を6ヵ月以上保有する株主が,会社が召集する株主総会において,一定の事項を総会の会議の議題とすること,さらに自己の提出する議案の要領を招集通知に記載を請求することができる.
 アメリカでは発行済み株式総数の1%ないし時価総額1,000ドル以上の株式を所有している株主は,株主総会で議論したい問題を提案できる権利があり,配布資料に意見が掲載されるほか,当日発言の機会も与えられる.会社側が議題に取り上げない場合はSEC(証券取引委員会)の許可をもらう必要がある.しかしながら,アメリカでは株主提案に関する投票の結果は経営者の行動を拘束するものではない.
 アメリカにおいては,株主提案が盛んに行われ,宗教団体を中心にして機関投資家が,環境問題,人種差別,兵器産業との関係などについての提案を行っている.日本においては,株主提案はほとんど行われず,取締役会の権限が強いアメリカにおいて,むしろ株主提案が盛んであるというパラドックスが生まれている.→株主総会,機関投資家[牧野勝都]

■貨幣の時間価値(time value of money)かへいのしか 
リース会計や近年わが国において新たに設定された退職給付会計や金融商品会計等には貨幣の時間価値の考え方が導入されている.
 貨幣の時間価値は利息(interest)によって表すことができる.たとえば,年5%の利子率を仮定した場合,現在の現金100万円は,1年後には105万円(100×(1+0.05))となる.つまり貨幣の時間価値を考慮すれば,現在の100万円は1年後の105万円と等価となる.キャッシュ・フローの将来価値を適切な割引率を媒介にして現在価値に変換することを割引計算(discounting)という.1年後の貨幣金額が100万円であるとすれば,利子率5%を割引率として,その現在価値は95.23万円(100/(1+0.05))となる.このような割引計算による現時点の貨幣価値を割引現在価値という.割引現在価値には,計算要素である将来キャッシュ・フローの見積りと割引率の選択いかんによって複数の結果が導かれうる.[古庄 修]

■カルチャーバウンド商品 
国家や地域の独特な習慣や伝統など文化的要因の影響が,商品の選好や購買行動に強く影響する商品のこと.たとえば,パッケージに入った食料品は,食文化や味覚感覚の違いに応じて素材や風味を修正したり変更したりして海外で販売されることが多い.また食習慣の違いや大家族制など世帯構成人数の違いに対応して包装分量を変えるなどの対応を迫られることがある.
 それに対して,商品の選好や購買にさいして文化的な影響をほとんどうけない商品もある.たとえばコンピュータやデジタルカメラなど多くのハイテク製品や旋盤,工作機械などの産業用機械も文化の違いの影響をほとんどうけない.このような商品をカルチャーバウンド商品に対してカルチャーフリー商品とよぶことがある.
 ただし文化的要因に影響される程度と,その影響を商品にどの程度まで反映させるかについては,相関しているわけではない.たとえばコカコーラ社は同じソフトドリンクでもコークは風味の修正をまったく行っていないが,スプライトではライム風味とレモン風味とを市場によって使い分けている.→国際マーケティング・リサーチ,製品戦略[池田芳彦]

■カルテル(cartel) 
同一ないし類似業種に属する企業が,協定によって市場における競争の制限を行おうとするものであり,企業連合ともよばれる.価格競争の制限を目的に最低販売価格の協定を行う価格カルテルは,その代表とされる.カルテルにはその他,生産量や販売量の協定を行う生産制限カルテル,販売地域に関する協定を行う販路カルテル,販売条件や支払条件の協定を行う条件カルテル等がある.カルテルは,アウトサイダーの発生を防ぐことが難しく,また各企業の利害や体力の相違から,協定違反・脱退等によって常に崩壊する可能性をはらんでいる.なおアメリカでは,プールという言い方がむしろ一般的である.ただしプールは,カルテルと必ずしも同一ではなく,協会組織を前提に協定が結ばれるところにその特徴があるとする見方も存在する.カルテルは,自由競争の制限によって市場の効率性を阻害し,消費者に負担を強いることから,今日では日本はじめ多くの国々において原則として禁止されている.しかし寡占化が進むと,プライス・リーダーシップといって,まずある一社が値上げを行い,同業他社がある程度の時間差をおきながら同一額の値上げを行う方式がとられることがある.この方式は,カルテルとは異なり値上げが暗黙の了解によってなされているという見方がある一方,実は密約が存在するという見解も存在している.[那須野公人]

■CalPERS(California Public Employees Retirement System)かるはす 
カリフォルニア州公務員退職年金基金のこと.アメリカで最大の公務員退職年金基金のひとつであり,約140万人の従業員,退職者の資産運用を行っている.CalPERSは1980年代後半より,コーポレート・ガバナンスの先導役として活躍している.その運用資産額は2004年6月現在で1,663億ドル(時価)であり,株式運用額はその約65%に相当する1,109億ドル,海外資産は351億ドルである.近年では,未公開株等への投資等,いわゆるオルタナティブ投資の額が増加している.
 株式保有企業数は,自家運用分でアメリカ企業約2,200社,外部部分では約4,240社,外国企業では,約1,800社にのぼる.国内株式運用に関しては,84.9%,海外株式に関しては67.7%がインデックス運用しており,売却が容易にできないことなどを背景にしてコーポレート・ガバナンスへ関与してきた.
 CalPERSのコーポレート・ガバナンスへの参加の目的は,会社経営者の日常の決定を妨げることなく,従業員や年金受給者への受託者責任を果たすために,長期的(5年が目安)投資利益を追求することである.扱う問題は,取締役選任のプロセス,取締役の独立性,役員報酬に関する事項などである.1980年代後半は株主提案権の行使など敵対的な手段を使っていたが,最近では経営者との対話を重視している.また,1990年代後半からは資産運用にさいして投資対象銘柄を評価するときに,従来の財務的評価に加えて社会的な評価を組み込んだ投資手法である社会的責任投資(Social Responsibility Investment: SRI)スクリーンを行っている.これは,企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility: CSR)を意識した投資手法である.→株主提案権,機関投資家,コーポレート・ガバナンス[三和裕美子]

■ガルブレイス(Galbraith, John Kenneth, 1908〜)かるふれいす 
カナダ生まれ,アメリカ経済学者.ケネディ,ジョンソン両大統領の顧問を務め,1961〜63年にはアメリカのインド大使にも就任.市場主義とは一線を画し,長期的かつ広い視野から現代社会と資本主義を分析.主著に,アメリカ資本主義の“平衡力”を高く評価したAmerican Capitalism, 1952. (藤瀬五郎訳『アメリカの資本主義』時事通信社,1955年),消費者需要が意図的に創出されている実体を指摘したThe Afflunet Society, 1958. (鈴木哲太郎訳『ゆたかな社会』岩波書店,1960年),テクノストラクチュアの概念を提起したThe New Industrial State,1967.(都留重人監訳『新しい産業国家』河出書房新社,1968年)など.→テクノストラクチュア[木村有里]

■為替管理(exchange control)かわせかんり 
一国の国際収支の均衡と自国の通貨の安定を目的として経常取引(商品・サービス貿易)や資本取引に対して行う規制をいう.一般的に,対外収支や為替相場に不安の少ない先進国ほどこの規制は緩く,不安の多い開発途上国ほど為替管理が厳しいといえる.
 日本の為替管理は,基本法として「外国為替及び外国貿易管理法」(外為法) が1949年12月制定され,1980年12月の改正外為法で対外取引を原則自由とする法体系に改められた.
 その後の金融・資本取引のグローバル化の進展を背景に,日本の金融市場の国際競争力強化を目的として,わが国の為替管理制度の抜本的見直しを行った改正外為法が1998年4月から施行され,為替管理が全面的に自由化されることになった.[田中友義]

■為替相場メカニズム(ERM:Exchange Rate Mechanism)かわせそうは 
EC加盟国通貨間の為替安定を図るため,為替相場の変動を一定の範囲に維持するための市場介入メカニズムのことであり,欧州通貨制度(EMS)の中心部分を構成する.主要な介入方式として各国通貨の市場介入を義務づけたパリティ・グリッド方式(Parity Grid,2国通貨間の一連の基準相場の格子)がある.基準相場はEU各国通貨の対ECU中心相場を決定し,その中心相場を仲介して2国間通貨の基準相場が算定される.為替相場の変動幅は基準相場に対して原則として上下2.25%の範囲内と規定されていたが(一部の国は上下6%の変動幅),1993年8月に勃発した欧州通貨危機以降,一部の国を除いて許容変動幅が上下15%に拡大された.為替相場への介入については,変動幅の上下限に到達した場合,該当する2国のそれぞれの中央銀行による無制限の介入を義務づけられている.ERMによる市場介入メカニズムを機能的に運営するための制度として信用供与ファシリティが利用できる.ERMは1999年1月から単一通貨ユーロが導入された後,発展的に廃止されて,その仕組みはユーロ参加国(ユーロ圏)とユーロ不参加国(非ユーロ圏)との間で為替相場の安定をはかるERMII(参加は任意)へと引き継がれた.変動幅は上下2.25%から15%まで容認されているが,それを上回って変動する場合は欧州中央銀行(ECB)と非ユーロ圏の中央銀行とが介入を行う.→欧州中央銀行,欧州通貨制度,ユーロ[田中友義]

■為替レート(foreign exchange rate) 
異なった通貨の交換比率のこと.通貨の価値を表わすものともいえる.つまり,日本円と交換できる外国通貨の量が多ければ円の価値が高いことを意味している.たとえば,ドルと円の為替レートが1ドル=200円から同100円になれば,ドルが安く円は高くなっている.ドル安・円高である.そして,為替レートは通貨に対する需給のバランスによって変動するので,商品取引に近い性格をもっている.ある国の商品がよく売れる(輸出増大)とすれば,商品を買うための通貨に対する需要が増え,その価値が上昇するのである.このため,為替レートは貿易を行う企業に影響を与える.トヨタ自動車の場合は1円の円高で250億円程度の差損が出るといわれる.そこで,企業は為替の先物予約を行っている.
 為替レートの代表的な理論には,各国通貨の購買力に注目した「購買力平価説」がある.簡単に説明すると,アメリカで売られているハンバーガーが2ドルの時,同じものが日本で100円ならば,1ドル=50円と考えるのである.
 なお,自国通貨と外国通貨の為替レートを固定するペッグ制を採用している国もある.多くの場合は自国通貨と米ドルの為替レートを固定(ペッグ)している.→為替管理,為替相場メカニズム,先物取引[加藤 巌]

