立田慶裕編著「読書教育のすすめ」が『全私学新聞』の書評に掲載されました。 - 2024.02.22
変容する社会と社会学
家族・ライフコース・地域社会
日本の社会学は1970年代、東大出版の第Ⅱ期社会学講座も刊行されて繁栄期を迎え、
各大学の大学院も多くの院生を抱えて活況を呈していた。
本書は、そのような1970年代に大学院教育をスタートさせた早稲田大学文学部の正岡寛司研究室出身の有志10名が、
正岡とともに世に問うものである。執筆者は、正岡研究室で社会学理論と方法論、農村社会学と親族研究、
家族社会学、ライフコース研究の指導を受けた学会の中軸となる研究者である。
各人が、変容する社会に対してそれぞれのテーマと理論、方法で切り込み、
2015年度の日本社会学会大会のシンポジウム「戦争をめぐる社会学の可能性」で報告した
正岡の特別コメント「わたしの戦争体験」も掲載されている。
本書には、一つの時代を共有した社会学研究室の世代継承が示されている。この時代を知る者にも、
また現代の若い社会学徒にもぜひ読んでもらいたい。
【執筆者】
正岡寛司、岩上真珠、大久保孝治、白井千晶、西阪 仰、安藤由美、嶋﨑尚子、西野理子、澤口恵一、
佐藤友光子、池岡義孝
Ⅰ部 家族・感情
第一章 未婚成人子の親子関係 ―ライフコースと家族の変容
一 問題の所在 / 二 成人移行期への注目 / 三 中期親子関係論の登場
/ 四 日本における未婚成人子の親子関係―府中・松本調査より / 五 結論
第二章 現代日本における「幸福の物語」のゆくえ
一 問題の所在 / 二 近代社会と「成功の物語」 / 三 「成功の物語」の機能不全
/ 四 「幸福の物語」の台頭 / 五 「幸福の物語」の機能不全 / 六 「幸福の物語」の変容
/ 七 結論
第三章 昭和初期と現代における養育困難な妊娠と養子縁組 ―籍から愛へ
一 問題の所在 / 二 現代社会における養育困難な妊娠―「生母」の語り
/ 三 昭和前期における養育困難な妊娠―産婆の語り / 四 結 論
第四章 知識と心配の道徳性 ―内部被ばく検査の結果報告を語ること/聞くこと
一 問題の所在 / 二 知識の道徳性 / 三 心配の道徳性
/ 四 説明の終局としての検査結果 / 五 知識問題と感情問題の拮抗 / 六 結論
Ⅱ部 ライフコース
第五章 戦争研究へのライフコース分析の可能性
―沖縄戦サバイバーの家族との死別出来事を中心に
一 問題の所在 / 二 ライフコース分析 / 三 沖縄戦での家族との死別出来事経験
/ 四 家族との死別の家族キャリア出来事経験への影響
/ 五 質的データからみた死別出来事とライフコース / 六 結論
第六章 炭鉱閉山と労働者・家族のライフコース ―産業時間による説明の試み
一 問題の所在 / 二 炭鉱労働者の特性と移動性 / 三 炭鉱閉山と離職者の再就職
/ 四 産業収束過程と再就職受け皿の構造:横断的説明と縦断的説明 / 五 結論
第七章 働くことの意味を探して ―パネル分析からみる三〇代への移行過程
一 問題の所在 / 二 若者の就労環境の変化 / 三 働くことの価値意識
/ 四 働くことの価値意識を変えるものをとらえる
/ 五 性別、卒業時の環境、そして職場状況の影響
/ 六 イベント、時間、ライフコースの影響 / 七 結論
第八章 なぜ日本人シェフはフランスで開業ができたのか?
―ガストロノミーの組織フィールドにおけるキャリアの生成
一 問題の所在―組織フィールドと職業集団
/ 二 ガストロノミーをめぐる組織フィールドの生成 / 三 信頼の形成と海外就労の制度化
/ 四 移民労働者の抑制と同業者集団の適応 / 五 上昇移動を生む構造とエージェンシー
/ 六 時代と参入タイミングの効果
/ 七 結論―組織フィールドにおけるライフコースの生成史研究の可能性
Ⅲ部 地域社会
第九章 中山間の地域再生と区長制 ―高知県高岡郡梼原町を事例として
一 問題の所在 / 二 梼原町の概要と現況 / 三 梼原町の住民性と地域文化
/ 四 伝統的自治システムとしての区長制について / 五 結論
第一〇章 喜多野清一の農村社会学への道程 ―初期研究の背景とその展開過程
一 問題の所在 / 二 初期研究の範囲 / 三 初期研究以前
/ 四 研究業績にあらわれた初期研究 / 五 村に入るための準備 / 六 結論
補論 社会学再考 ―からだ・こころ・つながりの人間科学を目指して
一 はじめに / 二 生ける身体と感情の重要性 / 三 社会学の誤謬
/ 四 からだ・こころ・つながりの連投と重層状態
/ 五 暫定的なむすび ―次稿につなげるために