■環境会計(green accounting)かんきようか 
企業の環境負荷削減に投入したコスト(費用)と,それによって得られたリターン(効果)をあらわすことを目的とした会計システム.環境にかかわる活動を数値化することによって,企業内部に環境保全活動の進捗度を認識させ,また利害関係者に対しては環境情報を公開するのに有効なツールとなる.具体的には,廃棄物の処理や汚染防止のための施設建設等に投入した費用が環境対策コストとしてあげられ,省エネによって節減できたコストや汚染回避によるコストの削減が効果として計上される.企業会計原則といった従来の財務諸表にみられるような統一基準がなく,何を環境コストとし何をリターンとして認識するかは,学識者,実務家の間でもさまざまな見解があり,企業にとってもその判断は難しい.そうしたことから,環境庁(現環境省)は,企業の規模の大小や業態にかかわらず環境会計が広範囲に普及することを目的とし,環境会計支援システムとしてガイドラインを発表(2000年5月)した.ホームページで「環境会計支援ソフトウェア」を提供し,自由にダウンロードできるシステムとなっている.また,環境会計が企業の内部管理としての利用にとどまることがないよう,外部への情報開示も考慮し,ガイドラインにそって集計された企業のデータを環境庁が媒介となってネット上で公表されるシステム構築をめざす意向である.
 一方,企業側においても早くから環境会計を導入し,1999年1月にその内容を公表した日本IBMに続き,日本の企業としては,富士通が1999年5月に初めて公表しており,その後もソニー,NEC,トヨタ等大企業の導入が相次いでいる.また,宝酒造の「緑字決算」のように,独自のシステムを開発し積極的に取り組む企業もみられるが,環境庁は,最終的には,業種,業態の特色を活かしつつ企業間での比較が可能となるようなガイドラインづくりを段階的に進めていく方針である.→利害関係者[野村佐智代]

■環境監査(eco audit)かんきようか 
経営管理手法のひとつで,とりわけ企業の環境に関連した活動システムが,監査基準に適合しているかどうかを客観的に判断する検証プロセスをさす.企業が環境への負荷削減を継続的に行っていくための環境管理システム(EMS: Eco Management System)は,PDCAサイクル(Plan:計画→Do:実行→Check:確認→Action:是正・対応)に基づいて実行されるが,環境監査はそのうちのチェック機能の役割を担う.ISO14000シリーズでは,環境監査指針として14010に一般原則,14011に監査手順,14012に環境監査員の資格基準が盛り込まれている.各国のISO認証取得企業は年々増え,日本でも急速に普及しているが,認証取得の手続きにかかる費用が高いことや資料作成の煩雑さなどから,イトーヨーカ堂のようにあえて取得せずに,独自のEMSを構築し環境優良企業として認知されている企業もみられる.→ISO[野村佐智代]

■環境経営 
環境問題の解決や環境保全といった環境に配慮した企業経営.環境経営は,1990年代に入り,環境に対する配慮を義務づける制度や法律が整備されてきたことをきっかけに推進されてきた.しかしそれは単なるコスト負担としてだけではなく,環境への配慮を重視する消費者であるグリーン・コンシューマーが増えてきたことを背景に,環境経営が自社の価値を高める機会ともなってきている.具体的には,環境問題に取り組むための手順を示した環境マネジメント・システムの国際規格であるISO(国際標準化機構)14000の取得,排出物を出さずにすべて再利用をめざすゼロエミッション,環境にやさしい製品のみを購入して利用するグリーン調達,環境に配慮した企業の取組みをブランド構築につなげるグリーン・マーケティングなどがあげられる.また環境経営を実施するに当たって,これを推進する組織である環境対策推進組織などを設置したり,環境保全に対する投資やコストとその結果得られた効果を把握する環境会計を導入したり,また環境問題への取組みをまとめた環境報告書を作成・公表する企業もでてきた.→ISO,グリーン・コンシューマー[秋野晶二]

■環境税(environmental taxes)かんきようせ 
二酸化炭素や廃棄物など,環境負荷の原因となるものに課税する制度.代表的な環境税としては,二酸化炭素の発生源となる石油・石炭・天然ガスなどに課税する炭素税があげられる.90年代に入り,オランダ,フィンランドでの導入をはじめとし欧州各国が相次いで検討・実施を進めている.日本では先進各国の温暖化ガス排出量削減目標を盛り込んだ京都議定書(1997年)で,2010年までに90年度比6%削減を公約し,課題達成のために炭素税導入の必要性が謳われている.一方で,景気への悪影響を懸念する産業界の反発が大きく,導入への緩和策として,法人税や個人税などの減税との抱き合わせや,排出権取引をともに推進すべきであるといった意見が出ている.
 炭素税の導入は難航しているが,低公害車の自動車税を減税する自動車グリーン税が2001年度(2年間の時限立法)に導入された.2000年排出ガス基準値より排出ガスを低減する自動車(ガソリン車,ディーゼル車,LPG車)で,一定の燃費基準を満たせば,低減率に応じて自動車税の税率が軽減された.電気自動車,天然ガス自動車,メタノール車も軽減された.2003年度は同基準を75%減らす車に限り,減税を1年間延長した.2004年度の税制改正では,排出基準そのものが新しくなり(2005年基準値),規定の排出ガス性能および燃費性能を満たす自動車,電気自動車,天然ガス自動車,メタノール車は税金が軽減された.→排出権取引[野村佐智代]

■環境報告書(environmental reporting, green reporting)かんきようほ 
企業が自社の環境保全活動に対する取組みを示した報告書.報告の記載内容は,通常の決算書のように統一された基準はないが,その多くが経営者の環境理念を冒頭に掲げ,製品や製造過程,設備等における環境負荷削減のための対策を明記している.発行回数についても,毎年発行する企業,隔年発行の企業等まちまちであり,インターネットで情報公開している企業もある.投資家だけでなく地域住民や消費者といった幅広い利害関係者を意識し,企業の環境問題への取組みを積極的にアピールするツールとなっている.また環境会計の導入に伴い,二酸化炭素など汚染物質の削減を示す物量的なデータだけでなく,貨幣値に換算されたデータを掲載する企業も増えてきている.今後は,比較可能な業種別での統一基準の確立や,第三者意見の掲載などが課題とされる.
 一方で,企業の持続可能性を環境,社会性,経済性の3つの観点から評価する世界的統一基準のGRI(Global Reporting Initiative) 草案が公表されており(2000年6月), 現在の環境報告書の形式にとどまらないGRIのガイドラインに沿った報告書を作成・公表する企業も出てくるものとみられている.→環境会計,利害関係者[野村佐智代]

■環境保全コスト(environmental cost) 
環境省が2002年に公表した「環境会計ガイドライン2002年版」は,財務パフォーマンスと環境パフォーマンスの統合のための体系的な仕組みとして環境会計を定義し,企業の環境保全活動を総合的に開示させることを目的としている.当該ガイドラインは,貨幣単位で測定される環境保全コストと物量単位で測定される環境保全効果とを対比し,併せて貨幣単位で測定された環境保全対策に伴う経済効果を所定の公表用フォーマットを用いて開示することを求めている.
 環境保全コストは,環境保全対策に投入した財・サービス・労働力の対価であり,以下のように7つに分類されている.
@ 事業エリア内コスト(主たる事業活動により事業エリア内で生じる環境負荷を抑制するためのコスト)
(2) 上・下流コスト(主たる事業活動に伴ってその上流または下流で生じる環境負荷を抑制するためのコスト)
(3) 管理活動コスト(管理活動における環境保全コスト)
(4) 研究開発コスト(研究開発活動における環境保全コスト)
(5) 社会活動コスト(社会活動における環境保全コスト)
(6) 環境損傷対応コスト(環境損傷に対応するコスト)
F その他のコスト[古庄 修]

■雁行形態論(flying geese theory)かんこうけい 
1960年代に日本の高度経済成長が始まった.1970年代から1980年代前半にかけてNIESで高度経済成長の波が起こり,1980年代後半にはASEAN,そして近年では中国やベトナムへとその波が押し寄せてきている.アジア各国の経済発展が日本を先頭にして,雁が群れをなして飛ぶように,連鎖的に起こっている.このようなアジアの経済成長パターンを説明する理論のことをいう.
 この理論は,1930年代に赤松要が提唱したものである.実際に,この理論を実践するような経済成長のパターンが,その後,アジア地域でみられたため,これを雁行形態的経済発展とよぶ.ヴァーノン(R. Vernon)の「プロダクト・ライフ・サイクル理論」が,後発国への新技術の移転を先進国の立場から分析した理論であるのに対し,雁行形態論は,新技術を取り入れて,経済的にキャッチアップする過程を,後発工業国側から分析した理論である.しかし,この理論は,1990年代以降の日本の景気後退によって崩壊しつつある.東アジア諸国は,日本が採ってきた産業政策主導の経済成長方式を適用しようとしてきたが,とくに1997年のアジア通貨危機を契機に,IMFや世界銀行の融資条件として,アメリカ型の自由経済モデルへ構造転換するよう強いられている.→プロダクト・ライフ・サイクル[黒川文子]

■監査委員会(audit committee)かんさいいん 
取締役会の中に設置される委員会のひとつで,財務資料の作成過程,内部統制,会計監査人の独立性などを定期的に監督する.アメリカの上場企業では必ず監査委員会を設置しなければならない.アメリカでの1970年代のウォーターゲート事件やロッキード事件などをきっかけに,多くの企業において違法な献金や不正な支出が行われていることが明らかになり,取締役会が機能していないことが問題視された.これをうけて,取締役会の独立性を高めるために,取締役会内に委員会を設置して,委員会を通じて経営者の監督を行うことが望ましいとされた.この試みのひとつとして,社外取締役を中心とする監査委員会を設置して,業務執行の状況を監視することが制度化された.ニューヨーク証券取引所での上場要件では,監査委員会は全員社外取締役で構成されていなければならない.アメリカではほとんどの企業で監査委員会が設置されており,もっとも設置率の高い委員会となっている.日本の委員会等設置会社においても,過半数の社外取締役から構成される監査委員会の設置が義務づけられることになった.しかし,アメリカでは社外取締役は会社と利害関係をもたない,いわゆる独立取締役でなければならないのに対し,日本の社外取締役は独立性が弱いことが問題となっている.→委員会等設置会社,監査役会,取締役会[牧野勝都]

■監査役会(auditing board; 独Aufsichtsrat)かんさやくか 
監査役から構成される機関のこと.日本の株式会社では監査役が選任されなくてはならない.株主総会において選任され,その任期は3年である.監査役は,株主の立場から企業の監査を行い,株主による取締役の監督機能を補完する.商法特例法による大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)では,監査役は3名以上であり,社外監査役を必ず1名以上導入し,監査役会を設置しなければならない.監査役の監査対象は,資本金1億円以下でかつ負債総額200億円未満の会社では会計監査のみであり,それ以上の規模の会社では会計監査ならびに業務監査を行うことになっている.現実には監査役の役割はかなり限定的で,閑散役と揶揄されることもしばしばであり,コーポレート・ガバナンスの観点から監査役の機能強化が重要な課題となっている.
 ドイツでは,監査役会(Aufsichtsrat)は株主代表と労働者代表から構成され,執行役会(Vorstand)の上部機関として位置し,執行役の任免権をもつなど大きな権限が与えられているという点に特徴がある.実際には執行役会との役割の逆転現象が指摘され,1998年にはKonTraGが施行され,監査役会改革への第一歩が踏み出された.→株式会社,コーポレート・ガバナンス[牧野勝都]

■関税同盟(customs union)かんせいとう 
経済的に緊密な関係にある2つ以上の国が結びつき,関税や輸出入制限を撤廃するとともに,域外諸国に対しては,共通の関税や輸入制限を設定する地域統合をいう.1958年結成のEEC(欧州経済共同体,現在のEU)などがその代表例である.
 関税同盟の結成によって,非加盟の域外諸国は不利益をこうむる恐れがある.GATTの「無差別待遇」や「最恵国待遇」の基本原則に反することになるが,GATT第24条は関税水準や通商規制が同盟結成以前より引き上がったり,強化されない限りこれを容認している.
 関税同盟がもたらす経済効果については,1950年代のヴァイナー(J. Viner)の理論が有名である.関税同盟の結成によって,貿易創出効果(trade creating effect)と貿易転換効果(trade diverting effect)との2つの経済効果がもたらされる.
 前者は域内関税撤廃により域内貿易取引が拡大し,結果として,加盟国の経済厚生が高まる効果である.後者は,関税同盟を結成した結果,本来競争力のある域外国からの輸入が域内の他の加盟国からの輸入に代替され,域内外の資源の効率的配分が阻害される効果をいう.ヴァイナーの主張は,前者が後者を上回るとき,加盟国に対してプラスの経済効果をもたらし,逆の場合はマイナスの効果をもたらすとした.→最恵国待遇,自由貿易地域[田中友義]

■ガント(Gantt, Henry Laurence, 1861〜1919) 
アメリカ生まれ.長年にわたりテイラーと仕事を共にした.彼は,産業能率の改善という命題にもまして,経営管理の全般的な問題に気づき,考慮した.人間の心理をより深く洞察し,時間や動作研究といった測定法とは対立する方法を一層重視することで,科学的管理のアプローチを拡張した.現代の生産管理にも必須の「ガント・チャート」(人員,工程管理などに用いられる帯状のグラフ)の生みの親.[木村有里]

■カントリー・リスク(country risk) 
海外投融資が資本受け入れ国の諸事情によりさまざまなリスクにさらされ,しかもその事象が直接的・間接的に当該国政府のコントロールの下で発生することをいう.カントリー・リスクは事業体そのもののリスクと個人(派遣社員とその家族)のリスクに分けられる.
 事業体のリスクには,戦争・革命・内乱・暴動などのような受け入れ国の主権にかかわるリスク,相手国政府の強制的な国有化による収用,課税強化などにより経営支配力を収奪する「しのびよる収用」などの収用リスク,債務危機などを理由に為替取引の制限・禁止を行う送金リスク,製品輸出比率や現地調達比率の引き上げや各種優遇措置撤廃など政策・制度の急激な変更によるリスクなどがある.生産コストの急上昇,ストライキなども,相手国政府の政策や対応に起因する場合はカントリー・リスクに含まれる.個人にかかわるリスクは,生命のリスク(誘●,殺害など)と財産のリスク(私物の盗難,損傷など)からなる.
 カントリー・リスクは,投融資企業や個人にとって不可抗力的なリスクであるので,投資母国の親企業におけるリスク管理体制の整備が不可欠である.親企業は正確な情報に基づいて国別投資環境・事業環境の状態を常時追跡し,ある程度までリスクを予測し,これに的確に対応していく能力をもつ必要がある.→フェードアウト[鈴木岩行]

■カンパニー制 
近年,顕著にみられるようになった企業環境の激変は,企業に対して意思決定のより一層の迅速化を要求するようになった.カンパニー制とは,このようなニーズに対して従来の組織体制では対応が困難になった日本企業が採用するようになった新しい組織体制であり,社内分社制ともよばれる.カンパニー制は,事業部制と基本的には同じ形態をとっている.しかし,@各事業部を整理統合してカンパニーという形態に改め,あたかも独立事業として運営されるかのごとく大幅に権限を委譲している,(2)総括本部もスリム化し,コーポレートへと改称している,などの点で事業部制とは区別される.また,あくまでもカンパニーへの分割は同一社内の枠内で行われることから,分社化とも区別される.このようなことから,カンパニー制とは,各事業単位へのより一層の分権化を意図した,事業部制と分社化の中間的な組織形態であるといえる.→事業部制[青木克生]

■管理会計(management accounting, managerial accounting)かんりかいけ 
経営管理への役立ちを目的とした企業会計.企業会計が作り出す情報を利用するステークホルダーのうち,外部利害関係者を対象とし,その利害調整を目的とするのが財務会計である.それに対して,管理会計は内部の経営管理者を対象とし,そのマネジメントを支援することを目的としている.
 伝統的には,経営管理機能が計画機能と統制機能に大きく分けられることに対応して,管理会計も計画会計と統制会計に2区分されていた.その後,計画と統制の接合が問題視され,経営管理者の意思決定と組織や個人の業績管理の視点から,管理会計を意思決定会計と業績管理会計に区分する考え方が登場した.
 意思決定会計には,設備投資計画のような経営の構造的変化を伴う基本計画や長期利益計画などが含まれ,業績管理会計には,短期利益計画とそれを実現するための予算管理や原価管理(原価の維持と原価改善)といった部門業績評価のための会計制度が含まれている.
 さらに,アンソニー(R. N. Anthony)は,経営管理のプロセスを戦略的計画(目標の定義,組織構造の計画,諸方針の決定,新規事業の獲得など),マネジメント・コントロール(管理会計のコアとなる個別計画と総合計画ならびに予算管理など),オペレーショナル・コントロール(在庫管理システムや内部統制システムなど)の3つに分け,これらの各局面で必要とされる情報システムとして管理会計を位置づけた.
 このように,管理会計のコアは現代においてもマネジメント・コントロールであることにかわりはないが,近年は管理会計の戦略性が問題視される中で,これまでの財務情報のみならず,戦略目標と現場の業務活動をリンクする非財務情報も,管理会計が取り扱う領域として重視されつつある.→意思決定,予算管理,利害関係者[平岡秀福]

■管理過程論(management process theory)かんりかてい 
管理者の機能をいくつかの要素的な諸職能の一連のプロセスと捉える管理論の考え方.職能としてはさまざまなものが提起されているが,代表的な職能として,将来の動向を予測して計画を作成する「計画」,事業を構成する人や物を集めて組織化する「組織」,部下を指導する「指揮」,物事を計画に合致させる「統制」などがあげられる.管理過程論では,管理の諸職能が分析されるだけではなく,それらの職能が有効に働くために,一定の状況のもとで役立てることができる「管理の諸原則」も提示される.また管理過程は,企業だけではなく,あらゆる組織活動にも適用できる普遍性をもったものとして提起されている.→管理原則[秋野晶二]

■管理原則(principles of management)かんりけんそ 
組織を合理的に編成し効率的に管理するにあたって,適用・遵守されるべき指針となるもの.組織原則ともいう.ファヨール(H. Fayol)やテイラー(F. W. Taylor)にはじまる伝統的(古典的)管理論ないし組織論における組織編成の原則でもある.管理原則の祖ともよばれるファヨールは,経営者としての長年の経験を理論的に整理し,管理活動に役立つ実践的指針として,管理原則を提示した.彼の説によると,あらゆる経営活動は生産,販売,財務,人事,会計,管理という6つの職能から構成される.このうち,最後の管理職能は,さらに計画,組織化,命令,調整,統制という5つの要素に分けられる.そして,このような管理職能を遂行するにあたって,重要と思われる14の管理原則が提示された.ただし,彼も述べているが,管理原則そのものは状況に応じて数限りなくあり,絶対的なものではない.ファヨールの管理原則論は,後に管理過程学派の人びとによって引き継がれ,精緻化されてきた.
 組織編成の原則として重要なものを取り上げてみると,専門化の原則(分業の原則),統制範囲の原則,階層化の原則,命令一元化の原則,権限と責任の原則,例外の原則(公式化の原則),などがある.専門化の原則(分業の原則)とは,仕事を細分化し単純化することによって,習熟時間を短縮し,熟練レベルや専門能力を高度化すること.統制範囲の原則とは,一人の管理者が管理できる部下の数に自ずと限界があるという経験則である.部下の職位や職種によって適正な管理範囲や人数が異なってくる.専門レベルが高くなったり判断業務が複雑になるにしたがい,管理できる部下の数は減少してくる.階層化の原則とは,組織をピラミッド型の階層に編成することであるが,組織の規模が大きくなれば当然分業の原則と統制範囲の原則が機能することになり,そこから必然的にタテ長の階層組織が生まれてくる.しかし,階層の数が増えると,組織の上層と下層の間でコミュニケーションがとりにくくなるという欠点が生じる.命令一元化の原則とは,命令や指示が直属の一人の上位者から受けるべきであることを意味している.権限と責任の原則は,権限と責任が対応していてはじめて機能することを示している.権限とは業務を正式に遂行できる権利であり,責任とは業務を遂行する義務であり,期待された結果を出すことである.例外の原則(公式化の原則)とは,日常反復的業務(ルーチーン)はルールや手続きをあらかじめ決めておき(公式化し),そのような業務は部下に委ね,上司は例外的な業務に専念すべきであることを意味している.→管理過程論[小阪隆秀]

■官僚制(bureaucracy)かんりようせ 
ドイツの社会学者ウェーバー(M. Weber)は,支配の形態を合法的支配,伝統的支配,カリスマ的支配の3つに類型化し,そのうちで合法的支配の理念型を官僚制としている.その特徴としては,@官職の権限が規則により明確に規定されている,(2)官職における上下関係が明確に規定されている,(3)職務執行は文書に基づきなされる,(4)特別の専門教育を前提とした職務活動,(5)職務執行は規則に従って行われる,(6)官職の経営手段の所有からの分離,などの点があげられる.ウェーバーは,このような特徴をもつ官僚制は,正確性,迅速性,明確性,文書に対する精通,継続性,慎重性,統一性,厳格な服従関係などの点で技術的にもっとも優秀な組織形態であるとしている.しかしながら,このような技術的優秀性は,愛や憎しみなどの人間の感情的な要素を職務の遂行から徹底的に排除することによって達成される.この点で,官僚制という形態は,きわめて「没人格的」な性格を露呈せざるをえない.この「没人格的」な性格は,かえって組織の機能を低下させるという「官僚制の逆機能」を引き起こす原因ともなりうる.マートン(R. K. Merton)は,官僚制の逆機能的側面として,目的と手段の転換,同調過剰と集団精神,人間関係の非人格化などの点を指摘している.→ウェーバー[青木克生]




■キオスク端末機(kiosk terminal) 
街頭や公共施設,店頭などに置かれ,ネットワークに接続されている情報端末機のこと.キオスクの原語はトルコ語で「テント」や「建物」を意味するが,アメリカに入ってからは街頭の「新聞スタンド」を意味するようになった.コンビニエンスストアのキオスク端末機はオンラインの買い物,コンサートやホテルのオンライン予約,クレジットカードやカードローンの請求に対する現金支払いなどができる機能がある.また,行政サービスや情報提供のために,パソコンをもっていない人やパソコンの操作ができない人に対して,公共施設などにタッチパネルなどで簡単に操作できるキオスク端末機を設置し,電子化を進めている自治体も多い.情報キオスク(information kiosk)やビデオ・キオスク(video kiosk)ともよばれる.[市田陽児]

■機械的組織/有機的組織(mechanistic organization/organic organization)きかいてきそ 
バーンズ&ストーカー(T. Burns & G. M. Stalker)は,技術革新や市場条件などの環境条件の変化が管理システムの変化にどのようにかかわってくるかを検討し,安定した環境条件には機械的組織が適しており,変動的な環境条件の下では有機的組織が適しているという命題を導き出している.機械的組織の特徴としては,@タスクの専門的職能への分化,(2)手段の技術的改善の追求,(3)直接の上司による各職能の監督や業績の調整,(4)権利,義務,技術的方法の厳密な規定,(5)権利,義務,技術的方法の各職位の責任への転化,(6)コミュニケーションの階層構造,F階層のトップに実際の知識が集中する,G垂直的関係における相互作用,H上司の指示による作業の統制,10事業への忠誠心と上司への従順の強調,11専門的な知識の重視,などがあげられる.
 一方,有機的組織の特徴としては,@共通のタスクに対する特定の知識や経験の貢献的性格,(2)全体状況を重んじた個々のタスク,(3)タスク間の相互作用を通した調整,(4)責任は権利,義務,技術的方法の限定された範囲で流れる,(5)事業に対するコミットメントの技術的な規定を超えた広がり,(6)コミュニケーションのネットワーク構造,F知識がネットワークのどこにでも配置されることが可能,G情報や助言から構成されるコミュニケーションの水平的な流れ,H実質的な進歩や拡張をめざす技術的気風の重視,10企業外でも通用する関係や専門能力の重視,などがあげられる.[青木克生]

■機会費用(opportunity cost)きかいひよう 
ヒト・モノ・カネなどの経営資源や時間を,ある特定の用途に使用するとき,その資源をもし別の用途に使用していたら獲得できたであろう最大の利益のこと.言い換えれば,機会費用というのは,あるものを獲得するために,その犠牲となって失ってしまった貨幣額であり,その意味で,費用と考えられるものである.たとえば,ある事業の年間収益率が2%であるとき,その事業資金を銀行預金にした場合,年間5%の利子が支払われるとすれば,その事業は3%の損失を生み出しているということになる.このように機会費用を考慮しなければ,真の利益額の客観的評価が困難になるため,経営の意思決定のさいに,常に念頭においておく必要がある.[小阪隆秀]

■機関化現象(institutionalization)きかんかけん 
株式の所有主体が個人投資家から機関投資家へと移行し,機関投資家による株式所有の比率が急速に増大していった現象のこと.アメリカでは1950年代に投資信託,年金基金財団基金などの機関投資家の発展と機関化が株式市場に与える影響について注目され始めた.そして1960年代後半には機関投資家が株式市場における中心的役割を果たすようになった.機関化現象は株式市場に正および負の影響を及ぼす.正の側面では,株式流通市場の需給に厚みを与え,取引の円滑化,価格形成の公正化をもたらしたこと,株式発行市場における資金調達機能を強化したことをあげることができる.
 その一方で,負の側面では株価の二極化現象(好業績の企業の株式に投資が集中する結果,これらの株式が大幅に値上がりするとともにその他の株式は割安になること)を生み出し,特定銘柄への取引の集中をもたらしたこと,株価変動が激化するようになったことなどの弊害をもたらした.日本においては所有主体は機関投資家よりも事業法人,銀行が中心であり,資産の効率的な運用を目的とする純粋な機関投資家と事業法人や銀行では投資行動が異なるため法人化とよぶべきであると奥村宏によって主張された.
 このような株式所有構造の変化は企業経営にも影響を及ぼす.アメリカではかつて機関投資家は短期利益を求めて株式の売買を繰り返し,企業経営には介入しないのが一般的であった.近年,とくに公的年金基金を中心に企業経営に積極的に関与するリレーションシップ・インベスティング(relationship investing)が行われるようになった.また,1990年代の株価高騰を背景にミューチュアル・ファンドの所有比率が目覚しく増加している.日本では外国の機関投資家の持株比率が高まるなどの動きが起こっている.→ウォール・ストリート・ルール,機関投資家[牧野勝都]

■基幹業務システム(mission critical system)きかんきよう 
販売管理システム,購買管理システム,在庫管理システム,生産管理システムなどのように企業の業務処理で発生する実績データを管理するシステムであり,そのシステムが停止すれば企業活動そのものも停止するという性質をもつシステムのことをいう.したがって,グループウェアやデータウェアハウスなどは「情報系システム」とよばれ「基幹業務システム」とは区別される.
 基幹業務システムは,経営情報を提供するシステムとしてのMIS(Management Information System),製造と販売を統合するシステムという意味での製販統合システム(日本ではComputer Integrated Managementの意味で使われる)としてのCIM(Computer Integrated Manufacturing),情報システムをより戦略的に活用しようというコンセプトのSIS(Strategic Information Systems)というコンセプトの影響を受けた.1990年代にはBPR(Business Process Reengineering)の影響を受け設計思想の変化をみたが,現在ではERPパッケージが基幹業務システムとして活用される時代になった.→ERP,MIS,CIM,BPR[杉野 周]

■機関投資家(institutional investor) 
機関投資家とは,一般に個人投資家以外で証券投資を行っている団体をさし,戦後アメリカでその行動が注目されてきた.その範●には銀行信託部,保険会社,投資信託,年金基金,財団,大学基金などが属している.アメリカでは第2次世界大戦後,大衆の資金を吸収する機関として,投資信託や企業年金などの大規模な投資受託機関が発展してきた.
 こうした投資受託機関は証券市場における投資主体としてみると,機関投資家という新たな職業的投資家の台頭として認識されるようになった.機関投資家の台頭は,@私募形式による株式発行の増加,(2)流通市場での売買回転率の上昇,(3)場外取引への移行,(4)機関相場とよばれる株価相場の形成,(5)会社支配機構への作用といった影響を及ぼし,「機関化現象」として注目された.
 このような「機関化現象」を解明するために,SEC(Securities and Exchange Commission:証券取引委員会)は1971年に大規模な調査を行った.それによると,機関投資家はアメリカの発行済み株式総数の約40%を保有しており,発行企業に及ぼす影響が検討された.その結果SECは,機関投資家の株式保有数,額は増大しているが,直接的に機関投資家が発行企業に影響を及ぼすことはないとした.すなわち,機関投資家は個別企業の経営に対して「声」をあげることはない「サイレント・パートナー」である.機関投資家は,企業経営に不満がある場合には,その企業の株式を売却するといういわゆるウォール・ストリート・ルールに則した行動をとるのが普通であるとしている.しかし,今日,機関投資家の株式保有額はさらに増大し,インデックス運用が多用されている.このような場合,売却するには取引コストがかかり,「声」をあげることが合理的な投資行動として考えられるようになった.→ウォール・ストリート・ルール,機関化現象,取引コスト[三和裕美子]

■企業改革法ききようかい 
エンロン事件に端を発した一連の企業不祥事を受け,2002年7月末に制定(26日に上下両院で可決,同30日にブッシュ大統領が署名し即日発効)された法律をさす.その目的は経営陣が働いた不正行為(粉飾決算,不正収益着服,監査法人との●着など)によりいちじるしく損なわれたアメリカ資本市場の信用を早期に回復させることにあった.本法は提案した2人の議員の名に因み,サーベンス・オクスレー法(Sarbanes-Oxley Act of 2002)ともよばれている.
 本法の内容は多岐にわたっているが,その眼目はコーポレート・ガバナンスの強化に置かれている.具体的な骨子は以下のように集約することができる.第1に監査法人を監視するための機関:「公開会社会計監督委員会(PCAOB: Public Company Accounting Oversight Board)」の設置や,監査法人による会計監査とコンサルティングの兼業禁止などにより監査法人に対する監視を強化した.第2にCEOおよびCFOに対する財務報告書認証責任の厳格化や不正利益の投資家への返還を義務づけるなど,経営者の責任を強化した.第3に財務情報の開示強化(SECによる精査,対象事項の拡充,即時開示の義務づけなど)を通じた資本市場の透明性確保を企図した.そして本法の遵守徹底を図るため,有期懲役の最高刑を現行の4〜5倍に引き上げるなど刑罰規定を重くした.たとえば連邦捜査を逃れるための文書破棄・改竄等については最高20年,証券詐欺罪には最高25年の禁固刑を科す他,経営者の不正行為に対する罰則規定を大幅に強化した.
 企業改革法はアメリカにおけるコーポレート・ガバナンスの流れが従来の自主規制から法による規制強化に移行していることを示唆している.このことが現在世界的に取り組まれているコーポレート・ガバナンス改革にどのような影響をもたらすのか,今後の展開が注視される.[前橋明朗]

■企業会計原則(accounting principles)ききようかい 
1949年7月に経済安定本部企業会計制度対策調査会が中間報告として設定・公表したものである.設定当初の目的は,日本経済の再建にあたって,外資の導入,企業の合理化,課税の公平,証券投資の民主化,産業金融の適正化等の合理的な解決のために,企業会計の基準を確立・維持する必要があるとの観点から,国民経済の民主的かつ健全な発達のための科学的基礎を与えるということにあった.その役割として,@公認会計士が公認会計士法および証券取引法に基づき財務諸表の監査をなす場合において従わなければならない基準,(2)企業会計に関係ある諸法令を制定・改廃する場合において尊重されるべきものとされた.
 企業会計原則は,企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から,一般に公正妥当と認められたところを要約したものである.必ずしも法令によって強制されないまでも,すべての企業がその会計処理にあたって従わなければならない基準であるとされている.企業会計原則は理論規範としての性格とともに,会計実務における実践規範としての性格をあわせもっている.現在に至るまでに,1954年7月,63年11月,74年8月,82年4月の商法および税法をはじめとする関係法令との調整を行っている.
 企業会計原則の構成は,@企業会計全般に係る包括的な原則としての一般原則,(2)収益・費用に係る処理表示を規定する損益計算書原則,(3)資産・負債・資本に係る処理表示を規定する貸借対照表原則,からなる.また,重要な項目については注解が付され補足説明が加えられている.企業会計原則注解は1954年7月に設定・公表され,企業会計原則とともに修正され現在に至っている.[大野智弘]

■企業家教育ききようかき 
1990年代に入って,企業の開業率の低下や円高による産業の空洞化に伴う産業構造の変化を背景に,次世代の企業家創出が急務の課題となり,政府や自治体による創業支援策が次つぎと打ち出された.当初は創業時の課題である資金調達難,設備不足などへの支援が中心におかれたが,その後,肝心の創業の担い手が日本では育ちにくい環境であることが根本的な問題であると認識されている.企業家先進国アメリカでは,初等教育の段階からロールプレイングで店を経営したり,投資を募って事業経営のシミュレーションを行うなどの企業家教育プログラムを取り入れる学校が多く,大学では,実践的な内容を取り入れた企業家養成コースを有するビジネススクールがすでに1970年代から急増している.現在,日本でも企業家養成セミナーがあちこちで開催されるようになったが,短期的に身につける教育だけではなく,企業家的資質が形成される社会・風土を形成していくことが必要であろう.[川名和美]

■企業家精神(entrepreneurship) 
「アントレプレナーシップ」は「企業家精神」と訳されることが多いが,厳密にいえば精神を含む幅広い概念であり,ベンチャービジネスの名付け親である清成忠男によれば,これを「企業家活動」とよんでいる.そもそもはフランスの経済学者セイ(J. B. Say)が「企業家とは資源を生産性の高いところへ移し,より多くの収益をあげる者のことである」と定義し「企業家」の存在が初めて説かれたことによるが,彼はその「企業家」が誰であるかは明らかにはしていない.その後の経済理論に企業家や企業家活動が組み入れられることはしばらくなかったが,シュンペーター(J. A. Schumpeter)が,「企業家によるイノベーションがもたらす動的な不均衡こそ,経済の健全さの規範であり,経済理論と経済活動の中心に位置づけられるべき経済的現実である」とし,企業家によるイノベーション活動が経済発展に不可欠であると説いてセイを再発見した.さらに,ドラッカー(P. F. Drucker)は,低迷経済期にあった1970年代以降のアメリカにおいて企業家の活動と持続的イノベーションによって新しい活動が蘇りつつあることを示し,企業家精神は経済的領域に限定されるものではなく,経済資源を使うあらゆる人間活動,社会活動に適用されるべきものであると説明した.これらの議論を踏まえて,清成は,企業家活動を「企業家によってリードされる経済活動」であり,「人間行動そのもの」と定義している.
 戦後高度成長期の中小企業大量開業時代には,日本で「企業家活動」を研究する必要性も乏しかったが,ベンチャー企業の創出が課題となった近年では,その担い手である企業家の資質や能力に関しての分析・研究が盛んになってきている.[川名和美]

■企業形態(form of business enterprise(日), type of company(米)) 
民法や商法などの法律に規定された形態から捉える法律形態と,出資者の構成や出資と経営の態様から捉える経済形態の2通りの捉え方がある.法律形態には個人企業,合名会社,合資会社,有限会社,株式会社および保険事業を営むために認められた相互会社,協同組合などがある.
 経済形態はまず,出資者が民間人であるか国家もしくは地方自治体であるかによって私企業と公企業,そして両方からの出資によって設立される公私合同企業の3つに分類することができる.現代企業のほとんどを占める私企業はさらに出資者が単独であるか複数であるかにより,個人企業と共同企業に分けることができる.共同企業は出資者が人的つながりをもつ人びとに限定され,したがって出資者数がきわめて限定されている封鎖的共同企業と,出資者が人的なつながりをもつことを必要としない公開的共同企業に分けることができる.人的結合関係の観点から,前者は人的会社,後者は物的会社ともよばれる.
 共同企業は,出資者の企業管理への関与の側面からさらに細かく分類される.すなわち,封鎖的共同企業は出資者のすべてが管理を担当する人的集団企業(法律形態の合名会社に相当する)と,出資者の一部が管理を担当し,他の出資者はこれを担当しない混合的集団企業(法律形態における合資会社に相当)に分けることができる.また公開的共同企業は,企業管理者が出資者である必要がないのが普通であり,いわゆる所有(出資,資本)と経営の分離した企業で,資本的集団企業(法律形態における株式会社に相当)とよばれている.→株式会社,協同組合,所有と経営の分離,相互会社,有限会社[佐久間信夫]

■企業結合会計(accounting for business combinations)ききようけつ 
企業結合とは,ある企業(会社および会社に準ずる事業体)またはある企業を構成する事業と他の企業または他の企業を構成する事業とがひとつの報告単位に統合されることをいう.近年,法制度の整備を背景に企業の組織再編が活発に行われ始めたが,従来わが国には「連結財務諸表原則」を除けば企業結合に関する包括的な会計処理の基準が明確ではなかった.そのため,商法の規定の範囲内で幅広い会計処理が容認されてきた.
 企業会計審議会は,2003年10月に「企業結合に係る会計基準の設定に関する意見書」を公表し,企業結合に係る会計基準を新設した.その対象となる取引は,合併,株式交換等の企業結合の法的形式を問わず包括的なものであり,経済的に独立した企業同士の結合の他に,共同支配企業の形成および共通支配下の取引が含まれる.
 企業結合には,「取得」(acquisition)と「持分の結合」(uniting of interest)という異なる経済的実態を有するものが存在する.「持分の結合」と判定されるためには,@企業結合にさいして支払われた対価のすべてが,原則として議決権のある株式であること,(2)結合後企業に対して各結合当事企業の株主が総体として有することになった議決権比率が等しいこと(すなわち当該比率が50対50の上下概ね5%以内であること),(3)議決権比率以外の支配関係を示す一定の事実が存在しないこと,の3要件のすべてを満たす必要がある.すなわち,「取得」と「持分の結合」の識別において「持分の継続」という概念を基礎とするものであり,「持分の継続」は「対価の種類」と「支配」という2つの観点から判断されることになる.「持分の結合」以外の取引は,結合企業のいずれかが結合後企業を支配する「取得」と判定される.
 企業結合の会計処理法として,パーチェス法と持分プーリング法がある.「取得」と判定された企業結合にはパーチェス法が適用され,「持分の結合」と判定された企業結合には持分プーリング法が適用される.すなわち,パーチェス法では被取得企業から引き継いだ資産・負債は,当該資産・負債の買収により取得したとみなされ,公正価値(fair value)で再評価される.この場合,買収原価と被取得企業の純資産の公正価値との差額はのれんとして処理される.のれんは20年以内に規則的に償却する.
 他方,持分プーリング法は企業結合当事者の「持分の継続」を前提とするため,企業結合後の貸借対照表は企業結合当事者の貸借対照表を結合するだけでよい.したがって,資産・負債は結合前企業の貸借対照表に計上されていた帳簿価額のまま引き継がれるので,公正価値に基づく再評価は求められず,のれんも生じない.
 これに対して,アメリカ基準(SFAS)や国際財務報告基準(IFRS)案は,持分プーリング法の濫用を防ぐ等の観点から,すべての企業結合をパーチェス法で会計処理し,またのれんの規則的償却を禁止し,減損処理のみとしたことに特徴がある.わが国の企業結合に係る会計基準は,共通支配下の取引を適用対象の取引とすること,持分プーリング法の適用を認めていること,のれんを償却することにおいてSFASやIFRS案と相違している.[古庄 修]

■企業行動憲章(Charter of Corporate Behavior)ききようこう 
経団連(現日本経済団体連合会)が1991年に提唱した経営倫理規程である.その後,経営倫理の重要性が本格的に意識されるようになって,いく度か改定を行っている.2002年10月には,企業不祥事防止への取り組み強化が強調され,経営トップが果たすべき役割と責任を明確化した.さらに,2004年5月の改定では,社会的な公正さや環境経営など企業の社会的責任(CSR)を重視した内容となった.また,具体的実行のための「企業行動憲章実行の手引き」があわせて用意されている.個別企業レベルにおいては,それに呼応する形で企業行動基準や経営倫理規定の策定が重視されるようになり,法令順守とともに倫理行動への啓蒙が急速に現代企業の責務となった.→企業倫理の制度化,倫理綱領,倫理ヘルプライン[田中信弘]

■企業支配構造改革(韓国) 
韓国は1997年に経済危機に陥り,IMFに支援を要請した.以後,IMF管理下のもと強制的に経済改革が進められた.その改革のひとつが企業支配構造の改革であった.とくに,これまで韓国経済を支えてきた財閥(チェボル)は経済危機の主犯とみなされ,その支配構造が改革の対象となった.
 伝統的な韓国の財閥企業の支配構造は,アングロサクソン系企業のように株主主権による支配でもなく,ドイツ企業や日本企業のような銀行による支配でもなく,財閥一族による閉鎖的な所有経営者支配であった.韓国財閥企業は,所有と経営が十分に分離しておらず,オーナー一族による強固な支配のもとにあった.こうした韓国固有の企業支配構造を変革するために,IMF指導のもとアメリカ流の企業統治システム,とくに株主による企業統治システムの導入が進められた.
 たとえば,アメリカ流の市場による企業統治システムを導入するために,外国人による株式投資制限が撤廃され,外国人によって自由に韓国企業の株式が購入できるようになった.これによって,外部支配構造が変革され,株主による外部からの統治が可能になった.また,株主によるモニタリングを容易にするために,財閥企業に対して従来の連結財務諸表とは異なる複雑な作成基準に基づく結合財務諸表の作成が義務づけられた.
 さらに,アメリカ流の組織的な企業統治システムを導入するために,内部支配構造も変革された.たとえば,上場企業の理事会(取締役会)の4分の1以上を社外理事(外部取締役)にすること,また委員長および3分の2以上を社外理事とする監査委員会の設置が義務づけられた.
 以上のように,経済危機以後,アメリカ流の企業統治システムが導入され,韓国の企業支配構造改革が進められたが,実際には未だ旧来の所有経営者支配が強いといわれている.[菊●研宗]
 
■企業者史(entrepreneurial history) 
それまで経済学において捨象されてきた経営者,なかでも新商品や新たな製造方法の開発等,いわゆる「革新“innovation”」に意欲的に取り組む経営者(「企業者“entrepreneur”」)を,経済発展の担い手として重視するシュンペーター(J. A. Schumpeter)の主張に触発されて,戦後新たに生まれた経営史である.1948年,ハーバード大学文理大学院に設置された「企業者史研究センター」を母体に,経済学者・社会学者・経営学者等による学際的な研究が推進され,その基礎が形作られた.中心メンバーであったコール(A. H. Cole)によって1959年に出版されたBusiness Enterprise in Social Settingは,同センターの10年間の成果をまとめたものであり,中川敬一郎によって『経営と社会―企業者史学序説―』(ダイヤモンド社,1965年)として翻訳され,わが国の経営史研究の活発化にも大きな影響を与えた.
 企業者史は,経営者の歴史的な役割と機能に関心をもち,経営者の意思決定と彼をとりまく社会的・文化的環境に重点をおいて分析していくところにその特徴がある.→経営史,比較経営史[那須野公人]
 
■企業集団(business groups)ききようしゆ 
日本には三井,三菱,住友,芙蓉,一勧,三和の6つの企業集団が存在し,6大企業集団とよばれてきた.三井,三菱,住友の3集団は,第2次世界大戦前の財閥が戦後の財閥解体によって解体された後再結合したものであり,芙蓉,一勧,三和の3集団は戦前の弱小財閥やその他の企業が銀行を中心として結合したものである.
 6大企業集団はそれぞれの集団ごとに主要企業で構成される社長会をもっている.社長会はこれらの主要企業の社長あるいは会長が出席し,ほぼ毎月1回開催される.三井グループの社長会の名称は二木会であり,主要企業25社(99年現在,以下同様)から構成されている.同様に三菱グループの金曜会(28社),住友グループの白水会(20社),芙蓉グループの芙蓉会(28社),三和グループの三水会(43社),一勧グループの三金会(48社)が設けられており,各グループの有力企業である社長会参加企業はとくに「社長会メンバー企業」ともよばれる.
 各グループ内の企業結合関係には,グループによって強弱に違いがあるが,一般に旧財閥系3集団は他の3集団に比べて結びつきが強く,その結合関係のもっとも重要な紐帯は株式相互持合である.結合関係の強い企業集団においては,ほぼマトリックス状の株式所有関係が形成されている.各企業集団所属企業は役員相互派遣,系列融資,集団内取引,新規事業への集団としての進出,共通の商標等の管理などを通しても結合関係を保っている.
 1990年代後半からの企業集団の境界を超えた金融再編や株式相互持合解消の動きは,これまでの企業集団のあり方に大きな変革を迫るものである.三井グループの中核企業であるさくら銀行と住友グループの中核企業である住友銀行が合併し,三井住友銀行が発足したことや第一勧業銀行(一勧グループ)と富士銀行(芙蓉グループ),日本興業銀行が合併してみずほ銀行が発足したことなどによって,従来の6大企業集団の編成は大きく崩れはじめている.
 大企業がその傘化に多くの子会社や関連会社をもつ場合,この一群の会社を企業集団とよぶこともある.また,大企業の下に第1次下請,第2次下請のような関係によって形成される会社群を企業集団とよぶこともある.前者は「企業グループ」,後者は系列とよばれることが多い.→株式相互持合,系列関係,系列融資,財閥,財閥解体[佐久間信夫]

■企業集団財務ききようしゆ 
企業集団において都市銀行などの金融機関および総合商社や代表的メーカーなど主要企業が連携して展開する財務活動をいう.都市銀行を中心として同系金融機関が行う融資活動と複数の主要企業が株式を持ち合って行う増資活動の2つが中心をなす.融資活動では,ひとつの銀行(メインバンク)が集中的に行う系列融資とそれに歩調を合わせる協調融資から成り立っている.こうした連携のもとに行われる融資活動は銀行にとって効率的な資金運用となり,借り手の企業にとっては大量の資金調達が可能となる.また主要企業の株式持合いの下で行われる増資は,株式市場での需給を操作し管理株価を演出することによって,低コストの株式資金調達を現実化する.銀行からの大量資金供給と株式市場での低コスト長期資金の供給は,企業の急激な成長を財務面から補償するものとなった.[坂本恒夫]

■「企業と社会」論(business and society)ききようとし 
1970年前後から,環境問題,消費者問題,市民反戦運動などを契機として,企業・経営者の社会的責任が論じられるようになり,企業と社会の関係について多くの議論が行われるようになった.1963年刊行のマクガイヤ(J. McGuire)の著作『企業と社会』に始まるとされる「企業と社会」論は,これまでアメリカを中心とした論者によって展開をみてきたが,具体的には,企業の社会的責任に関する研究,企業の社会的即応性に関する研究,企業倫理ないし経営倫理に関する研究といった3種の論議を包摂するものであった.そして,その場合の方法論的基礎は,企業とステークホルダーとの関係性のうちに現代企業とその経営行動を理解しようとするステークホルダー・アプローチによるものである.ステークホルダー・アプローチによれば,企業は多様なステークホルダーを配慮し,全体の利害を調整することが必要である.したがって,企業とステークホルダーとの間には,相互依存的信頼関係が存在しなければならず,その形成と維持こそが企業の社会的責任にほかならないとされる.また,今日,企業の社会的責任に関する議論とともに,企業の経済的適応責任のための議論が「企業と社会」論においても一層展開されることが重要であるとされる.→企業の社会的責任,企業の社会的即応性,企業倫理,ステークホルダー・マネジメント[田中信弘]

■企業内国際分業 
多国籍企業は,各国の比較優位を構成している経営資源を活用して,企業内で国際分業を展開し,国際競争力を獲得している.企業内国際分業には,水平分業と垂直分業の2種類がある.「企業内水平国際分業」とは,本社のある国内と,子会社のある外国で,同時期に同様の生産工程を稼動させることである.その結果,企業は国内と国外で同一の製品を生産することもあれば,付加価値の異なる製品を生産することもある.現地で生産された製品は,現地の市場で販売されたり,第三国へ輸出されたり,本国に逆輸入される.水平分業をすることによって,本社の生産技術や経営管理方式,さらにはブランドなどの経営資源が国外に移転され,多国籍企業は現地のライバル企業に対して競争優位をもつことになる.
 「企業内垂直国際分業」とは,国内と国外で異なる生産工程を操業することによって,ある製品の生産工程を他国との間で分業しあい,製造された部品を生産拠点間で供給,補完し合って完成品にする分業形態をいう.多国籍企業が,原材料や部品を供給する国外の企業を子会社として内部化する要因のひとつには,天然資源の獲得の不確実性や生産設備などの資産特殊性が高い場合,市場の取引では,相手企業が交渉力を強める可能性があるからである.→海外生産,グローバル・ロジスティックス,内部化理論[黒川文子]

■企業年金会計(corporate pension accounting)→退職給付会計企業の社会的業績(corporate social performance) 
企業の社会的業績は,収益性に関係するような企業の経済的業績ではなく,企業が社会的責任を果たしたことによる成果を示すものである.企業の社会的業績を評価するに当たっては,個々の企業が独自に行うものもあれば,CEP(経済優先順位研究所)による『より良い世界のためのショッピング』のように,企業以外の組織が行うものもある.CEPは,「環境問題への取り組み」「寄付行為」「地域社会への貢献」「女性の登用」「マイノリティの登用」「情報公開」などを評価項目としている.
 日本においては,CEPの協力をうける形で,朝日新聞文化財団「企業の社会貢献度調査」委員会が1990年より毎年,企業の社会貢献度を調査し公表している.そこで評価されている項目は,「社員にやさしい」「女性が働きやすい」「障害者雇用」「社会支援」「環境保護」などである.これらの項目が具体的な企業の社会的業績を構成することになる.→環境経営,フィランソロピー,メセナ活動[出見世信之]

■企業の社会的責任(corporate social responsibility)ききようのし 
企業を取り巻く株主,債権者,従業員,消費者,顧客,地域社会などのステークホルダーに対して企業が負っている責任のこと.かつてはフリードマン(M. Friedman)のいうように利潤追求こそが企業の唯一の負うべき責任であり,企業の社会的責任を否定する見解もあった.しかしながら,企業規模が大きくなり,企業の影響力が増大するとともに,企業が負うべき公共性も増大し,現在ではこのような見解は支持されない.企業は経済的利益を追求するだけではなく,社会的責任を果たさなければならないという見解は一般的となっている.
 現在では,むしろその負うべき責任の範囲についての論争が行われている.その範囲はおよそ3つのカテゴリーに分けて理解することができる.まず第1は,法的規制や道徳的規範の遵守であり,これは責任というよりも義務ともいうべきものである.第2は,社会的要請・期待に応えることである.社会的責任(Social Responsibility)の語源から,かつてはこの範囲が社会的責任と認識されていた.株主に対してキャピタル・ゲインや高配当で応えたり,従業員には雇用の安定や働きがいのある職場を提供したり,消費者および顧客には高品質・低価格・安全な商品を提供することなどを通じて,達成される.第3は,企業が社会からの要求や圧力に受動的に対応するのではなく,自主的・主体的に取り組むもので,メセナやフィランソロピーを含む,社会貢献活動をあげることができる.これらの活動は企業自体が行う場合もあれば,従業員が積極的に取り組む場合もある.アメリカでは企業も人間と同じように社会を構成する市民であるという企業市民の考えが定着しており,企業の行う社会貢献の拠り所となっている.→コンプライアンス,フィランソロピー,メセナ活動,利害関係者[牧野勝都]

■企業の社会的即応性(corporate social responsiveness)ききようのし 
1960年代においてアッカーマン&バウアー(R. W. Ackerman & R. A. Bauer)によりそれまでの企業の社会的責任を批判する形で提起された概念であるが,日本においては,その概念はほとんど紹介されず,紹介されても企業の社会的責任と同じもののように捉えられていた.しかしながら,企業の社会的即応性は,企業が多様な社会的利害関係者集団からなされる要求に対応することであり,企業がそうした利害関係者集団に敏感に反応することを意味している.現代の企業は,環境の変化にすばやく対応することが企業に求められているため,企業の社会的即応性の重要性は高まっている.
 従来の企業の社会的責任が事後的な対応や結果に対する責任を意味していたのに対して,企業の社会的即応性は,利害関係者を主体とする環境の変化に対し,反応的であるよりは,予測的で事前的に対応することを強調するものである.環境の変化に対応していく点において,企業の社会的即応性は戦略経営と関連して論じられることもある.また,企業の社会的即応性を遂行するためには,企業は倫理的課題事項管理や環境精査,社会監査,企業行動基準などを利用することを求められることになる.→企業の社会的責任,利害関係者,倫理的課題事項[出見世信之]

■企業文化(corporate culture)ききようふん 
企業がもつ固有の文化を示し,通常,企業独特の価値と規範と理解される.この意味では企業にはそれぞれ固有の文化があるといえる.1980年代に,ピータース(T. Peters)とウォーターマン(R. Waterman)は,優良な企業を分析した結果,企業の業績と企業文化が密接に関連していることを指摘した.その後,企業文化に関する研究が盛んになった.梅●正によれば,企業文化は企業価値の実現をめざして形成されたその会社に固有の思考と行為の様式であるとされる.そして,企業文化の構成項目としては,観念文化(企業哲学,経営理念,社訓,要項),制度文化(伝統,慣習,儀式,タブー,規則),行動文化(社風,風土,雰囲気,昇進,研修,宣伝),視聴覚文化(ロゴ,社旗,社歌,制服)などがあり,これらが組み合わされて企業文化はできあがる.
 企業文化の形成と確立には企業哲学や経営理念の体現が前提である.企業独自の経営理念を確立することにより,企業組織としての個性を明確にし,社員が共通の感情や存在感をもつことができる.
 現在の企業文化には,社員の自己実現のためのシステムづくり,顧客満足を充足させる営業活動,地域社会に貢献する企業活動などが含まれていることが必要である.このような研究は企業の文化にとどまらず,一般の組織における文化を対象とした組織文化論としても展開されている.→企業の社会的責任,経営文化論,組織学習,ハイコンテクスト文化[松永美弘]

■企業別組合 
企業や事業所を単位に組織された労働組合の組織形態.「日本的経営」を特徴づける基礎的な概念でもある.労働組合の基本形態には,同一の職種で働く熟練労働者で組織された職業別組合や,同一の産業で働く労働者を組織した産業別組合,さらに,産業や職種に関係なく不熟練労働者を中心に組織された一般組合があるが,わが国では,企業別組合が支配的な形態となっている.
 わが国では,第2次世界大戦後,工場や職場を基礎に組合が結成されたために,現在でも企業別に組織された組合とともに事業別の組織が存在する.企業別組合の組織面での特徴は,@組合員資格が正規従業員に限定され,そのために,(2)ホワイトカラーとブルーカラーが同じ組合に組織されていることにあるが,組合員資格が正規従業員に限定されるために,(3)非正規従業員は組合に加入できないことになる.このような企業別組合は,職場に密着した活動を展開しやすいとはいえ,組合員と会社の利害が一致しやすいために,企業主義的な行動をとりやすいという面がある.このような企業別組合は,労務管理機能と連動することで,経済成長のスプリング・ボードとなってきたのであり,その意味で「日本的経営」の基本的な構成要素と捉えられるのである.→日本的経営[平●克彦]

■企業倫理(business ethics) 
多様に理解されているが,最広義には中村瑞穂が定義しているように,企業内における人間行動,ならびに社会における企業行動に関し,厳格な倫理的基準に基づく諸要件の充足をもとめ,その達成にとって有効なあらゆる具体的措置を積極的に推進しようとする社会的動向である.もう少し狭く捉えると,エプスタイン(E. M. Epstein) が定義したように,企業倫理は企業に一般的な倫理原則や倫理的分析を行う倫理学の特定の応用分野であり,一般に認められた社会的価値観に基づき,企業活動の通常の進行過程における企業主体(個人および組織体)の制度・政策・行動の道徳的意義に関して行われる体系的内省である.さらに,企業あるいは組織内に限定した形では,高巌が定義しているように,「公正かつ適切な経営を行うための企業内活動」とすることができる.
 アメリカにおいては,1970年代に数多く発覚した企業による不法行為をうけて,応用倫理学や経営学,とくに経営社会関係論の研究者たちによって展開されるようになった.今日では,ビジネス・スクールの多くで必修科目として教えられ,企業実践の場においては,企業倫理の制度化が行われ,企業それ自体による取組みがみられるようになっている.また,1991年に出された連邦量刑ガイドラインは,企業に企業倫理の制度化を促すものになっている.日本においても,1990年代初頭の企業不祥事をうけ,研究者,実務家の関心が高まり,ECS2000,倫理法令遵守マネジメント・システム規格(Ethics Compliance Standard 2000)も公表されている.→企業倫理の制度化,連邦量刑ガイドライン[出見世信之]

■企業倫理の制度化ききようりんし 
企業倫理の実践を確実なものにし,企業倫理の実現を客観的に保証し,組織的に遂行することを意味する.それは,企業倫理担当常設機関の設置,倫理綱領または行動憲章の制定・遵守,倫理教育・訓練体系の設定・実施,倫理関係相談への即時対応,内部告発の事前吸収と問題解決の保証などを意味している.
 企業倫理担当常設機関は,コンプライアンス部門や法務部門などの名称で置かれることも少なくないが,企業倫理に関する調査や企業倫理に関する各種計画や倫理綱領の立案,倫理綱領の遵守状況の点検や評価などを担うものである.倫理綱領は,企業活動の基礎となる価値を具体的に示し行動や判断の指針となるものであり,それを企業実践の場においても適用できるように,倫理教育が行われることになる.倫理相談は,倫理オフィスのような倫理問題を専門に担当する組織が中心となって行われる.また,それは,倫理オフィスとの直通電話である倫理ヘルプラインのように,相談者の利益を保障する形で行われ,倫理綱領や法律に反する行動を未然に防ぐ役割も果たす.また,実際に企業の内部で違法行為が行われている場合には,企業内部でその問題の解決への努力が十分でないとみなされれば,内部告発が行われることになる.内部告発は,従業員のモラールや企業への忠誠心が低下しているときに,行われやすくなるので,外部へ告発される前に事前に問題を解決し,告発者の利益を保護する仕組みを作ることが企業にとっても有用になる.→コンプライアンス,倫理オフィス,倫理綱領,倫理ヘルプライン[出見世信之]

■技術移転(technology transfer)きしゆついて 
研究開発の成果としての技術やノウハウは,企業成長の重要な原動力であり,経済的価値をもつ.このため技術水準を向上させ,あるいは価値ある技術を有効利用することで,収益を上げていくことになるが,そのために技術のフローを意味する技術移転の役割が大きくなっている.
 特許,実用新案,ノウハウなどを譲渡ないし一定期間の使用を許諾する技術移転が技術供与である.技術供与者であるライセンサーには,ロイヤルティの収入をはじめ,ライセンス生産などによる相手先市場への参入,技術標準化のイニシアチブを確保するなどのメリットがある.ただし技術供与には,ライセンス先以外への技術成果の漏洩をはじめ,ライセンス先の技術開発力の向上に伴うブーメラン効果などの問題が生じる.
 それとは異なり,ライセンサーから一定の制約条件の下で,特許やノウハウなどを取得し,自社の開発活動やライセンス生産へ活用していくのが技術導入である.技術導入者であるライセンシーには,すでに開発された成果を活用することから,低い開発リスクでしかも短時間で独自の応用や開発へ結びつけ,かつ技術摩擦や特許係争を回避して技術を開発活動や事業化へ活用していける点にメリットがある.ただし技術導入には,ロイヤルティの支払いをはじめ,ライセンスに付随して生じる販売や生産地域の制約,ライセンシーの方で開発した応用技術をライセンサーが無償で取得できるグラント・バック条項など,開発成果に対する自社の排他的なコントロールが小さく,そのため事業化のリターンも小さいものとなる.また,導入技術を吸収し,消化しうる自社内開発力の充実問題の他,近年のテクノナショナリズムに代表されるような導入先の政策によって自社の開発活動が大きく制約されるなどの問題があげられる.→ライセンシング,ロイヤルティ[中原秀登]

■技術提携(technology alliance)きしゆつてい 
特定の技術を提供するか,あるいは受け入れる技術契約を結ぶことによって協力関係をもつことを技術提携という.限られた開発資源の中で技術開発力を効率的に高めていくうえで,外部の技術力を戦略的に活用していく技術提携は,企業の技術開発戦略にとって重要な意義をもってくる.技術提携の対象としては,単に特許技術だけでなく,商標の使用,製造方法の導入,原料や部品の供給,技術サービス,マーケティング技術や経営への参加・助言・協力などが含まれる.
 現在の技術提携においては,技術開発を優位に実現しようという戦略的意図をもった企業が,その特定目的を実現していくためにそれぞれが独立性を保持しながら,技術開発において双務的かつ互恵的な協力関係をとっていくことに合意して形成された企業間の関係づけの意味が強くなっている.その意味で,技術提携を行う企業間関係は,パートナー間での支配・服従という一方的な関係よりも,むしろロイヤルティの獲得,技術開発力の強化や技術のグループ化など特定目的の実現に向けて確かにパートナー間での協力関係がみられるが,企業の独立性が保持されていることから,提携関係以外の分野で競合関係がみられることもあり,きわめて弾力的な協力関係を特徴とする.→アウトソーシング,戦略的提携,ロイヤルティ[中原秀登]

■技術標準化(standardization of technology) 
技術の進歩がいちじるしく,コストや品質以外に汎用性が決定的な競争要因となる技術分野では,汎用性を規定するような技術標準化が重要な役割を果たすこととなる.したがって技術利用の汎用性を高め,開発成果のスケールメリットを享受していく技術の標準化を他社よりも迅速に推し進めていくことが,市場シェアを拡大し,企業競争力を高めていくうえで重要な課題となる.
 技術の標準化は,事実上の標準であるデファクト・スタンダード(defacto standard)と,JISC(日本標準調査会)やISO(国際標準化機構)といった公的な機関がとりまとめる標準としてのデジュール・スタンダード(dejure standard)に分けられる.デファクト・スタンダードは,企業が単独ないし共同で開発した技術や製品が市場に受け入れられ,市場で事実上標準となっているものをいい,パソコンOSのWINDOWSやビデオのVHSなどの例があげられる.他方でデジュール・スタンダードは,公的機関が定めるものでLANの通信プロトコルなど全体の合意の下で決定されるものである.
 技術標準化は,主要な特許を抑えるか,逆に技術を積極的に外部へ公開ないし供与し,技術をグループ化,あるいは他社ブランドで販売するOEM供給や共同開発などの国際提携を通して行われる.→グローバル・スタンダード,標準化[中原秀登]

■規制緩和(deregulation) 
政府などの公的規制を緩和すること.それは市場メカニズムへの依存増大につながる.利潤獲得を最優先する大企業の活動に規制を課さない場合,経済的弱者は厳しい立場におかれる.中小零細業者は倒産の危機に追い込まれ,一般消費者は商品やサービスを高価格で購入させられかねない.経済競争が過熱すれば,倒産増大と失業者の続出が懸念される.そうした社会的混乱を回避する有効な手段として公的規制は必要なものである.ことに通信・電気・ガス・水道・鉄道などの事業分野では,サービスの公共性を確保するために公的規制は不可欠なものとされた.また,国家安全保障上の配慮や,国家政策としての特定産業の保護育成にあたって公的規制が課される.
 ところが,1980年代になると規制緩和の世界的潮流が出現する.わが国では,1981年発足の第2次臨時行政調査会(第2臨調)によって規制緩和の流れが定着したが,その後は緩和が一層進められて今日に至っている.規制緩和の概念については,1993年に発表された経済改革研究会の通称「平岩レポート」が話題をよんだ.このレポートでは,公的規制は経済的規制と社会的規制に大別される.経済的規制は,自由競争に委ねれば重大な弊害が生じかねない公益事業などに適用される新規参入規制や価格規制などである.社会的規制は,競争によって改善されることがない公害防止規制や安全規格などである.1990年代の前半までは経済的規制の緩和が進められたが,その後は社会的規制も緩和すべしとの見解が台頭している.
 規制緩和の実施には,その影響の事前評価と事後の諸問題への対応体制が不可欠だが,わが国では不十分な場合が目立つ.また,公共性が過度に軽視されないよう配慮が必要である.なお,高い市場シェアをもつ企業には特別な規制を課すという非対称規制を伴って規制緩和が実施されることもある.→民営化[井上照幸]

■期待理論(expectancy theory)きたいりろん 
動機づけ理論(motivation theory)には,内容理論(content theory)とプロセス理論(process theory)があり,期待理論(expectancy theory)は,後者の理論に分類される.内容理論が欲求の種類と人間行動へのエネルギー付与の問題を扱うのに対して,プロセス理論は欲求によって付与されたエネルギーの強さ,持続性,そして方向性に関する研究である.ヴル−ム(V.H. Vroom)により展開された期待理論は,動機付けにおける認知理論であり,人間を動機付ける力は,基本的には期待(expectancy),誘意性(valence)の積であらわされる.期待とは,特定の行為が特定の結果となるという主観確率であり,誘意性とは特定の結果に対する主観的魅力もしくは好みである.期待理論の動機付けの強さは積の関数であるから,期待と誘意性が高ければ高いほど強くなるが,どちらか一方がゼロであるならば,動機付けはおこらないことになる.また,ヴルームの期待理論では目標と結果に関する道具性(instrumentality)という概念が考えられており,最終的には人間のモチベーションは,期待,誘意性,そして道具性によって決まることになる.このヴルームの期待モデルは,ポーター&ローラー(L.W. Porter & E. E. Lawler)によってより具体的に展開され,ローラーによる精緻化されたモデルへと発展している.[高橋正泰]

■機能主義/解釈主義(functionalism/interpretism)きのうしゆき 
機能主義は20世紀の社会科学を代表するパラダイムであり,社会事象に関する合理的な説明を提示しようとする.機能主義とは,各要素および各部分は相互作用しており,機能的に関連していると捉える考え方で,経営学,とりわけ経営組織論ではシステムズ・アプローチにみることができる.バーレル&モーガン(G. Burrell & G. Morgan)によると,機能主義もしくは機能主義者の特徴は物事を客観的,法則定立的,かつ実証的に理解しようとするところにある.代表的な研究者として,社会学者のデュルケーム(E●. Durkheim),マートン(R. K. Merton),パーソンズ(T. Parsons),文化人類学者のマリノフスキー(B. Malinowski),ラドクリフ-ブラウン(A. Radcliff-Brown)が有名である.
 解釈主義(interpretism)は機能主義とは対照的に主観主義の立場をとっている.解釈主義はドイツ観念論の社会的思想の産物であり,世界をあるがままにそして主観的経験レベルで理解し,個人的意識や主観性の領域における説明を探求している.したがって,解釈主義の特徴を,主意主義,反実証主義,個別記述主義としてみることができる.代表的な研究として,デルタイ(W. Dilthey),フッサール(E.Fusserl),シュッツ(A. Schutz),ハイデッガー(G. Heidegger),ガダマー(H. G. Gadamer),そしてガーフィンケル(H. Garfinkel)らの解釈学,解釈社会学,現象学,そしてエスノメソドロジーをあげることができる.経営学では,組織文化論,組織シンボリズムにその解釈主義的研究がみられる.→システムズ・アプローチ,組織シンボリズム[高橋正泰]

■規模の経済(economies of scale)きほのけいさ 
事業規模を拡大することによって平均コストが下がり,一層の利益増大が見込めること.電気・ガス・水道・電気通信のような事業分野では,巨額な設備投資が不可欠なので「規模の経済」が有効に機能するとされてきた.また,大量生産体制を組める大規模企業の方が1単位当たりの生産コストを低減できるので,「規模の経済」を享受すると思われてきた.これによって,ある事業領域での一社独占体制,地域独占,大企業による寡占体制が形成促進される面がある.他方において,技術革新や消費ニーズの多様化などに的確に対応できずに「規模の経済」への依存を強めれば,企業存続さえ危うい時代を迎えている.→範囲の経済[井上照幸]

■基本給(basic salary) 
労働の対価として支払われる賃金のうち主要な支払い項目となるものであり,本人給と仕事給から構成される.本人給は,属人的な要素(学歴,年齢,勤続年数,経験,など)によって決定され,仕事給は,職務給や職能給からなる.日本の賃金体系は通常,この基本給と諸手当からなっている.諸手当には,家族手当,住宅手当,役職手当,などがある.この他に,賞与として,年2回ないし3回支払われてきた.賃金は労働の価値を図る尺度であるが,1990年前後から雇用の流動化や業績主義,成果主義,個別管理などが浸透する中で,労働の成果に直結した成果主義賃金へと移行してきている.これに伴い,従来の長期的処遇による能力開発志向から短期的な実績志向へと経営様式も変化してきている.→職能給[小阪隆秀]

■逆ざや(backwardation/negative speed/back spread) 
実際の運用利回りが予定利率(契約者に約束した保証利回り)を下回ること.生命保険会社破綻の最大の原因となっている.
 そもそも,生命保険会社が逆ざや状態に陥ったのは,バブル期に郵便局の簡易保険に対抗して,生命保険各社が年5%以上といった高い予定利率を設定した個人年金や一時払い養老保険を大量に販売したためである.しかしながら,バブル崩壊後の株価下落や銀行救済のための超低金利政策によって,資産内容が悪化し,ソルベンシー・マージン比率も低下した.そして最悪の結果として,戦後はじめて生命保険会社が破綻する事態となった.
 現在でもなお,バブル期に大量に抱え込んだ高利回り商品が,1990年代の半ばから生命保険会社の経営を圧迫している.今回の利回りでは,とうてい5%の予定利率をカバーしきれない.そこで,新契約については個人年金などの高利回り商品の販売が縮小され,予定利率の引き下げが行われている.また,既契約については,2003年8月の保険業法の改正により,保険会社が破綻状態でなくても予定利率を変更(引き下げ限度は3%)することが認められた.
 その他,各生命保険会社は逆ざや状態を解消するために,事業費の削減,販売商品の見直し,内部留保の積み立て強化など,経営を立て直す必要に迫られている.→ソルベンシー・マージン比率[恩蔵三穂]

■キャッシュ・フロー計算書(cash-flow statements)きやしつゆふ 
1会計期間における資金収支(キャッシュ・フロー)の状況を一定の活動区分別に表示する計算書である.連結キャッシュ・フロー計算書,個別ベースでのキャッシュ・フロー計算書,中間連結キャッシュ・フロー計算書および個別ベースでの中間キャッシュ・フロー計算書がある.
 わが国では「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」の提言に基づいて,1998年3月に「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準の設定に関する意見書」および「中間連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準の設定に関する意見書」が公表され,連結財務諸表(中間連結財務諸表を含む)のひとつとして連結キャッシュ・フロー計算書が導入された.他方,連結財務諸表を作成しない会社については,従来の資金収支表に代えて個別ベースのキャッシュ・フロー計算書を作成することになる.
 キャッシュ・フロー計算書の対象となる資金の範囲は,現金および現金同等物(容易に換金可能で価値の変動についてわずかなリスクしか負わない短期投資)に限定される.したがって,キャッシュ・フローとは現金および現金同等物の増減を意味する.反対に,現金および現金同等物の増減を伴わない取引については,キャッシュ・フロー計算書には反映されない.
 キャッシュ・フロー計算書では,1会計期間のキャッシュ・フローを「営業活動によるキャッシュ・フロー」,「投資活動によるキャッシュ・フロー」および「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3つの活動区分に別けて表示する.どの区分に表示するかは,企業の事業目的や取引慣行を考慮して,キャッシュ・フローにかかわる取引がどの活動と強く関連しているかにより判定する.→連結財務諸表[大野智弘]

■キャッシュ・フロー・マネジメント(cash-flow management) 
キャッシュ・フロー・マネジメントというときには,まず事業活動の過去・現在・未来の成果として測定されるキャッシュ・フローを基準に企業や事業プロジェクトの意思決定ないしは業績評価を実施するという側面がある.この場合,事業の選別・集中の投資意思決定基準や,分社,カンパニー,事業部などの事業単位とその責任者の業績評価基準に,キャッシュ・フロー関連の指標(フリー・キャッシュ・フローやEVA,CFROIなど)を活用する.
 また,キャッシュ・フローを向上させる事業プロセス内部の諸要因を他の財務的指標または非財務的指標に変換し,それらをコントロールするための諸方策を実施していく側面も,キャッシュ・フロー・マネジメントとして重要である.この場合,企業価値がキャッシュ・フローの関数であることから,キャッシュ・フローを向上させる諸要因をバリュー・ドライバーとよんで管理する.結局,キャッシュ・フロー・マネジメントは,企業価値創造の経営と直結していることから,これらを総称してVBM(Value Based Management)ともよばれる.→EVA,キャッシュ・フロー計算書,CFROI,事業部制会計[平岡秀福]

■キャッシュ・マネジメント・システム(cash management system)きやつしゆま 
現金もしくは流動資産を一元的に管理する手法.広い意味での運転資本管理.今日の大企業は多くの子会社から成り立っている巨大グループ企業であるだけでなく,国際化により,それらが地球規模的に点在しており,組織,通貨の種類,税制も異なるため日常的に一元管理することは困難である.しかしこれを正確に管理できれば,資金も節約でき,コストも削減できる.この資金節約,コスト削減がキャッシュ・マネジメントである.このシステム化には膨大な資金と技術が必要であり,一企業では開発できない.資金が豊富で高度なIT技術を駆使できる大銀行しか不可能だといわれているが,シティー・コープやチェース・マンハッタン銀行はこのシステムを開発してすでに大企業に売り込み,巨額の利益を得ている.日本の都市銀行はこのシステムの開発に遅れをとり,多国籍企業とのメインバンク関係が維持できなくなっているといわれ,この開発は急務の課題となっている.→運転資本管理[坂本恒夫]

■CAD/CAM(Computer Aided Design/Computer Aided Manufacturing)きやときやむ 
CADは,コンピュータの計算能力・解析能力を使用して会話形式で設計製図を行うこと.設計作業の自動化を指向する技術として,基本設計,詳細設計,生産設計といった各プロセスにおける設計製図作業の他に構造解析,熱負荷計算などや回路・配線設計,各種シミュレーションなどが含まれる.CAMはCADデータをもとに製造部門で必要とされるデータを算出すること.その範囲は生産準備,生産設計,工程設計,加工情報作成,加工,組み立て,検査の各プロセスに要するデータ,具体的にはNCデータ,製造工程管理データ作成,生産管理データ作成に及ぶ.設計と製造の一貫したコンピュータ利用からCAD/CAMとよばれる.最近では3次元CADにより,部品同士の干渉回避,試作回数・手戻り作業の削減が可能となってきた.さらにこの技術により,たとえ製品開発体制が組織的,地理的に分散していてもコンカレント・エンジニアリングが可能である.そのような事例としてボーイング「B777」開発が有名である.[加茂紀子子]

■キャドバリー報告書(Cadbury Report) 
1991年イギリスの製菓会社キャドバリー・シュウェブス社のエイドリアン・キャドバリー卿を委員長とする「コーポレート・ガバナンスの財務的側面」(The Financial Aspects of Corporate Governance)に関する委員会(キャドバリー委員会)が設置された.同委員会は1992年,取締役会内での役割分担,非業務執行取締役(Non-Executive Director)の役割,社外監査人の責任などについて,その望ましいあり方について勧告を行った(キャドバリー報告書).勧告の内容はすでにイギリス企業によって採用されている好ましい慣行でもあることから最善慣行規範(Code of Best Practice)ともよばれた.キャドバリー委員会は上場企業に対し規範の遵守状況を公表するよう求めたが,ロンドン証券取引所も遵守状況の開示を上場規則として採用することになった.イギリスのコーポレート・ガバナンスの特徴は,すべての企業に法的規制をかけ,その遵守を強制するという方法ではなく,最善慣行規範を示し,それを守るか否かは個別企業の判断に任せるが,その遵守状況は開示させて市場がこれを評価するという方法をとった点である.このようなコーポレート・ガバナンスへの取り組み方法は,ドイツ,イタリアなどのヨーロッパ諸国に浸透している.
 イギリスにおけるコーポレート・ガバナンスへの本格的な取り組みは,キャド